遺跡内部
三人はウォードゥームの残骸を後にして、遺跡の内部へと足を踏み入れた。
入り口を抜けると、すぐ下へと続く階段が現れた。
石とも金属ともつかない硬質な床材は、苔や土に覆われた外観とは異なり、驚くほどしっかりと形を保っている。
そして、階段を降りた先には扉があった。
継ぎ目の少ない金属製の扉。
取っ手はない。
蝶番も見当たらない。
ユウナは警戒を解かぬまま、そっと扉に手を触れた。
その瞬間――
うぃぃん……。
低い駆動音が、閉ざされた空間に響いた。
「おっと……?」
ユウナは半歩下がり、即座に身構える。
ルシエラの手が剣の柄へ伸びる。
リリアも、わずかに杖を握り直した。
だが、襲撃はなかった。
扉は静かに左右へ分かれて滑り、内側の通路を露わにした。
真っ暗な通路、そこにユウナが一歩足を踏み入れると、天井に埋め込まれた細長い光源が、白く、冷たい光を放った。
火ではない。
魔法の灯りとも違う。
揺らぎのない、均一な光。
「魔動機文明の遺跡によく見られる照明ですね~」
リリアが感心したように呟く。
魔動機文明は、およそ三百年前に滅びた文明である。
その時代の施設が、今なお扉を自動で開き、人に反応して通路を照らしている。
その事実が、かつての技術力の凄まじさを物語っていた。
「ふむ……」
ユウナは、通路の奥へ目を凝らす。
白い光に照らされた通路は、まっすぐ奥へと伸びていた。
その左右には、等間隔に扉が並んでいる。
沈黙。
靴音だけが、硬質な床に反響する。
あまりにも綺麗すぎる。
そこが、かえって不気味だった。
三人は、慎重にひとつずつ扉を開けていった。
部屋の中は、どこも似たような造りだった。
机。
椅子。
簡素なベッド。
壁際に備え付けられた収納棚。
最低限の宿泊施設。
あるいは、従業員や作業者のための仮眠室。
そう呼ぶのが近いだろうか。
「驚いたわね」
ユウナがぽつりと言った。
「風化が全然進んでませんね~」
リリアがその言葉を継ぐ。
外から見れば、遺跡は森に飲まれ、巨木の根に押し潰されかけていた。
だが内部は違う。
床も壁も、家具も、しっかりと形を保っている。
埃すら積もっていない……まるで誰かが今でも手入れをしているかのようだった。
しかし、人の気配はない。
足跡もない。
生活の匂いもない。
熱の残滓もない。
三百年の時間が、ここだけを避けて通ったようだった。
一通り部屋を調べたが、目ぼしいものは見つからなかった。
机の引き出しは空。
棚にも何もない。
ただ、設備だけが残っている。
人とその痕跡だけが、綺麗に消えていた。
やがて、三人は通路の最奥へ辿り着く。
そこには、これまでの部屋とは明らかに違う扉があった。
重厚な金属製の扉。
表面にはわずかな傷もなく、鈍い光沢を保っている。
その厚みと威圧感だけで、奥にあるものの重要性を告げているようだった。
扉の横には、小さなパネルが埋め込まれていた。
十二個のボタンが整然と並んでいる。
リリアが覗き込み、ふむふむと頷いた。
「魔動機文明でよく使われていた、パスワード方式ってやつですね~」
「……ふむ」
ユウナは指を顎に当て、しばらく黙り込んだ。




