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男女完全隔離された名門学園都市。秘密の許嫁(銀髪ポニテ会長)に一途な俺は、女子生徒会からのアプローチをすべて勉強と科学で論破する  作者: 湊楓


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第1話:高さ15メートルの壁の向こうに、俺の最愛の許嫁がいる

はじめまして、あるいはご覧いただきありがとうございます!

本作は、高さ15メートルの要塞壁によって男女が完全隔離された名門校を舞台に、美少女たちからの猛烈なアプローチを「知識」で淡々と論破していく秀才男子と、壁の向こうにいる秘密の許嫁との一途な純愛を描くハイテンション学園ラブコメディです。

それでは、波乱の学園生活の幕開けをどうぞお楽しみください!

雲ひとつない、抜けるような春の青空だった。

柔らかな日差しが桜の花びらを揺らし、真新しいブレザーに身を包んだ少年たちが、希望に胸を膨らませて巨大な東正門をくぐっていく。

国家の政財界、法曹、医療、学術の頂点を担うエリートの子息・令嬢のみが集う全寮制の巨大学園都市――私立・蒼穹(そうきゅう)学園。

東京ドーム数十個分に匹敵するその広大な敷地に足を踏み入れた瞬間、新入生男子たちを待っていたのは、しかし、華やかな青春のキャンパス風景などでは断じてなかった。

「……お、おい。嘘だろ……?」

「冗談だろ……? ネットの掲示板に書かれてたのって、ネタじゃなかったのかよ……!」

誰かがぽつりと呟いた絶望の声を皮切りに、門前は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。

新入生男子たちの視線の先。

見上げる空を、まるで冷酷な巨大ナイフで真っ二つに切り裂くようにそびえ立っていたのは――高さ15メートル、厚さ3メートルを超える、灰色の巨大鉄筋コンクリート要塞壁だった。

壁の頂部には侵入者を拒む高圧電流ワイヤーが幾重にも張り巡らされ、上空には威嚇音を低く響かせる黒塗りの監視ドローンが等間隔で旋回している。

東校舎(男子エリア)と西校舎(女子エリア)を完全に分断する、この学園の象徴。

正式名称――『規律の障壁(ディシプリン・ウォール)』。

もちろん、入試の段階で何も知らされていなかったわけではない。

学校案内パンフレットにも、募集要項にも、「本学は徹底した男女別学規律を採用しております」と確かに記載されていた。

だが、十代半ばの血気盛んな男子中学生たちが思い描いていた「男女別学」とは、せいぜい中庭に背の高いフェンスが張ってあるとか、ちょっとした並木道で仕切られている程度のものだったのだ。

放課後にフェンス越しに女子と目配せをしたり、あわよくば金網の隙間から連絡先のメモを渡す――そんな淡い青春の妄想を抱いて、彼らは難関入試を突破してきたのである。

それが、蓋を開けてみればどうだ。

目の前にあるのは、フェンスどころか冷戦時代のベルリンもかくやというガチの軍事要塞だった。

女子の姿が見えないどころか、壁が高すぎて西側の校舎の屋根すら視界に入らない。

隙間なく噛み合わされたコンクリートの継ぎ目は、アリ一匹の通過すら許さぬ鉄壁の拒絶を放っていた。

「うわああああああっ! ガチのベルリンの壁じゃねえかぁぁぁぁっ!」

「女子の制服どころか、空気の分子すら届かねええええっ!」

バタリ、と一人の派手な茶髪の男子生徒が膝から崩れ落ち、地面を拳で叩いて号泣した。

大病院グループの御曹司であり、雑誌の読者モデルのような端正な顔立ちをした西条虎太郎である。

虎太郎は灰色の壁に這い寄ると、額をコンクリートに激突させながら絶叫した。

「神よ! なぜ俺たちから女子を奪うのですか! 匂いだけでも……せめてシャンプーの残り香だけでも、風に乗せてこちらへ運んでくださぁぁぁい!」

「見苦しいぞ西条。額を擦り付けるのをやめろ。コンクリートの粉末が制服に付着して繊維を傷めるだけだ」

その隣で、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら冷ややかに見下ろしていたのは、最高裁判事の家系に生まれた知性派、佐伯晴彦だった。

佐伯は抱えていた分厚い法規集で虎太郎の背中を小突くと、深く重いため息をつく。

「事前に学則を読み込んでいなかった貴様の過失だ。もっとも……この構造物は建築基準法および消防法の観点から極めてグレーゾーンと言わざるを得んがな。入学初日から頭痛薬を飲む羽目になるとは思わなかった」

