表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/10

第3話 実戦①

「そんなわけで、実戦でテストをしたいのだけれど」


 ギルド長室に入るなり、ユウナはそう切り出した。


 机の向こうに座るギルド長は、しばし無言で二人を見比べる。

 その沈黙には、昨日とは別の重みがあった。


「……過剰戦力だな」


 小さく漏れたその一言に、ルシエラが少しだけ目を瞬かせる。


 ギルド長としても、正直ここまでとは思っていなかったのだ。

 ルシエラがユウナに連れられてきた時は、せいぜい見込みのある中堅か、それより少し上くらいの実力を想定していた。

 だからこそ、ユウナの足を引っ張りかねないのではないかと、内心では危惧していたのである。


 だが実際にステータスを知れば、その懸念は完全に杞憂だった。


「心配はいらなかったようだ。……まあ、嬉しい誤算ではあるが」


 僅かながら表情を緩めたギルド長に、ユウナは嬉しそうに答えた。

「そうでしょう?」


「だが」

 ギルド長はそこで表情を引き締める。


「お前たち二人にちょうどいい依頼なんて、そうそうないぞ」


 それが上級冒険者の悩みでもあった。

 高レベルに見合う仕事は少ない。

 だからといって、下位冒険者向けの依頼を頻繁に受ければ、依頼の“荒らし”と見なされかねない。


 ユウナもそこは分かっているのだろう。

 苦笑混じりに言った。


「まあ、贅沢は言わないわ。動き方を試したいだけだから、今回だけ……フランベルジュ級……いや、グレートソード級の依頼でもいいから、余ってるのが何かないかしら?」


 冒険者のランクは、ギルドへの貢献度や市井での名声、そして当然ながら実力に応じて与えられる。


 ランクは下から、


 ダガー級     ―― 駆け出し(1~2Lv)

 レイピア級    ―― 成長途上(3~4Lv)

 ブロードソード級 ―― 一人前(5~6Lv)

 グレートソード級 ―― 要注目(7~8Lv)

 フランベルジュ級 ―― 実力者(9~10Lv)

 センチネル級   ―― 一流(11~12Lv)

 ハイペリオン級  ―― 勇者(13Lv~)


 となっている。

 なお、レベルは目安である。レベルだけ高くてランクが低い者もいる。その逆も然りだが、一応の指標にはなる。


 一般的ではないが、そのさらに上に『始まりの剣級』という称号も存在する。

 それは国を救うほどの業績を成した者にのみ与えられる、歴史上でも数えるほどしか存在しない別格の称号であり、現在のラグール王国には存在しない。


 ギルド長は机の上の書類をひっくり返し、しばらく考えたのち、一枚の紙切れを差し出した。


「……これなんかはどうだ?」


 ユウナが受け取ったそれは、依頼書というにはあまりにも簡素だった。

 ほとんど走り書きに近い。


 街道沿いの森の中から外に出てきかねない魔物掃討、数不明、種類不明。


 ルシエラが首を傾げる。

「これは……依頼と言えるのですか?」


 ユウナも紙を見下ろしながら眉を寄せた。

「つまり、出てくるかどうか…そもそもいるかどうかも分からないってことでしょう?」


「何かがいるのは確実だ」

 ギルド長はそう答えた。


「街道を行く商人たちから、森の中だが、外にほど近い場所から獣の唸り声のようなものが聞こえるという報告が入っている。護衛の冒険者も同じ証言をしているから、気のせいではないだろう」


