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男女完全隔離された名門学園都市。秘密の許嫁(銀髪ポニテ会長)に一途な俺は、女子生徒会からのアプローチをすべて勉強と科学で論破する  作者: 湊楓


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第10話:如月くん、手芸ってバカにしないの?

172cmの長身金髪ギャル・城崎愛莉によるゼロ距離密着ハニトラでしたが、湊の「お茶の香りが消える&息が蒸し暑い」というツッコミによって見事に撃退されました!

第10話は、慌てて飛び出した愛莉が落としていった「手縫いのウサギマスコット」を巡る、ギャップ萌え全開のエピソードです!

世界的アパレル社長の母やモデルの姉たちを持ち、派手なギャルとして振る舞いながらも、ずっと手芸という純情な趣味を隠し続けてきた愛莉。

「ギャルのくせに手芸オタクなんてキモいってバカにするんでしょ!」と涙目で身構える彼女に対し、老舗製菓財閥の跡取りである湊が放った言葉とは――!?

相手の努力を素直に認める湊の誠実さと、強気なギャルが一瞬で真っ赤になって自爆する姿をたっぷりとお楽しみください!

ガラッ!

給湯室の木目調のドアが、けたたましい音を立てて再び勢いよく跳ね上がった。

そこに立っていたのは、肩を激しく上下させ、額にびっしりと冷汗を浮かべた城崎愛莉だった。

百七十二センチの長身モデル体型をワナワナと震わせ、ゴールドのゴージャスな巻き髪は大きく乱れている。

大会議室へ戻る廊下の途中で異変に気づき、全力疾走で引き返してきたのだろう。

愛莉は血相を変え、まるでこの世の終わりでも目撃したかのように大きく目を見開き、給湯室の床を必死に見回していた。

「な、ない……! どこ……!? 嘘でしょ、落とした……!? どこ行っちゃったのよぉぉぉ……!」

パニックを起こして半泣きになりながら床を探す愛莉。

だが、その視線が給湯カウンターの前で直立している俺へと向かい――そして、俺の開かれた右手のひらの上へと留まった瞬間。

ヒュッ、と。

愛莉の喉から、息を呑む小さな音が漏れた。

彼女の白く滑らかな肌から、サーッと血の気が引いていくのが見て取れた。

瞳孔が極限まで収縮し、潤んだ大きな瞳が信じられないものを見るように見開かれる。

俺の手のひらには、淡いパステルピンクとクリーム色のフェルト生地で作られた、手のひらサイズのウサギのマスコット・チャームが静かに乗っていた。

「あ…………」

愛莉の唇が小刻みに震えた。

次の瞬間、彼女は弾かれたように駆け寄ってくると、俺の手のひらからウサギのマスコットをひったくるように奪い取った。

「み、見ないでぇぇぇぇッッ!」

悲鳴のような叫び声とともに、愛莉はウサギのマスコットを両手で包み込み、自分の胸元へと強く、強く抱きしめた。

そのまま俺から二歩、三歩と後ずさり、給湯室の壁際まで後退する。

その姿は、先ほど俺をカウンターに追い詰めて「アタシのリップ、どう思う?♡」などと挑発的に迫ってきたカリスマギャルとは、まるで別人のようだった。

長身の体を小さく縮こまらせ、肩をいからせ、まるで敵陣に囲まれた子鹿のように俺をキッと睨みつけている。

だが、その強がりな視線の端には、いまにも零れ落ちそうな大粒の涙がじんわりと滲んでいた。

「……見、見たわね……?」

愛莉の声は、怒りと恐怖で小さく震えていた。

「見たんでしょ……! アンタ……それ……見ちゃったんでしょ……!?」

「ええ。あなたが慌てて部屋を出て行かれた際、胸ポケットから床へ落ちましたので、拾い上げました」

俺は至って落ち着いた声で事実を伝えた。

だが、その平静な態度すら、追い詰められた愛莉には自分を嘲笑うための冷徹さに見えたらしい。

愛莉はギリッと奥歯を噛み締め、胸元でウサギを抱きしめる指先にギュッと力を込めた。

「……どうせ笑うんでしょ」

絞り出すような、トゲだらけの言葉だった。

「派手な格好してさ、髪巻いてメイクして、ギャルぶってるくせに……裏ではコソコソぬいぐるみなんか縫ってて、キモいって……! 柄じゃないくせに手芸オタクやってんじゃねーよって、そうやってバカにするんでしょ!?」