「うるせえ佐伯! お前は悔しくないのかよ! 俺たちの輝かしいハイスクール・ラブが、この高さ15メートルのバケモノにへし折られたんだぞ!」

「悔しい以前に、物理的に登攀(とうはん)不可能な事実を受け入れているだけだ。」

男子生徒たちの間では、すでにこの壁に対して様々なスラングが飛び交っていた。

額を押し当てて祈る者が絶えないことから『嘆きの壁』。

東西の完全な冷戦状態を揶揄した『アイアン・カーテン(鉄のカーテン)』。

だが、どれほど自虐的な名前で呼ぼうとも、青空を遮る圧倒的な絶望の質量が変わることはない。

「フン……軟弱な嘆き声を上げるな、貴様ら」

重厚で野太い声が、騒然とする場内を一喝した。

長身を凛と伸ばし、ブレザーを隙なく着こなした少年――政治家名閥の跡取りであり、新入生総代の御手洗征四郎が腕組みをして立っていた。

その圧倒的な威厳に、喚き散らしていた男子たちが息を呑む。

「この蒼穹学園は、国家の未来を担う真のエリートを育成する場だ。色恋にかまけて勉学を疎かにする惰弱者など、最初からこの門をくぐる資格はない。規律を遵守し、己を鍛錬することこそが我らの本分である!」

さすがは名門の御曹司、なんと気高い精神か――と周囲が感嘆しかけたその瞬間、征四郎の右眉がピクピクと痙攣した。

彼の視線は、壁の最上部に設置された監視カメラの赤いランプを捉えており、その背筋は微かに震えている。

(……母上。見ておられますか……。私は言われた通り、厳格に振る舞っております……ですからどうか、抜き打ちの私物検査だけはご容赦を……!)

征四郎の威厳の裏にあるのは、崇高な理念などではなく、この要塞壁を建造した張本人――実の母親に対する純度100パーセントの恐怖だった。

そんな阿鼻叫喚と虚勢が入り乱れる喧騒の中。

俺――如月湊(きさらぎ みなと)は、ただ一人、静かに制服のネクタイを整え直していた。

切れ長の目元を細め、見上げる壁の高さは15メートル。

角度にしておよそ70度。

そびえ立つ巨壁は、確かに圧倒的だ。

だが、俺の心には絶望など一片も存在していなかった。

(相変わらず、無茶苦茶な建造物だな……)

俺の実家は、創業100年を超える老舗製菓財閥「如月グループ」だ。

幼い頃から食品科学や原料の配合、温度管理といったミリ単位の精密な世界で育てられてきた俺にとって、物事を感情論で捉える癖はない。

この壁が作られた「真の理由」も、俺は入学前から正確に把握していた。

建前は「エリート育成のための色恋の遮断」。

だが、その実態は極めて個人的で、身も蓋もない私怨だ。

学園の理事長である征四郎の母が、若かりし頃、現校長である夫に対して抱いた「男は少しでも隙を見せると他の女に鼻の下を伸ばす」という強烈なトラウマと猜疑心。

それが莫大な財力と権力によって具現化された結果が、この高さ15メートルのコンクリート塊なのだ。

とんだとばっちりだが、嘆いたところで物理法則が覆るわけではない。

そして何より――俺がこの蒼穹学園に入学した理由は、周りの連中のように「あわよくば女子とイチャつきたい」などという浅ましい下心ではないのだ。

俺の目的は、ただ一つ。

あの壁の向こう――西校舎にいる、たった一人の少女に会うこと。

月城凛花(つきしろ りんか)。

次期総理候補の政治家を父に持ち、元華族の母から受け継いだ息を呑むような銀髪を持つ少女。

両家の親同士が親友であったことから、俺と凛花は幼少期に許嫁の契りを交わしていた。

世間一般で言う「政略的な許嫁」という言葉は、どこか冷たく、義務的な響きを伴うかもしれない。

だが、俺たち二人は違った。

幼い頃、如月家の厨房で俺が初めて作った不揃いな砂糖菓子を、凛花はまるで世界で一番の宝物のように両手で包み込み、「湊(みなと)くんのお菓子、世界で一番甘くて美味しい」と天使のような笑顔を咲かせたのだ。

