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第2話 ステータス

ケルディオン大陸では戦闘特技によるバフは1ターン有効。SW2.0準拠の高火力仕様です。

高火力、脆い、ソロとしてスカウトを生かすならバトルダンサーで二刀流ですが、さすがに2.0ルールでバトルダンサーを使わせるのは反則だろうと、謎の自制心を発揮したのでファイターです。

 朝。


 厚いカーテンの向こうがわずかに明るくなり始めたころ。


「……ん……?」


 ルシエラは奇妙な違和感――というより、はっきりとした圧迫感を覚えて目を覚ました。


 まだ寝起きでぼんやりとしたまま視線を動かす。

 すると、すぐ目の前にユウナの頭があった。


 近い。


 昨夜より圧倒的に近い。


 一瞬、何が起きているのか理解が追いつかない。

 だが次の瞬間、視線を下ろしたルシエラは完全に目を覚ました。


 自分の腰にしっかりと回された腕。


 全身に伝わるぬくもり。

 そして、逃がすまいとするようにがっちりと抱きついているユウナ。


「……は?」


 昨夜、確かに腕一本分はあったはずの距離は、跡形もなく消滅していた。


 ベッドは広い。

 四人は余裕で寝られる。

 にもかかわらず、なぜか二人は中央で密集している。


 ルシエラはおそるおそる身をよじった。


 だが、その瞬間。


 抱きしめる腕の力が微妙に強まる。


 規則的な寝息からして、完全に無意識だと分かる。

 分かるのだが、だからといって状況が改善するわけではない。


「ちょ、ちょっと……」


 さらに身じろぎすると、ユウナの手が無自覚に位置を変えた。

 離れないようにするかのように、よりしっかりとホールドが強まる。


「――っ!?」


 ルシエラは固まった。

 一気に顔が熱くなる。


「な、なにこの寝相……え? 寝相なの、これ!?」


 ユウナは起きない。

 それどころか、安心しきったように頬をすり寄せてくる。


 無防備だった。

 昨日まで見せていた冷静沈着なハイペリオン級冒険者の面影が、この時だけはまるでない。


 ルシエラは必死に腕を外そうとした。

 だが、戦士として鍛えられた筋力は伊達ではない。

 寝ていようが無意識だろうが、締めつけは妙にしっかりしている。


「……力強いのは戦闘だけにしてほしいんだけど……!」


 数分にわたる小さな格闘の末、ようやく腕を外すことに成功しそうになった時、ユウナの瞼がゆっくりと開いた。


 ぼんやりした視線。

 寝起き特有の鈍い沈黙。

 それから、徐々に状況を把握する気配。


 そして――


 ルシエラと目が合った。


 沈黙。


 …………


「……慣れなさい」


 真顔で言った。

 ルシエラは一瞬、言葉を失う。


「慣れなさい、じゃないですよね!?」


 ユウナは何事もなかったように、のそりと起き上がる。

 髪は少し乱れていたが、手櫛で軽く整えるだけで、すぐにいつもの顔へ戻っていく。


「私は寝相が少しだけ悪いの」


「少し!?」


「拠点設計のときにベッドを大型にしたのは、そのためよ」


 堂々たる宣言だった…いや、誇らしげに言うことではない。

 ルシエラは思わず顔を押さえる。


「……だから四人分サイズ……」


 道理で異様に広いわけだ。

 昨夜は昨夜で、豪華な生活空間や風呂や食事のインパクトが強すぎて、そこまで疑問を深める余裕がなかった。


 ユウナは淡々と続ける。


「人は寝ているときが一番無防備なの。だから野営では見張りを立てるのよ」


 雑だった。

 理屈の飛躍がひどい。

 無理筋にもほどがある。


 ルシエラは深く息を吐く。


「……せめて、変なところは触らないで」


 ユウナは少しだけ真剣に考えた。


「努力はするわ」


 努力。


 保証ではなかった。


 ルシエラはベッドから降りながら、小さく笑う。


「前途多難ね……」


 その声に本気の怒りはない。

 呆れ半分、諦め半分。

 そして少しだけ、面白がっている響きがあった。


 ユウナもベッドから降りる。


「さあ、訓練場へ行くわよ。今日はあなたの実力を丸裸にするわ」


 ルシエラがじろりと見る。

 昨日、別の意味で丸裸にされたばかりである。


「その言い方はどうかと思います」


「?」


 ユウナは首をかしげた。

 本気で何が問題なのか分かっていない顔だった。


 ルシエラはため息をつく。

 しかしその吐息に不快さはない。

 むしろどこか楽しげですらあった。


 孤独だった拠点に、朝のやり取りが増えた。


ーーー


 冒険者ギルドに併設された訓練場。

 その片隅にある小さな部屋。


 そこには、淡く光を宿す大きな水晶が据えられていた。

 使用者の能力情報を可視化する、測定用の魔法具である。


 部屋の中に他の冒険者の姿がないことを確認してから、ユウナはルシエラへ視線を向けた。


「改めて言うけど、これは部外秘よ?」


 声は軽いが、内容は軽くない。

 ルシエラも真剣な顔で頷く。


「……はい」


 ユウナは水晶の前に立ち、ためらいなく告げた。


「ステータス・オープン」


 その言葉とともに、水晶の内側に淡い光が走り、次々と文字が浮かび上がっていく。


 種族:ナイトメア

 性別:女

 年齢:18歳

 身長:164㎝

 体重:5「うるさい」

 B・W・H:「関係ない」


 器用度:30

 敏捷度:32

 筋力:25

 生命力:31

 知力:30

 精神力:27


 技能レベル:

 ファイター13Lv

 ソーサラー11Lv

 スカウト9Lv

 アルケミスト5Lv

 エンハンサー3Lv

 レンジャー1Lv


 戦闘特技:

 武器習熟/剣S

 魔力撃

 全力攻撃Ⅱ

 マルチアクション

 防具習熟/金属鎧A

 回避行動Ⅱ

 タフネス

 バトルマスター

 トレジャーハント

 ファストアクション

 影走り


 賦術:

 ヴォーパルウェポン

 バークメイル

 パラライズミスト

 ヒールスプレー

 イニシアチブブースト


 錬技:

 キャッツアイ

 ガゼルフット

 ビートルスキン


 HP:85 生命抵抗力:18

 MP:60 精神抵抗力:17

 命中力:18 追加ダメージ:17 回避力:20

 魔力:真語魔法16


 ルシエラが小さく息を呑む。


 純粋な数値だけでも十分に異常だ。

 だが本当に恐ろしいのは、その高水準な能力がすべて、徹底して一つの戦闘スタイルを形成している点にある。


 ユウナは横目でルシエラを見た。


「これを見て、どう思う?」


「強い……ですね。基礎能力値が段違いです」


「そうじゃないわ。戦術の話」


 即座に切り返され、ルシエラは口をつぐむ。

 だがすぐに視線を水晶へ戻し、改めて読み取る。


「火力の一点集中型……ですね。凄まじい攻撃能力がある」


 そこで言葉を選ぶように一瞬だけ止まり、それから続けた。


「ただ、複数相手だと制圧能力が足りない」


 さらに、ほんのわずか躊躇してから。


「守勢に回ると……脆い」


 はっきりと言い切る。


 その答えに、ユウナは満足そうに頷いた。


「正解よ」


・基本戦闘フロー


 ユウナは水晶の表示を消さず、そのまま説明を始める。


「開幕はアルケミストの賦術【イニシアチブブースト】。先手を奪うことが大前提」


 先制を取れなければ、この構成の強みは大きく削がれる。

 それほどまでに、ユウナの戦い方は初動に依存していた。


「先手を取ったら、《バトルマスター》の出番。《魔力撃》と《全力攻撃Ⅱ》を同時使用する」


 剣に魔力を叩き込み、純粋な破壊力を一気に引き上げる。

 防御や継戦能力を一時的に捨て、そのぶんだけ敵を消し飛ばすための構えだ。


「自慢じゃないけど、単体瞬間火力はトップクラスよ。同格の前衛なら一撃で致命傷圏内に入る」


 さらりと言うが、内容は凶悪だった。


「そして、《ファストアクション》で、もう一度」


「……致命傷を二回ですか」


「正確には、“先手を取った初手だけ”よ。でも、それで十分」


 理想形は明快だ。

 開幕二連撃で、敵の主戦力を消す。


 戦闘時間そのものを短縮する。

 それがユウナにとって最大の防御でもあった。


・対集団戦


「弱点は明確」


 ユウナは訓練場に立てられた居並ぶ標的を指さした。


「私は“面”で削る構成じゃない。“点”で貫く構成」


 複数の敵をまとめて押し返すよりも、急所を見つけてそこを穿つ。

 それがユウナの本質だった。


「数が多い場合は、初撃に【ブリザード】を使う。《ファストアクション》込みで二連発」


 広範囲を薙ぐ魔法としては十分。

 雑魚狩りならそれで成立する。


 だが、とユウナは続ける。


「同格以上が複数いる場合は、決定力が足りない。そのうえ守勢に回ったときの脆さを突かれる恐れがある

《魔力制御》もないから、乱戦になると【ブリザード】を撃てなくなるのも厳しいわね」


 集団戦で勝てないわけではない。

 だが、得意ではない。

 勝負が長引くほど不利になる。


「回復役や強力なマジックユーザーがいる場合は最優先排除。“影走り”で移動阻害を無視して、一直線に叩く」


 戦場全体を支配するのではなく、戦場の急所を刺す。

 それがユウナの役割だった。


・防御面の課題


「私は耐久力が低い」


 言い切った。


 生命力31という数値だけ見れば十分に高い。

 レベル13と高レベルなのもあって、そう簡単にやられると言うこともない

 だが、前線を張る戦士として見れば話は別だ。


「9レベル級の防御に寄せた戦士には普通に劣る。下手をすれば、7レベルでも防御特化の戦士なら私と同じくらいの耐久力はある」


