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男女完全隔離された名門学園都市。秘密の許嫁(銀髪ポニテ会長)に一途な俺は、女子生徒会からのアプローチをすべて勉強と科学で論破する  作者: 湊楓


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第2話:全男子が崇拝する神Vtuber、実は俺の許嫁なんです

第2話は、高さ15メートルの壁によって女子と断絶された男子校舎の「絶対的オアシス」であり、全男子生徒が魂を捧げる神Vtuber『ルナ』の配信回です。

夜空色の髪を揺らす美少女アバターの口から語られる「あの方」とは一体誰なのか――?

男子たちの狂乱と、湊の抱える「甘くて重すぎる真実」をぜひお楽しみください!

入学初日の夜。

蒼穹学園都市の東校舎エリアにある男子学生寮は、昼間とはまるで異なる異様な熱気に包まれていた。

昼の入学式では、高さ15メートルの要塞壁『規律の障壁』を前にして大地に突っ伏し、「女子に会わせろぉ!」と血の涙を流していたはずの男たちである。

その後、理事長から「試験で学年トップを取るか、武道で頂点を極めれば女子に会える」という特権ルールを聞かされ、猛烈な勢いで参考書を開いたり腕立て伏せを始めたりしていた彼らだったが――夜の20時を過ぎたあたりから、寮内の空気は別のベクトルへと急旋回していた。

大浴場から上がってきた男たちが、鬼気迫る表情で各フロアの共有ラウンジへと吸い込まれていく。

「おい、通信端末のバックグラウンドアプリは全部落としたか!?」

「学内Wi-Fiの帯域制限に引っかかるなよ! 有線LANポートに直結しろ!」

「あと十分だぞ! トイレは今のうちに済ませておけ!」

怒号と足音が廊下に木霊(こだま)する。

まるでこれから国家の存亡を懸けた防空演習でも始まるかのような緊迫感だった。

その異様な光景を横目に、売店で買ってきた緑茶のペットボトルを手に自室へ戻ろうとしていた俺――如月湊は、ラウンジの中央で完全に固まることになった。

「……西条。お前、その格好は何だ」

「おお、湊か! 邪魔するな、今精神統一の最中なんだよ!」

そこにいたのは、昼間に壁の前で額を打ち付けて号泣していた読モ風イケメン、西条虎太郎だった。

だが、その姿は昼間のスタイリッシュな面影など微塵も残っていなかった。

頭には『月光祈願』と極太の毛筆で染め抜かれた白いハチマキ。

羽織っているのは、背中に美少女のシルエットがフルカラーでプリントされた漆黒の法被(はっぴ)。

そして両手には、青と銀のケミカルライトが指の間に何本も挟み込まれ、阿修羅像のように構えられている。

床に正座し、巨大モニターを見つめるその眼光は、完全に宗教の信者そのものだった。

「消灯時間の22時を過ぎてその格好でうろつけば、生活指導の教官に即刻連行されるぞ」

「うるせえ! 停学になったって構うもんか! 今夜21時が何の時間か、お前まさか知らないわけじゃないだろうな!?」

「知らないが」

「無知蒙昧(むちもうまい)め! 耳の穴をかっぽじってよく聞け! 今夜21時はな、俺たち壁の中に幽閉された哀れな迷える子羊たちの唯一の希望! 電脳の女神にして絶対神――個人勢トップVtuber『ルナ様』の、高校入学記念雑談配信の開演時間なんだよぉぉぉっ!」

虎太郎が両手のペンライトを激しく交差させながら、喉が千切れんばかりに叫んだ。

その声に呼応するように、ラウンジに集まっていた数十人の男子生徒たちが「オオオオッ!」と野太い雄叫びを上げる。暑苦しい。部屋の湿度が確実に3パーセントは上昇した気がした。

「……登録者数五十万人を超える、個人勢としては極めて異例の怪物配信者だ」

背後から、乾いた冷徹な声が響いた。

見ると、眼鏡の知性派ツッコミ、佐伯晴彦が胃腸薬の小瓶を胸ポケットから取り出しながら歩み寄ってくるところだった。

「佐伯、お前も見るのか?」

「見るわけがないだろう。私はただ、騒音トラブルによって寮則第14条が適用されないよう監視に来ただけだ。……だが、あの『ルナ』という配信者が、この男子校舎において異常なまでの影響力を持っているのは事実だ。完全隔離によって女子との接触を断たれたこの学園の男子にとって、彼女の存在はもはや娯楽を超えた精神安定剤、いや、信仰の対象と化している」