その日から今日に至るまで、俺の心は一ミリたりとも揺らいだことはない。

そして凛花もまた、俺に対して狂おしいほどの一途な想いを注ぎ続けてくれていた。

お互いがお互いしか見ていない、完全無欠の相思相愛。

高校進学にあたり、この男女隔離の要塞学園にそれぞれ東と西で入学させられると決まった夜、凛花は電話口で声を震わせていた。

『湊くん……私、壁なんかに負けないよ。どんなに離れていても、私の心は湊くんだけのものだからね』

その言葉が、今も俺の胸の奥で熱く脈打っている。

だからこそ、俺にとってこの壁は絶望の象徴ではない。

織姫と彦星を隔てる『天の川(ミルキーウェイ)』――いつか知略と努力によって飛び越えてみせるべき、試練の境界線に過ぎないのだ。

『――東校舎、新入生諸君。大講堂へ速やかに集合しなさい』

頭上の大型スピーカーから、冷徹で機械的なアナウンスが響き渡った。

我に返った男子生徒たちが、重い足取りで講堂へと向かって歩き出す。

大講堂の内部は、異様な空気に包まれていた。

ステージ上に壇上はなく、代わりに設置されていたのは映画館のスクリーンよりも巨大な超高精細LEDモニターだった。

男女完全隔離の徹底ぶりは徹底しており、入学式すら合同では行われない。

男子生徒が東の大講堂に集められ、女子生徒は西校舎の講堂に集められ、式典はリモート中継で同時進行されるのだ。

定刻になると、モニターの画面が切り替わった。

映し出されたのは、学園の理事長室。

デスクに腰掛け、冷ややかな視線をレンズ越しに投げかけてくる一人の女性――学園の絶対支配者、御手洗理事長その人だった。

切れ長の瞳、理知的な銀縁眼鏡、寸分の狂いもなく整えられた夜会巻きの黒髪。

画面越しであるにもかかわらず、その氷点下のプレッシャーに講堂内の男子生徒数百名が一斉に息を呑み、空気が凍りついた。

隣の征四郎が、喉を「ヒュッ」と鳴らして直立不動になっているのが視界の端に見える。

『新入生諸君、蒼穹学園への入学を歓迎します』

理事長の声は、冷たく、低く、一切の感情を削ぎ落とした氷の刃のようだった。

『諸君らはすでに、校舎の中央にそびえ立つ「規律の障壁」を目にしたことでしょう。愚かな者たちはあれを理不尽と嘆き、前時代的と罵るかもしれない。しかし、断言しておきます。男女の安易な接触、脳内で分泌されるフェニルエチルアミンに支配された色恋沙汰など、知的生産性を著しく低下させる怠惰の温床に過ぎません』

身も蓋もない言い草だった。

だが、客観的な事実として、恋愛感情による判断力の低下や学業への支障を脳科学的な観点から語られると、エリート街道を走ってきた男子生徒たちはぐうの音も出ない。

『諸君らが成すべきは、国家の礎となる知性の錬磨であり、強靭な肉体と精神の鍛錬です。ゆえに本学園において、許可なき男女の接触、私信のやり取り、境界を越えようとする一切の試みは重罪とみなします。違反者には即座の停学、あるいは退学処分を下します』

講堂のあちこちから、絶望を押し殺したようなすすり泣きが漏れ聞こえた。

虎太郎などは、すでに魂が口から半分抜け出たような顔で虚空を見つめている。

やはり、3年間完全に女子と断絶された暗黒の男子校生活を送るしかないのか――誰もがそう諦めかけた、その時だった。

理事長が、すっと眼鏡のブリッジを押し上げた。

その冷徹な唇の端が、わずかに吊り上がる。

『――ただし。本学園は徹底した実力至上主義の園でもあります』

張り詰めた沈黙の中、理事長の一言が凛と響いた。

『真に自らを律し、他者を圧倒する知性と武威を示した「選ばれしエリート」にのみ、例外を認めましょう。定期考査において学年最上位を維持した者、あるいは武道大会において極めて優秀な戦績を収めた者には、特権が付与されます』

スクリーンに、いくつかの文字が投影された。

『東西合同特別ゼミナール参加権』

『中央境界施設における合同研究特権』

『これら特権を得た優秀者のみ、中央管理タワーにおける女子生徒との直接交流、および合同学習を特別に許可します。男女が同じ空間に身を置くことを許されるのは、互いを高め合える真の覇者のみ。……不満があるならば、己の頭脳と筋肉で証明してみせなさい』