 ユウナの防御は、基本的に回避頼みだ。

 避けられれば強い。

 避けられなければ痛い。


「だから長期戦は避ける」


 それは戦術方針というより、生存原則だった。


・HP管理の問題


「回復手段は賦術の【ヒールスプレー】よ」


 ユウナは指を一本立てる。


「Sカードなら補助動作で10点回復。ただしカード二枚が必要で4000ガメル」


 ルシエラの眉がぴくりと動く。


「SSカードなら20点回復。こっちは二枚で40000ガメル」


「高い……ですね」


 思わず漏れたその感想に、ユウナは静かに頷く。

「ええ。まさに“命の値段”ってところかしらね」


 そして、ごく小さく付け加えた。

「使った日は……スイーツが削られる」


 真顔だった。

 ルシエラは吹き出した。


 さっきまでの重い話との落差がひどい。

 だが、ユウナにとってはそれもまた切実なコスト感覚なのだろう。


・総評


「私は“瞬間制圧型アタッカー”よ」

 その声には、自嘲も誇張もない。


「戦闘開始から三十秒以内に優勢を確定させる。それが理想」


 長引けば不利。

 数で押されれば不利。

 守りに回れば不利。


 それでもなお、ここまで勝ち続けてきた。

 だからこそ、ユウナという冒険者は異常なのだ。


「我ながら、よくここまで生き延びてきたものだわ」

 苦笑まじりにそう言ってから、ユウナはルシエラへ視線を戻した。


 今度は、はっきりと真剣な目で。


「だから、あなたに期待している」


 その一言は重かった。


 火力。

 突破力。

 対急所性能。

 そうしたユウナの強みを、より確実に通すために。

 そして、ユウナ一人では埋めきれない隙を補うために。


 ルシエラはその視線を真正面から受け止める。

 もう、自分がただ守られるだけの立場ではないことを、十分に理解していた。


 ユウナが一歩横へ退き、今度はルシエラが水晶の前に立つ。


(私は、ユウナに比べれば全然弱い……)


 胸の内でそう呟きながらも、ルシエラはまっすぐ前を向いた。


(でも……)


 ここで引くつもりはなかった。

 ユウナの隣に立つと決めたのだから。

 自分に何ができるのか、何を担えるのかを、きちんと示す番だ。


 ルシエラは静かに告げる。


「ステータス・オープン」


 水晶が淡く輝き、その内部に文字が浮かび上がる。


 種族:ナイトメア

 性別:女

 年齢:18歳

 身長:171㎝

 体重:6「何でこんな項目があるんですか」

 B・W・H:「勘弁してください」


 器用度:27

 敏捷度:22

 筋力:34

 生命力:30

 知力:19

 精神力:20


 技能レベル:

 ファイター13Lv

 レンジャー9Lv

 エンハンサー7Lv


 戦闘特技:

 武器習熟/剣S

 薙ぎ払いⅡ

 全力攻撃Ⅱ

 防具習熟/金属鎧S

 頑強

 タフネス

 超頑強

 バトルマスター

 サバイバビリティ

 不屈

 ポーションマスター


 錬技:

 キャッツアイ

 マッスルベアー

 ビートルスキン

 ガゼルフット

 ジャイアントアーム

 デーモンフィンガー

 リカバリィ


 HP:114 生命抵抗力:18

 MP:20 精神抵抗力:16

 命中力:17 追加ダメージ:18 回避力:16


 ユウナの目が、はっきりと見開かれた。


「すごい……理想的よ……!」


 その声には、取り繕いのない感嘆が混じっていた。

 ルシエラの胸がどくりと鳴る。


(きっと……絶対に)


(ユウナの力になれる!)