愛莉の瞳から、悔し涙が一筋、ツーッと頬を伝って流れ落ちた。

それは、彼女がこれまで生きてきた中で、何度も何度も突き刺されてきた刃の記憶なのだろう。

城崎愛莉の実家は、世界的なアパレル帝国を一代で築き上げたカリスマ女社長の母親を頂点とする、名門中の名門だ。

長女はパリのコレクションの舞台を歩くトップモデル。次女は何百万人ものフォロワーを熱狂させるカリスマインフルエンサー。

家の中には常にスポットライトが当たり、美しく、強く、肉食系で、隙のない完璧な女性であることが当たり前として求められる過酷な環境。

そんな家庭で育った愛莉にとって、部屋の隅で静かに針と糸を持ち、小さなお人形の服やマスコットをチクチクと縫い上げる時間は、周囲の重圧から解放される唯一の心のオアシスだったはずだ。

だが、その派手な容姿と高身長のせいで、周囲からは「ギャルのくせに似合わない」「キャラじゃない」「無理してて痛い」と、心ない言葉を投げつけられ続けてきた。

だからこそ彼女は、自分の本当の宝物を誰にも見つからないよう胸ポケットの奥深くに隠し、強気なギャルの仮面を被って武装していたのだ。

「ほら、笑いなさいよ……!」

愛莉は唇を噛み、涙を拭おうともせずに俺を睨み据えた。

「さっきみたいに、何とかのスペースがどうとか、お茶の成分がどうとか言って、アタシのこと見下せばいいじゃない! 男子のくせに……東校舎の真面目くんのくせに……!」

張り詰めた沈黙が、給湯室の空気を重く支配した。

俺は愛莉の涙に濡れた瞳を、ただ真っ直ぐに見つめ返していた。

からかう色も、蔑む光も、微塵も浮かべずに。

そして、俺は深く、静かに息を吸い込むと、至って真面目なトーンで口を開いた。

「――バカにするどころか、驚いています」

「……え?」

愛莉の強張った表情が、ピクリと止まった。

俺は壁際に立つ愛莉へと、穏やかな歩調で一歩だけ近づいた。

もちろん、彼女のパーソナルスペースを侵さないよう、一メートル以上の適切な距離を保ったままだ。

「私は先ほど、床に落ちていたそのマスコットを拝見しました。そして、素直に感嘆しました」

俺は自分の視線を、愛莉が胸元に抱きしめている小さなウサギへと向けた。

「縫い目が、定規で引いたように真っ直ぐでした。二枚のフェルトを縫い合わせる時、力加減が少しでも狂えば、布の端は必ず引きつれて波打ってしまいます。ですが、あなたの作ったそのウサギには、シワや歪みが一つもありませんでした。完全に均一な力で、最初から最後まで縫い上げられています」

「え……? な、なに……?」

愛莉は目を白黒させ、抱きしめたウサギと俺の顔を交互に見つめた。

俺は言葉を止めず、淡々と、しかし確固たる敬意を込めて続けた。

「つぶらな瞳の刺繍も、完璧に綺麗な丸い形を保っていました。フェルトのような柔らかい生地に糸を丸く刺すのは、力加減が非常に難しく、少し糸を引っ張りすぎただけでも簡単に楕円形に潰れてしまうはずです。あそこまで綺麗な立体感を出すのは、並大抵の技術ではありません。お店で売られている既製品よりも、ずっと丁寧で、素晴らしい出来栄えです」

「き、既製品より……丁寧……?」

愛莉の口から、呆然とした呟きが漏れた。

罵倒や嘲笑を身構えていた彼女の耳に届いたのは、細部まで正確に観察された、嘘偽りのない純粋な絶賛だった。

「私の実家は、創業百年の菓子屋をやっています」

俺は自分の背景を、分かりやすく簡潔に説明した。

「菓子作りにおいても、練り切りの細工や砂糖菓子の成形には、指先のミリ単位の繊細さが求められます。ほんの少し指先の力がブレただけで、菓子の表情は一瞬で崩れてしまう。だからこそ、私には分かります。手作業でここまで正確に布を縫い合わせるのに、どれほどの集中力と、どれほど長い時間の練習が必要だったか。――そのマスコットは、適当な気持ちで作れるような生半可なクオリティではありません」

俺は愛莉の目をしっかりと見据え、はっきりと言い切った。

「あなたがどれほど真剣に針と糸に向き合ってきたか、そのウサギを見れば一目で分かります。努力の結晶を、他人が笑う筋合いなどどこにもありません。笑う奴がいるとすれば、それは手仕事の凄さを何も知らない愚か者です」

言葉が途切れた。

給湯室には、換気ファンの静かな音だけが響いていた。

「…………」

愛莉は、両手でウサギを抱きしめたまま、完全にフリーズしていた。

(……え? なに……? なんなの……?)