プツン、と通信が切断され、スクリーンが暗転した。

講堂の中を、数秒間の完全な静寂が支配した。

誰もが息を止め、今提示された「唯一の救済措置」の意味を頭の中で反芻していた。

そして――。

「……おい」

「聞いたか……? 今、理事長が言ったこと……」

「定期考査でトップを取るか、武道で頂点に立てば……」

「女子に、会える……!? 同じ部屋で、直接話ができるのかぁぁぁぁっ!?」

ドォォォォォン!! と、講堂の屋根が吹き飛ぶのではないかという地鳴りのような咆哮が巻き起こった。

絶望に打ちひしがれていた男子生徒たちの瞳に、凄まじい光が灯る。

それは希望などという生易しいものではない。飢えた野獣が獲物を見定めた時の、血走った執念の炎だった。

さっきまで地面に突っ伏していた虎太郎が、ガバッと跳ね起きて両拳を天井へ突き上げる。

「勉強だああああああっ! 参考書を持ってこい! 過去問を寄越せえええっ!」

「おい誰か単語帳余ってないか! 今すぐ英単語を1万個暗記してやる!」

「腕立て伏せだ! スクワットだ! 筋肉をつけて武道で頂点を極めれば女子に会えるんだろおおおおっ!」

講堂のあちこちで、制服を脱ぎ捨てて腕立て伏せを始める者、カバンから猛烈な勢いで分厚い問題集を引っ張り出す者が続出した。

阿鼻叫喚の絶望空間が、わずか数秒で「世界で最も熱血な超ポジティブ受験予備校兼体育会道場」へと塗り替わった瞬間だった。

単純すぎる。だが、この圧倒的なバカバカしさとバイタリティこそが、男子校舎の真骨頂と言えた。

「……やれやれ。騒がしい連中だ」

佐伯がこめかみを押さえ、早くもポケットから胃腸薬のシートを取り出している。

征四郎は腕組みをしたまま、「うむ! 動機はどうあれ、勉学と鍛錬に励むのは良いことだ!」と力強く頷いているが、その背後では男子生徒たちが咆哮を上げながら机を担ぎ上げていた。

狂乱の講堂を後にし、俺は一人、春風が吹き抜ける渡り廊下へと歩を進めた。

中庭の向こうには、依然として高さ15メートルの『規律の障壁』がそびえ立っている。

見上げる空は青く、遠い。

だが、道筋は完全に定まった。

学業で頂点を取るなど、俺にとっては最初から当然の通過点に過ぎない。

如月家の跡取りとして叩き込まれてきた帝王学と、幼少期から研鑽を重ねてきた学問のすべてを注ぎ込めば、学年トップの座を譲る気など毛頭なかった。

(待っていろ、凛花)

制服の内ポケットにそっと手を当てる。

そこには、学園に入る直前、凛花から手渡された小さな銀色のお守りが入っていた。

中に入っているのは、幼い頃に二人で交わした秘密の約束を記したメモ。

周囲の男子たちが夢見るような、不特定多数の女子との浮ついた青春など、俺には一片の価値もない。

俺が向かうべき場所は、あの壁の向こう。

凛花、お前ただ一人の隣だけだ。

どれほど分厚いコンクリートが立ち塞がろうと、どれほど厳しい校則が阻もうと関係ない。

俺はお前の元へ行く。そして、誰よりも正々堂々と、お前の手を握り返してみせる。

決意を胸に歩き出したその時、俺のブレザーのポケットで、学園から支給された情報端末が小さく電子音を鳴らした。

画面をタップして通知を開く。

『如月 湊 殿。至急、東校舎・生徒会役員室へ出頭されたし――』

発信人は、東校舎生徒会。

どうやら、俺の高校生活は、のんびりと授業を受けるところからスタートするわけではないらしい。

俺は口元に微かな笑みを浮かべると、生徒会室へと続く階段を静かに上り始めた。

――この時、俺はまだ知らなかった。

壁の向こうの最愛の許嫁が、ネットの世界でとんでもない「神」として君臨していることも。

そして、俺たちの純愛を阻むかのように、強烈すぎる美少女たちが次々とハニートラップを仕掛けてくることになる未来も――。

第1話をお読みいただき、誠にありがとうございました!

高さ15メートルの要塞壁を前に、一瞬で「勉強と筋トレのマシーン」と化した男子校舎の熱狂と、最愛の許嫁・月城凛花のために迷わず頂点を目指す湊の物語がここから動き出します。

次回、第2話もお楽しみに。

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