第3話 実戦②
買い物を終えた二人は、その足で街道へ出て、目的の森を目指した。
踏み固められた土の道には、商隊の荷車が残した車輪跡が幾重にも刻まれている。
人と物資の往来が絶えない、ヴァルクレア近郊の重要な街道だ。
だからこそ、この道沿いに不穏の種があるなら、放置はできない。
数時間ほど歩いた先で、問題の森が見えてきた。
街道脇に広がるその森は、一見すればどこにでもある雑木林に見える。
だが近づくにつれ、空気の違いがはっきりと分かった。
風が落ち着かない。
鳥の声がない。
獣の気配だけが、妙に濃い。
ユウナが目を細める。
「なるほど。確かにいるわね」
その言葉が終わるより早く、ルシエラが鋭く声を上げた。
「っ、ユウナ!」
反応は一瞬だった。
ユウナはすでに剣を抜き放ちながら、後方へ大きく跳んでいる。
前へ出ない。
迷わず、ルシエラが最も力を発揮できる位置へ戦場を譲ったのだ。
次の瞬間、森の茂みを蹴散らして飛び出してきたのは――巨大な猪だった。
一体ではない。
二体、三体、四体、五体。
いずれも体長五メートル級。
分厚い筋肉に覆われた巨体が、地鳴りのような足音を立てて一斉に突進してくる。
「ギガントボア――モンスターレベル9!」
ユウナに魔物の種類を判別できるセージの技能はない。
だが、一度でも会敵した魔物の情報は頭へ叩き込んであって決して忘れない。
「コア部位は頭よ、ルシエラ!」
「はい!」
返答は短く、迷いがない。
ルシエラは後ろへは飛び退かなかった。
その場に踏みとどまり、両手で大剣を構える。
迫る巨体。
激突寸前の距離。
それでも退かず、正面から迎え撃つ。
「《薙ぎ払いⅡ》――《全力攻撃Ⅱ》!」
呼気とともに、剣が横薙ぎに閃いた。
「はああああああっ!」
重い一撃が、突進してきた五体の頭部をまとめて薙ぎ払う。
鈍い衝撃音。
肉と骨を断つ感触。
巨体が揃ってたたらを踏み、突進の勢いが乱れる。
五体同時。
しかもレベル9の大型獣相手に、真正面からそれを成し遂げる。
まさしく“面”を制する一撃だった。
ユウナの口元が、満足げに上がる。
「いい一撃よ」
その瞬間、彼女は地を蹴った。
狙うのは、乱れた敵列の急所。
ルシエラが作ったほころびへ、針のように突き刺さる。
「《魔力撃》――《全力攻撃Ⅱ》!」
剣に叩き込まれた魔力が、刃の破壊力を爆発的に引き上げる。
ルシエラの一撃で深手を負っていたギガントボアの頭部へ、その追撃が正確に叩き込まれた。
骨が砕け、巨体が横倒しに崩れる。
一体、沈黙。
だがユウナは止まらない。
「《ファストアクション》! もう一匹!」
先制を取った者だけに許された、初手の加速。
その恩恵を余さず使い、ユウナは次の標的へと滑り込む。
別のギガントボアの頭へ、今度は鋭い刺突が突き立った。
悲鳴のような咆哮が短く響き、すぐに途切れる。
二体目、沈黙。
残る三体も、すでに態勢を崩していた。
ルシエラの薙ぎ払いで損傷した頭部。
乱れた突進。
それを軽くいなした後、再びルシエラの大剣が振るわれ、さらにユウナの追撃が重なる。
前衛が面を押さえ、遊撃が急所を断つ。
それは先程水晶の前で言葉にした戦術が、そのまま形になった瞬間だった。
大した時間もかからずに、五体のギガントボアは、すべて街道脇の地面へ倒れ伏した。
土煙がゆっくりと落ちていく。
森は再び静まり返り、さっきまでの激突が嘘のような沈黙が戻る。
その中で、ユウナは剣についた血を払った。
「……上々ね」
ルシエラも息を整えながら、大剣を下ろす。
初陣としてはこれ以上ない手応えだった。
二人の連携は机上の理論では終わらない。
実戦でも十分に通用する。
それを証明するには、今の一戦で十分だった。