愛莉の頭の中で、思考が猛烈な勢いで回転し、そしてプツンとショートした。

バカにされなかった。

キモいとも、似合わないとも言われなかった。

それどころか――。

(縫い目が真っ直ぐ……? 布が引きつれてない……? 瞳が綺麗な丸……? 練習した時間が分かる……?)

誰にも気づいてもらえなかった。

母親も、姉たちも、学校の友達も、誰も見てくれなかった。

「手芸なんて地味なことしてないで、もっと流行の服を着なさい」「ギャルなのにウケる~」と笑われるのが怖くて、夜中に自室のドアに鍵をかけて、息を潜めて一人で縫い続けてきた、愛莉のたった一つの宝物。

それを、今日初めて会ったばかりの、東校舎の男子が。

さっきまで冷徹にお茶を淹れて「近すぎます」と自分をバッサリあしらってきたはずの男が。

誰よりも真剣な目で、誰よりも真っ直ぐに、自分の技術と努力のすべてを見抜いて、認めてくれた。

ドクンッ、と。

愛莉の胸の奥で、心臓が大きく跳ね上がった。

「あ…………」

愛莉の白く滑らかな頬が、みるみるうちに朱に染まっていく。

頬だけではない。耳の先、首筋、そして整った額に至るまで、全身の血液が一気に顔面へと逆流していくかのように、目に見える速度で真っ赤に染め上がっていった。

(な、な、なんなのよこの男ぉぉぉぉぉッッ!?)

愛莉の脳内は、もはや大火災のようなパニック状態に陥っていた。

さっきまでの冷たいツッコミとの落差。

感情を排したクールな顔のまま、殺し文句のようなド直球の正論で褒めちぎってくる無自覚な誠実さ。

「な……っ、な、なに真顔で……そんな……っ!」

愛莉の喉から、上ずった裏声が飛び出した。

抱きしめていたウサギのマスコットを両手で顔の前に掲げ、真っ赤になった顔の下半分を必死に隠そうとする。

だが、隠しきれない耳たぶはリンゴのように真っ赤に熟れ、潤んだ瞳は恥ずかしさと嬉しさで激しく揺れていた。

「アンタさぁぁぁ! なんでそんな……さらっと……人のこと……ッ!」

「事実を述べたまでです。何かおかしなことを言いましたか?」

「お、おかしいわよ大アリよバカぁぁぁ! 調子狂うじゃないのよぉぉぉ!」

愛莉は地団駄を踏み、ジタバタと身悶えした。

「さっきは冷たくあしらってきたくせに! なんで急にそんな……職人みたいな目でベタ褒めしてくんのよ! ズルいでしょそんなの! アタシがどれだけ毎日練習したかとか……なんでアンタが全部分かってんのよぉぉぉ!」

「職人の作ったものを見れば、作り手の誠実さは伝わるものです」

「だーかーらー! そういう恥ずかしいセリフを真顔で言うんじゃないわよぉぉぉ!」

愛莉は両手で顔を覆い、しゃがみ込みそうになるのを必死に堪えていた。

全身から湯気が出そうなほどの猛烈な熱気。

ギャルとしてのプライドも、挑発的な色香も、すべてが綺麗な灰となって吹き飛び、そこにはただ、生まれて初めて好きな男の子に一番大切な秘密を褒められてキャパシティを越えた、純情すぎる一人の乙女がいるだけだった。

「……ふぅ」

愛莉は深呼吸を繰り返し、指の隙間から涙目で俺をキッと睨み上げた。

その瞳には、先ほどのトゲなど欠片も残っていなかった。

「ぜ、絶対に……誰にも言わないでよね……!?」

愛莉は震える声で、必死に念を押してきた。

「アタシが手芸好きだなんて……こんなマスコット作ってるなんて、西の他の生徒たちにバレたら……ギャルとしての威厳がゼロになるんだから! 会長にも、他の役員にも、絶対に内緒なんだからね!」