 そう言いながら、何かを考えるように顎へ手を当て、依頼書未満のその紙にさらに文字を書き足していく。


「唸り声の低さからして、中型種以上の獣か魔物らしい……と」


「確度の低い情報ねえ」


「仕方がないだろう。嫌なら掲示板でも見てくるといい。今は小物討伐と護衛くらいしかないがな」


 そう言って差し出された紙には、新たにギルド長の字でこう書き加えられていた。


 報酬:出来高


「………」

「………」


 ユウナとルシエラはしばし黙ってそれを見つめた。


 ユウナが先に口を開く。


「これ、もし正体がグレイリンクス――モンスターレベル3とかだった場合、報酬はいくら?」


「数にもよるが、1000から1500と言うところだな」


「……まあ、いいわ」


 小さくため息をつきながらも、ユウナはその紙をひらりと持ち上げた。

「依頼荒らしをしないで済むし、掲示板の仕事よりはまだ希望があるでしょう」


 そう言ってルシエラを促して部屋を出ていった。




 ギルドを出た足で二人は物資調達のため、街の商業区に足を運んだ。

 その目的はルシエラの装備品の調達である。

 魔域に囚われていた間に、ルシエラはほとんどすべてを失っていたからだ。


 武器。

 防具。

 荷物。

 金。

 着替えすらなかった。


 出会った時に身につけていた、ぼろぼろの衣服以外、手元には何もなかったのである。


「なんか……ごめんなさい」

 後ろを歩きながら、ルシエラが小さく言う。


 ユウナは振り向きもせず、明るく返した。


「気にしなくていいのよ」


 そして、にやりと笑う。


「使った分は身体で返してもらうから……」


「っ!?」

 ルシエラが目を見開いて両腕で自分の身体を抱くようにして身構える。


 ユウナはすぐに肩をすくめた。


「冗談よ」

 言ってから考え込む。


「……ん? そうでもないか?」

 実際、戦うのはルシエラ自身なのだから、身体を張って返すことになるのは間違いではない…

 そんなユウナの言葉に、ルシエラは何とも言えない顔になった。


ーー雑貨店にて。


 冒険者用の小物や消耗品が並ぶ店で、ユウナは慣れた様子で必要な品を次々に選んでいく。


 バックパック、水筒、ロープ、保存食、松明、火口箱、布類、携行用の小袋。

 あれもこれもと買っているようでいて、選び方には無駄がない。


「他にも必要なものがあったら遠慮せず言いなさい」


 品を籠へ入れながら、ユウナは振り返る。


「準備不足は最低の失敗だからね」


「はい」


 ルシエラは素直に頷いた。


ーー武具店にて。


 次に入ったのは、武具店だった。

 壁に並ぶ剣や鎧を見回しながら、ユウナはやや不満げに言う。


「Sランクでも、量産品はやっぱり大したことないわね」


 とはいえ、今は背に腹は代えられない。

 ユウナはルシエラが装備できる範囲で、最良の品を次々と並べていく。


「装備してみて、合うやつを選びなさい」


 鎧。

 籠手。

 脚甲。

 主武器と予備の武器。


「今はこれで我慢だけど、時間がある時に魔法の武器化をして…

あとはそのうち《剣の迷宮》にでも挑んで、もっといい武器を拾いたいわね」


「……高っ!」


 並べられた武具の値札を見て、ルシエラは思わず声を上げた。

 ユウナの感覚では“応急処置”でも、普通の冒険者からすれば十分すぎる高級装備である。


ーー薬草店にて。


 次は薬草類。

 休憩時に使う薬草や、各種ポーションをまとめて買い込む。


「《ポーションマスター》の継戦能力は本当に大きいからね」


 ユウナは瓶を手に取りながら言う。


「でも、だからこそポーション切れなんて間抜けな真似はできないわ」


 ルシエラも真剣な顔で棚を見ていた。


ーー魔法具店にて。


 最後は魔法具店だった。


 能力増強の腕輪。

 魔法のかかった装備品。

 そして何より、大量の魔晶石。


「錬技にはMPがいるでしょう。でもルーンマスター技能がないルシエラは、どうしてもMPが低い」


 エンハンサー7レベルともなれば、強力な自己強化を複数重ねる場面も出てくる。

 特に5レベル以上で習得できる錬技は、基本的には持続時間が短く燃費が悪い。


 ユウナは魔晶石を見つめながら、低い声で言った。


「魔晶石は命綱。……でも、銀貨も血液よ」


 その視線が鋭くなる。


「収支は考えて使いなさい」


 ルシエラは自然と背筋を伸ばした。


「命がかかってる場面では躊躇しない。でも、余裕があるのに無駄に使うのは三流」


 さらに続ける。


「オーバーキルを頻発するのは、戦術じゃなくて自己満足よ」


 その言葉は重かった。

 実力など互いに知り尽くしているパーティーメンバーの前で強さを誇示しようと、無駄にリソースを消費する。そして後詰めの様に出てきた強敵を前にして色々足りなくなってバッドエンド…そんな話は枚挙にいとまがない。


「強い者ほど、“足し算”じゃなく“引き算”を覚えるものよ」


 必要十分で止める。

 過剰は隙を生む。


 ルシエラは真剣な顔で頷いた。


「……はい」


ーーー


 店を何軒も巡り、必要な物資をあれこれ買い込んだあと、ユウナは満足そうに大きく伸びをした。


「よっし、これで一通り揃ったわね」


 その顔はどこか達成感に満ちている。

 対して、その少し後ろを歩くルシエラの顔色は青かった。


(十万は超えてた……)


 家が買える。

 そんな金額だった。


 ルシエラが戦慄していると、不意にユウナが立ち止まり、振り返った。


「……ルシエラ」


 声が真面目になる。

 ルシエラが顔を上げると、ユウナはまっすぐに彼女を見つめていた。


「意識を入れ替えなさい」


 そう言って拳を作り、ルシエラの胸元へ軽く当てる。


「大丈夫。あなたにはそれだけの価値がある」


 ルシエラの目が揺れる。

 ユウナは、自信に満ちた笑みを浮かべた。


「あなたは、ハイペリオンの相棒なのだから」


 その言葉に、ルシエラの胸が熱くなる。


 ただ守られたからではない。

 ただ助けられたからでもない。

 価値があると、戦力として必要だと、真正面から言われたからだ。


「……はい!」


 その返事は、昨日までよりずっと強かった。


 二人はそのまま並んで歩き出す。

 次に向かうのは森の魔物討伐。

 実戦での初めての連携確認である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