「信仰って……ただのネット配信だろう」

「ただの配信ではない!」

虎太郎が血走った目を剥いて割り込んできた。

「ルナ様はな、企業の後ろ盾が一切ない完全な個人勢なんだ! なのに、あの天上の星々が零れ落ちたような美声! 息を呑むような気品! そしてリスナーへの限りない慈愛! この世のあらゆる美徳を凝縮した存在なんだよ! 女子と喋れない俺たちにとって、ルナ様だけが唯一の救いなんだ! お前も正座しろ湊! 画面の前に跪(ひざまず)いて神を拝め!」

「丁重にお断りする。膝関節の過度な屈曲は血流を阻害するだけだ」

俺は冷ややかに告げ、ラウンジを後にしようと踵(きびす)を返した。

だが、その足取りは普段よりほんの少しだけ速かった。

虎太郎たちのバカ騒ぎに巻き込まれたくないからではない。

時刻が、すでに20時58分を指していたからだ。

(……危ない。早く部屋に戻らないと、配信の冒頭を見逃す)

足早に自室へと戻り、防音扉をしっかりと閉める。

机の上のノートPCを立ち上げ、有線イヤホンを耳に差し込む。ブラウザを開いて動画サイトへアクセスすると、そこにはすでに待機画面が表示されていた。

待機人数は、すでに平日の夜にもかかわらず3万人を超えている。コメント欄は世界各国の言語で「待機!」「ルナ様!」「今日も愛してます!」の弾幕が超光速でスクロールしていた。