「承知しました。他言無用はお約束します」

俺は静かに頷いた。

「ですが、私は本当に、あなたがその特技を恥じる必要はまったくないと思いますよ」

「う、うるさいうるさい! バカ! それ以上喋ったら口縫い合わすわよ!」

愛莉はウサギのマスコットを素早くブレザーの内ポケット深くにしまい込み、胸元を両手でしっかりと押さえた。

そして、真っ赤になった顔を手でパタパタと扇ぎながら、ドアノブへと手をかける。

「今日のところは……見逃してあげるわよ! で、でも……アンタに秘密を握られたなんて思わないでよね! 」

捨て台詞を残すと、愛莉は逃げるようにドアを開け、脱兎の如く給湯室から飛び出していった。

廊下を遠ざかっていくタタタタッという慌ただしい足音。

それは、完全にノックアウトされた少女の、精一杯の敗走の音だった。

「……やれやれ」

俺は小さく息を吐き出し、カウンターの上の湯呑みに視線を落とした。

これで、本当に小休憩の用事はすべて済んだはずだ。

冷めてしまった残りの玉露を飲み干し、湯呑みを洗って片付けようと手を伸ばした――まさにその時だった。

サァッ……と。

まるで初夏の風が教会の中を吹き抜けたかのような、清らかな気配とともに、給湯室のドアが再び静かに押し開かれた。

「あらあら……?」

穏やかで柔らかな美声が響いた。

ドアの向こうに立っていたのは、百七十一センチのしなやかなモデル体型に、純白の修道女のベールと清楚なシスター服を纏った少女――西校舎副会長、神前綾乃だった。

綾乃は胸元に提げた白銀の十字架にそっと手を添え、ふんわりと小首を傾げていた。

「愛莉ちゃん、廊下を走っていくのを見かけましたけれど……湯気が出そうなくらい真っ赤なお顔をして、どこかへ隠れてしまいましたわ。何かありましたのでしょうか?」

「……いえ。少し部屋の温度が高かったのかもしれません」

俺は愛莉との約束を守り、至って真顔で答えた。

綾乃は「ふふっ、そうですか」と優しげに微笑み、静かな足取りで給湯室の中へと入ってきた。

清楚なシスター服のロングスカートが床を滑るように揺れ、彼女の身体から、洗い立てのリネンと白百合のような、どこまでも清純で甘やかな香りが漂ってくる。

「西校舎の皆様へ、温かいハーブティーをお持ちしようと思いまして。――あら、如月くん。まだこちらにいらっしゃったのですね」

綾乃は給湯カウンターの前に立つ俺の姿を見ると、栗色の瞳を細め、慈愛に満ちた聖母のような眼差しを向けた。

その視線は、俺のわずかに強張った肩や、張り詰めた表情を慈しむように見つめている。

「如月くん……とてもお疲れのようですね?」

綾乃の声は、まるで傷ついた小鳥を包み込む毛布のように温かかった。

「東校舎の過酷な環境から、いきなりあのような緊迫した会議へ駆り出されて……お一人で議事録を作成なさって、ずいぶんと神経をお使いになったのでしょう。迷える子羊が、こんなにも痛々しいお顔をして……」

「いえ、私は公務を果たしているだけですので、疲労には及びま――」

「無理をなさらないで」

綾乃はふわりと微笑み、カウンターを通り過ぎると、給湯室の中央に配された黒革張りのローソファーへと静かに腰掛けた。

長いスカートの裾を整え、綾乃は俺を優しく見上げると――。

トントン、と。

シスター服に包まれた、豊かで柔らかな自分の太ももを、白い手のひらで愛おしそうに軽く叩いた。

「こちらへいらっしゃい、如月くん。ここへ頭を乗せて……ほんの少し、お休みになりませんか……?」

慈愛に満ちた聖母の微笑み。

完全なる善意と、無自覚な母性から放たれた――最大級のお膝枕トラップが、静かに発動した瞬間だった。

第10話をお読みいただき、誠にありがとうございました!

落とした手縫いマスコットを取りに戻り、「バカにするんでしょ!」と涙目で身構えていた愛莉でしたが、湊の真っ直ぐで嘘のない職人的な絶賛によって見事にノックアウトされてしまいました!

自分の大切な努力を誰よりも理解され、顔から湯気を出してジタバタと自爆する愛莉のチョロイン化を楽しんでいただけましたら幸いです。これで愛莉は、湊の最初の「秘密の共犯者」となりました!

そして物語は、休む間もなく次の刺客へ!

入れ違いに給湯室へやってきたのは、圧倒的母性を誇る聖母系シスター副会長・神前綾乃!

「迷える子羊を癒やしてあげなきゃ」という100%の善意から繰り出された、至高のお膝枕トラップ!

次回、第11話もお楽しみください。

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