ミスリルゴーレム②
「回復、飛ばしますよ~!」
リリアの声が、戦場の喧騒を切り裂いた。
直後、白色の霧が弾ける。
賦術――【ヒールスプレーSS】。
それも、一度ではない。
《連続賦術》によって、二重に重ねられた癒しの霧がルシエラの全身を包み込む。
さらにリリアは、杖を掲げた。
「操、第十一階位の快。地精、治癒、再生、生命――地活」
魔力が溢れ出る生命力へと変換され、淡い光となって立ち上る。
「【アース・ヒールⅡ】」
緑の光がルシエラの傷口へ染み込んでいく。
刻まれた無数の弾痕が塞がり、抉られた肉が繋がり、砕かれかけていた骨が内側から押し戻される。
ルシエラは、深く息を吸った。
痛みは残っている。
だが、立てる。
ならば十分だった。
「【リカバリィ】……! 《ポーションマスター》!」
練技によって新陳代謝を極限まで高め、腰のポーチから最高級のポーションを抜き放つ。
栓を飛ばし、一息に煽る。
次の瞬間、その瞳に鋼をも溶かすような苛烈な闘志が宿った。
「私も……負けていられないッ!」
ルシエラの身体が、ぶれた。
爆発的な踏み込み。
床が砕け、衝撃がホールを走る。
「砕けろぉおおおおオオオッ!!」
――ゴッ!!!!!
轟音。
ルシエラの放った全力の大振りが、ミスリルゴーレムの右肩の付け根へ食い込んだ。
刃はそこで止まらない。
装甲を裂き、内部骨格を断ち、駆動軸を叩き割る。
次の瞬間、巨大な右腕が、空間ごと吹き飛んだ。
衝撃波がホールの空気を震わせ、重装甲の表面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
「「……怖っ!」」
ユウナとリリアが、思わず自分の腕をさすった。
だが、ルシエラは止まらない。
そこから先は、もはや一方的な解体作業だった。
ミスリルゴーレムの危険度は、かつてのドラゴンゾンビと同等。
モンスターレベルにして、20。
攻防ともに理外。
そこへ更に無数の機銃、砲身を取り付けられることにより、破壊力が各段に上昇している。
かつての三人であれば、死力を尽くしてもなお勝利できるか分からない怪物。
だが、今の彼女たちは違う。
一人は、未来を見通す双眸で、すべての弾丸を無効化する。
一人は、強力無比な斬撃で、ミスリルの装甲を力ずくで斬り裂く。
一人は、主力が攻撃に専念できるよう、隙のない強力な補助と回復を飛ばし続ける。
魔法銀の終焉が始まっていた。
巨体の演算回路が、回答不能という結論を導き始める。
「ガ……ガガ……目標……予測不能……」
ミスリルゴーレムのセンサーが、狂ったように点滅する。
左腕の機銃がユウナを狙う。
だが、その銃身が完全に向くより早く、ユウナはすでに死角へ滑り込んでいた。
「遅い!」
ユウナの剣が、魔力を帯びた閃光となって走る。
胸部装甲に十字の裂傷が刻まれた。
その隙間から、青い火花が噴き出す。
そこへ、ルシエラが重戦車のように突撃した。
「これで、最後ですッ!」
剣が、ゴーレムの腹部へ突き刺さる。
そのまま、真上へ跳ね上げた。
金属が悲鳴を上げる。
腹部から胸部へ、胸部から頭部へ。
装甲と内部機構が、まとめて引きちぎられていく。
同時に、ユウナも空へ跳んでいた。
重力から解き放たれたような軽やかな身のこなしで、ゴーレムの頭上を奪う。
「消えなさい!」
剣先に、膨大な魔力が収束する。
「古代の妄執と共に!!」
落下速度を乗せた、全力の一撃。
ユウナの剣先が、ゴーレムの頭部――その中枢回路が存在する一点を、寸分違わず斬り裂いた。
ドォォォォォォンッ!!!!!
内部からの爆発が、ゴーレムを食い破る。
無数の砲身が火を噴きながら四散し、装甲片が雨のようにホールへ降り注いだ。
巨体が、ついにその重みに耐えかねて膝をつく。
そして――倒れた。
地響き。
火花。
断末魔のような駆動音。
それらが、少しずつ遠ざかっていく。
やがて、静寂が訪れた。
「……終わり、ましたね」
剣を納め、肩で息をしながらルシエラが呟く。
「はい~。さすがに私も、生きた心地がしませんでしたよ~」
リリアはその場に座り込み、砕けた腕輪の破片を払い落とした。
三人の前には、沈黙した最強の番人。
そしてその奥には、なお青白く脈動を続ける、巨大な“心臓”だけが残されていた。