・基本戦闘フロー


「驚いたわ。強いとは思っていたけど、ファイター13レベルまで達しているなんて」


 ファイター13レベル。

 それは単に「高レベル」というだけではない。


 超一流と呼ばれる者を分かりやすく分けるひとつの指標。

 すなわち、《バトルマスター》に到達しているかどうかだ。


 一回の攻撃に戦闘特技を二つ重ねられる。

 それは、12レベル以下とは一線を画す、明確なアドバンテージになる。


 ユウナは水晶を見ながら、次々と分析を口にしていく。


「《薙ぎ払いⅡ》で複数体を巻き込みながら、《全力攻撃Ⅱ》の重い一撃を叩き込める」


 そこでルシエラを見る。


「私にはない、絶対的な“面制圧”能力よ」


 ユウナが“点”なら、ルシエラは“面”。


 それだけで、まず役割がはっきり分かれていた。


・防御面


「しかも、防具習熟がSまで伸びている」

 ユウナの声に、感心がさらに強く混じる。


「装備できる防具の段階が、私より一つ上。そこに高い生命力、《超頑強》と《タフネス》まで乗る」


 指先で空中をなぞるように、数字を組み立てる。


「HPは114。難攻不落ね」


 ユウナのHPは85。その差は小さくない。

 ルシエラは、火力だけの前衛ではない。

 真正面から押し込まれても立ち続けられる、明確な耐久力がある。


・HP管理


「《ポーションマスター》は理想的よ」

 ユウナは即座にそう断じた。


「補助動作で自己回復できるのは本当に大きいわ」

 ルシエラのレベルと能力値なら、《ヒーリングポーション》の使用で13点から22点の回復が見込める。

 しかも一本100ガメル。


 ユウナが遠い目をした。


「私は何でレンジャーを伸ばさなかったのかしら……」


 ルシエラが少し困ったように口を開く。

「あ……アルケミストは、バフが真骨頂ですから……」


「アルケミストはね……財布に穴が開いてる感じがするのよ……」


「………」


 痛いほど事実だった。さすがにルシエラも気の利いたフォローが思いつかない。

 だがユウナはすぐに立ち直る。


「……ともかく」

 こほん、と軽く咳払いして続けた。


「《リカバリィ》と合わせれば、剣での戦闘を妨げずに20点から30点近い回復能力を回せる」


 そこで一気に勢いが増す。


「これは大きいわ……!」


 さらに、ぱっと表情を明るくする。


「スイーツも安泰ね!」


「そこですか!?」


 ルシエラは思わず突っ込んだ。


 だが、そのやり取りすらどこか嬉しい。

 ユウナが本気で喜んでいるのが伝わるからだ。


・総評


 ユウナは腕を組み、改めてルシエラを正面から見た。


「噛み合い方が半端ないわ」


 その評価に、一切の誇張はなかった。


 ルシエラが“面”で削る。

 ユウナが“点”で刺す。


 ユウナが苦手としていた対集団性能、継戦能力、前線維持。

 その多くを、ルシエラが埋められる。


 そしてそれは逆に言えば、ルシエラにとっても同じことだった。

 一点突破力。

 高速制圧。

 敵後衛や急所への刺突力。

 それをユウナが担える。


「運命論者みたいなことは言いたくないけど」

 少しだけ笑って、ユウナは右手の拳を突き出した。


「私たちは、出会うべくして出会った――そんな気もするわね」


 そして、はっきりと言う。


「よろしくね、相棒」


 ルシエラの表情が明るくなる。


「……はい!」


 弾んだ声でそう返し、突き出された拳に自分の拳を打ち合わせた。


 二人のナイトメアがここに並び立つ。


 それはただの協力関係ではない。

 互いの欠けた部分を埋め合い、より強くなるための、本当の意味での“相棒”の始まりだった。


 しばらくして、ユウナはまだ消えていないルシエラのステータス表示を眺めながら、ふと呟いた。


「それにしても……」


「……何ですか?」


「いや、別に大したことじゃないのだけど」


 ほんの少し、視線が泳ぐ。


「ルシエラって、立派よね?」


「……何がですか?」


「うん、別にね?」


「………」


 ルシエラは無言で水晶の表示を閉じた。

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