授業をサボる方法
僕の表向きはマリア魔法学院の優等生で、裏では汚職をしている悪い代官達をシルヴィと一緒に懲らしめている。
夜中にこっそりと出ているが、外で活動できる時間も長くは無い。
「いつも、夜中ばかりじゃ効率が悪いですよ。」
放課後の魔術室で今日もシルヴィと一緒に会議のような事をしていると、僕が不満を漏らした。
「そうですね。」
「夜中しか活動できないというのは、色々と融通が利きません。」
「何かしらの代案を考えるべきでしょう。」
代案を考えると言っても、そう簡単に思い浮かぶ物じゃなかった。
僕は前世で培った小説家としての想像力を活かす。
「1番の問題点は授業を抜け出せない事ですよね。」
シルヴィに問題点の認識が同じかどうかを聞いた。
「そうですね、授業中はどうしても抜け出せません。」
頷くシルヴィを僕は見てホッとする。
「僕達が席に座っている事が大切なんだ。」
このマリア魔法学院はサボりに対して異様にうるさい学院だ、そう簡単に早退はできない。
「つまり、僕達を模した何かを席に座らせれば。」
「授業中でも抜け出せる?」
僕の言葉を聞いたシルヴィは目を輝かせて聞く。
「それって、身代わりを作るって事?」
「はい、身代わりを作って抜け出すんです!」
「魅力的な考えだけれど、実現できるのですか?」
実現できるかというのは僕も少し不安に思っていた、それでも可能性が全く無い訳じゃない。
「実現できるとは言い切れません。」
「それでも、可能性は0じゃないと思うんです。」
手に力を込めて魔法陣を展開する。
僕くらいの高さに調整した木片を出した。
「その木片をどうするつもりで?」
「見ていればわかりますよ、シルヴィ。」
僕は目の前にある木片を触る、微かに感じ取れる魔力の粒子を感じ取って形を変形させた。
「で、できました!」
ただの木片がシルヴィの姿を完璧に模した木人形になっていた。
「なるほど、これを身代わりにする訳ですか。」
「良い考えですけど。」
シルヴィを模している木人形をシルヴィが軽く叩くと、その場で力無く木人形が倒れる。
「こんな簡単に倒れてしまいます。」
「木人形といえ、喋れもしなければ」
「動く事すらできません。」
「バレてしまうのも時間の問題でしょうね。」
シルヴィの言う通りだ、見た目は人でも中身は木のままである。
書けもしなければ、動けもしない。
「で、ですよねー」
「これじゃ、ダメだって内心は思ってました。」
どうにかして木人形に命を吹き込めれば、僕達の代わりになってくれる筈だ。
でも、物に命を吹き込むなんて魔法を僕は聞いた事が無い。
「行き詰まっている顔をしていますね、キャシー。」
「え、いや…」
(悩んでるって、また顔に出しちゃった。)
僕はいつも優柔不断だ。
想像するのは得意なのに、簡単に断念してしまう。
「魔法の原動力は、できるという気持ちです。」
「貴方ができると感じたのなら、できる筈ですよ。」
その時のシルヴィの言葉は僕の心に刺さった。
それと同時に、僕は少し自信が出た。
(そうだ、可能性が0%だとしても)
(やってみなきゃ、本当に0%かなんてわからない。)
(小説家なら、その1%を信じる筈だ。)
物語に命が宿るとしたら、この木人形にも吹き込める筈だと僕は想像した事がある。
何故、その思い付いた事を実行しなかったのか。
そんな事はあり得ないと決め付けていたからだ。
「シルヴィ。」
「なんですか?」
「君を参考に小説を書いても良い?」
僕の問いに対して、シルヴィは僕の肩に手を置くことで答えた。
「今回だけですよ。」
その言葉と同時に、シルヴィから魔力の粒子が僕の身体に伝わる。
それと同時に僕の目に景色が映った。
「書くなら早く書いてください。」
「僕は時間を掛けて書くタイプの小説家なんですけど、やれるだけやってみます。」
僕はポケットから紙と鉛筆を取り出し、シルヴィがメインの小説を書いた。
「で、できた。」
シルヴィを参考に書いた小説は数秒で完成した。
「思っていた以上に書く速度が凄まじいですね。」
「貴方、本当に人間ですか?」
「あはは…」
(僕自身、こんなに早く小説が書けたのは初めてだから驚いてるよ。)
前世なら小説を1枚書くのに数十分掛かっていたというのに、今書いた小説はあっという間に書けた。
まるで、次から次に書くアイデアが浮かべ出る感覚だった。
「あ、また目が見えなくなっちゃった。」
「時間切れになったようですね。」
何も見えない世界に戻ってしまった。
それでも、久しぶりに小説を書けたので満足はしていた。
「それで」
「今、書いた小説とやらをどうやって木人形に込めるつもりで?」
この書いた小説をどうするのか。
僕は言われてから気が付いたんだ、この物語を木人形に込める方法を考えていなかった事を。
「か、考えてませんでした…!」
「はぁ、全く。」
「貴方は相当なバカですよ。」
「バ、バカは酷いですよ!」
僕が慌てていると、物語が書かれていた紙が木人形に触れてしまった。
「あれ、紙が」
紙が消えたと思った瞬間、紙が魔力の粒子となって木人形に吸い込まれている事に気が付いた。
「紙が勝手に魔力の粒子になってる?」
目の前で起きている事に驚いている。
魔法陣に流れている魔力の粒子を利用して分解する事は知っていても、無機物も同じように分解できるなんて知らなかったのだ。
「魔力は無機物にも微かに含まれています。」
「こうなる事も、あり得ない話ではない筈です。」
「しかし、私も初めて見る現象で驚いています…」
あのシルヴィですら、目の前で起きている現象が初めてだと言う。
一体、何が起きているというんだ。
「紙が全部、木人形の中に吸い込まれましたね。」
「そうですね、見ての通りです。」
僕達が木人形を凝視していると、唐突に木人形がぎこちなく動き出した。
「シルヴィ、動き出しましたよ!?」
「大きい声を出さなくても聞こえてますよ!」
シルヴィの見た目をした木人形が人のように動き出している。
木人形は僕達の方をじっくりと見つめると、口を開いて話し出した。
「おはようございます、ご主人様。」