そして、壁掛け時計の針が重なり――21時ジャスト。

ポーン、という澄んだ電子音と共に待機画面が暗転し、満天の星空が広がる3D背景がモニターいっぱいに映し出された。

次の瞬間、男子寮の廊下のあちこちから、防音扉を貫通して「ウオオオオオオッ!!」「ルナ様ァァァッ!!」という地鳴りのような咆哮が響いてきた。

画面の中央に、すっと光の粒子が集まっていく。

現れたのは、息を呑むほど美麗な3Dアバターだった。

夜空の深淵を溶かし込んだような、艶やかなミッドナイトブルーの髪。

その毛先には、淡い月光のような繊細なシルバーのグラデーションが施され、動くたびに星屑のようにきらめいている。

髪型は、ふわりと右肩の前へと流された優美なサイドテール。

凛とした藍色の瞳、透き通るような白い肌、そして星の軌跡を象(かたど)った上品なオフショルダーのドレス。

彼女こそが、ネット上を席巻する個人勢Vtuber――『ルナ』。

アバターが、画面の向こうで柔らかく微笑み、小さく手を振った。

スピーカーから、涼やかで、どこか鈴の音を思わせる透き通った美声が鼓膜へと滑り込んでくる。

『――リスナーのみんな、こんばんは。ルナだよ』

その一言が響いた瞬間、チャット欄のスクロール速度が肉眼で追えないレベルへと跳ね上がった。

『ルナ様ァァァァァ!!』

『いつ見ても神々しくて溶けてしまいそう!』

『可愛すぎて同じ世界に生きているとは思えない……!』

『今日も生きててよかった!』

『入学おめでとうございますルナ様!!』

全肯定と崇拝の弾幕。

虎太郎たちが正座して涙を流すのも無理はないと思わせるほどの、圧倒的なカリスマと清廉さがそこにはあった。

アバターは上品に小首を傾げ、サイドテールの毛先を指先で弄(もてあそ)びながら、楽しそうに笑い声を漏らす。

『ふふっ、みんな今日もすっごく元気だね。チャットが早すぎて全然読めないよ。……うん、みんなのお祝いの言葉、ちゃんと届いてるよ。ありがとう』

他愛のない挨拶が続き、配信は雑談パートへと移行していく。

リスナーからのお祝いコメントをいくつか拾い、感謝を述べていたルナだったが――ふと、アバターの表情が少しだけ曇った。

藍色の瞳が伏せられ、白い頬にほんのりと、恥じらうような桜色の赤みが差す。

『あのね、みんな。今日ね……私、新しい高校の入学式だったの』

チャット欄が「おめでとう!」「JKルナ様助かる!」の文字で埋まる。

だが、ルナの次の言葉が、その熱狂の空気を一変させた。

『とっても素敵な学校でね。すっごく可愛い、新しい制服を着たんだよ。鏡で見たら、自分でもちょっとだけドキドキしちゃうくらい、素敵なデザインで……』

ルナは両手を胸の前でギュッと握りしめ、吐息混じりに言葉を紡ぐ。

その声には、配信者としての営業トーンではない、生々しいまでの「一人の恋する少女」の熱が宿っていた。

『……でもね。すっごく高くて、絶対に越えられない壁があってね。私が一番見てほしい“あの方”には……私のこの制服姿、見てもらえなかったの』

――ピキリ。

モニターの向こうのチャット欄が、一瞬だけピタリと止まった。

そして、次の瞬間。

『え?』

『あの方???????』

『ちょ、待て、あの方って誰!?』

『壁って何!? 比喩!? 物理的な壁!?』

『ルナ様に好きな人がいるってこと……!?』

『嘘だろおおおおおおおおっ!?』

ドォォォォォォォン!! と、男子寮の廊下が文字通り爆発した。

隣の部屋からも、階下の部屋からも、絶叫と物が倒れる凄まじい破壊音が響いてくる。

「あの方って誰だああああああああっ!!」

「ルナ様! 俺じゃダメなんですかルナ様ァァァッ!!」

「待て落ち着け! 『あの方』とは神話の神のことだ! 概念だ! 実在の男のはずがない!」

「そうだ、概念に決まってる! 比喩表現だあああああっ!」

現実逃避とパニックの怒号が吹き荒れる中、配信画面のルナは、そんなリスナーの動揺など意に介さない様子で、カメラ――画面のこちら側をじっと見つめていた。

その潤んだ瞳は、まるでモニターの液晶を透過して、俺自身の目を真っ直ぐに射抜いているかのようだった。

『ねぇ、リスナーのみんな。“あの方”は……私のこの新しい制服姿、可愛いって言ってくれるかな?』

鈴を転がすような、あまりにも甘く、切実な問いかけ。

そしてルナは、ふっと儚げに微笑むと――胸元にそっと左手を添えた。

祈りを捧げるような、ファンへの感謝を示すポーズ。

一見すれば、美少女Vtuberが見せる可憐なファンサービスの仕草にしか見えないだろう。

だが。

その左手の動きを、俺の目は見逃さなかった。

胸に当てられた左手の、薬指。

その指先だけが、トン、トン、と二回、自分の胸を小さく叩いていた。

リスナーたちには決して伝わらない。

だが、俺には痛いほどに分かってしまう、二人だけの暗号。

幼い頃、如月家の庭先で、お互いに小指を絡め合わせて誓った時の約束――『私の薬指は、未来の湊くんのためだけのものだよ』という、あの日のサインそのものだった。

『――私はね、どんなに高い壁に邪魔されたって、絶対に諦めないよ。だって私の心は、ずっと昔から……“あの方”だけのものなんだから』

画面の向こうで、ルナが誇らしげに、そして激重な愛を込めて微笑む。

チャット欄は完全に阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

『あの方になりてえええええええっ!!』

『許せねえ! どこのどいつだその「あの方」って奴は!』

『同性か異性かすら分からんが、嫉妬で狂いそう!』

廊下の向こうからは、虎太郎の「お方が羨ましすぎるぅぅぅぅっ! ギロチンにかけてやるぅぅぅっ!」という怨嗟(えんさ)の叫びが聞こえてくる。

一方。

自室のデスクの前で、俺はヘッドホンを押さえながら、深々と頭を抱えていた。

「……あの方って、どう考えても俺のことだろ、凛花」

声のトーン、息を吸う微かなタイミング、言葉の語尾の癖。

何より、幼少期から何百回、何千回と聞き続けてきた最愛の許嫁の声が、機械のフィルターを一枚通した程度で聞き分けられないはずがなかった。

アバターのビジュアルは、リアルの凛花(銀髪の凛々しいハイポニーテール)とは意図的に変えてある。

夜空色のミッドナイトブルーに、ふんわりとしたサイドテール。

見事な身バレ対策だとは思うが、中身から溢れ出る激重感情の隠蔽(いんぺい)工作が完全にザルすぎる。

(登録者五十万人の前で何というとんでもない爆弾を投下してるんだ……! 全世界に向けて私信を飛ばすな! 男子寮が半分壊滅しかけてるぞ!)

内心で猛烈にツッコミを入れながらも、俺の心臓は早鐘のように激しく脈打っていた。

胸の奥がぎゅっと締め付けられ、両耳が燃えるように熱い。

画面の中で、ルナは少しだけ寂しそうに伏し目がちになり、名残惜しそうに配信の終了を告げようとしていた。

あんなに大勢のリスナーに囲まれ、神のように崇拝されていながら、彼女の瞳が求めているのは、壁の向こうにいる俺ただ一人なのだ。

(……可愛いよ、凛花)

誰もいない部屋の中で、俺は小さく呟いた。

(直接見られなくたって、分かる。お前の制服姿が、世界で一番綺麗で似合ってることくらい……俺が誰よりも知ってる)

壁の向こうの西校舎で、彼女も一人、配信機材の前で俺のことを想ってくれている。

他の男たちがどれほど熱狂し、血眼になって「あの方」の正体を探そうとも、その特等席にいるのは世界中で俺一人だけなのだ。

その幸福感と責任の重さに、俺は自然と口元を緩ませていた。

画面が暗転し、配信が終了する。

寮内の狂乱も、消灯時間のベルと共に少しずつ静まっていった。

俺はPCの電源を落とし、ベッドに横たわると、天井の闇を見つめた。

壁を越えなければならない理由が、また一つ増えてしまった。

待っていろ、凛花。

お前のその重すぎる愛を、誰にも邪魔させず、正面から受け止めてみせるからな。

――そして、翌朝。

昨晩の配信の余韻と、夜更かしによる寝不足を引きずった重い空気の中、俺は呼び出し状に指定されていた東校舎の生徒会役員室の前に立っていた。

ドアノブに手をかけ、静かに押し開ける。

「失礼します。新入生の如月湊です。……呼び出しに応じて参りました」

部屋の中に足を踏み入れた瞬間、俺は室内に漂うただならぬ重苦しい空気に眉をひそめた。

部屋の奥、重厚な革張りのソファに腰掛けていたのは、政治家名閥の跡取りであり新入生総代の御手洗征四郎。

その隣には、机の上に胃腸薬の瓶をずらりと並べ、こめかみを押さえている佐伯晴彦。

そしてパイプ椅子には、昨晩の配信で泣き叫びすぎたのか、両目を真っ赤に腫らした西条虎太郎が力なく項垂(うなだ)れていた。

征四郎が、組んでいた腕を解き、鋭い眼光で俺を見据える。

「よく来たな、如月。昨日の呼び出しの件だ。……我々新入生が、なぜ入学初日にしていきなり生徒会執行部に選ばれたか。その理由を、貴様にも話しておかねばならん」

「理由、ですか」

俺が問い返すと、佐伯が深く重いため息をつきながら眼鏡を押し上げた。

「単刀直入に言おう、如月。本来、生徒会を統括すべきであった前年度の2年生徒会役員は――全員、散った」

「散った……?」

穏やかではない単語に、俺がわずかに目を細める。

佐伯は、まるで戦死した戦友の記録を読み上げるかのような沈痛な面持ちで、手元の分厚いファイルを捲(めく)った。

「そうだ。彼らは春休み中、あの高さ15メートルの『規律の障壁』を越えようと試み……理事長直属の迎撃ドローン部隊によって、一人残らず撃墜されたのだ」

学園を揺るがした前代未聞の事件の真相が、今、明かされようとしていた――。

第2話をお読みいただき、誠にありがとうございました!

男子校舎の絶対神であるVtuber『ルナ』の正体は、湊への激重純愛を全世界に匂わせまくる許嫁・月城凛花でした。

「あの方」の正体がバレたら虎太郎たちに抹殺されかねない湊ですが、画面越しの二人の絆は誰にも引き裂けません。

そしてラスト、生徒会室で明かされた「前生徒会の全滅」という不穏すぎる事実……!

次回、第3話もお楽しみに。

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