生還②
宿へ戻る道すがら――
ギルドでユウナの帰還が確認されたことで、彼女の活躍は瞬く間に街中へ広がっていた。
それも、ただ正確に伝わるのではない。
当然のように尾ひれがつき、誇張され、半ば伝説めいた勢いで膨れ上がっている。
通りを進むたび、あちこちから声が飛んできた。
「ユウナだ……!」
「街を救ってくれたんだろ!?」
「万の大群を相棒と二人で退けたんだってよ!!」
「くっ……尊い……!」
歓声。
感謝。
熱狂。
そしてここにも湧いた、妙に方向性の怪しい反応まで。
さまざまな声が、視線が、波のようにユウナとルシエラへ降り注ぐ。
「……なんかさっきから変な声が混ざってない?」
ユウナが小さくぼやくが、ルシエラは聞こえなかったふりをした。
その一方で、もう一人の同行者にも、当然視線は向けられていた。
「あのエルフの娘は誰だ?」
「ユウナの新しい仲間か?」
「あの娘もスタンピードでユウナと一緒に?」
「おいおいおい、可愛いぞおい!」
リリアはそうした注目を浴びるたびに、困ったように苦笑した。
元々目立つことを好む性格ではないのだろう。
騒がしさが増してきたところで、ふわりと一歩下がった。
「目立つの苦手なので、この辺でお暇しますね~」
「ええ、今回は本当に助かったわ」
ユウナがもう一度謝意を述べると、リリアはいつもの間延びした笑みを返した。
「気にしなくていいですよ~。今回はわたしも儲かりましたし~」
そして続ける。
「身体が動くようになったら、またお店に来てくださいね~」
「もちろんよ。消耗品の買い足しもしたいしね」
「ありがとうございます、リリア」
ルシエラもまっすぐに頭を下げる。
「ユウナが生きているのは、あなたのおかげです」
その言葉にリリアは目を閉じて、やわらかく笑った。
「いえいえ~。ユウナさんなら、わたしがいなければ、いないなりの戦い方をしてたはずですよ~」
「謙遜ね」
ユウナが、すぐに首を振る。
「相手がグレータードラゴンの時点で、あなたなしの勝ち筋は皆無だったわ」
リリアの姿をしっかりと見ながら続ける。
「できれば、また一緒に戦いたいわね」
リリアは、いつものによりとした笑みを浮かべた。
「ありがとうございます~。まあ、利害が一致すれば、ですかね~」
商売人らしい返答だった。
しかし、その声にはどこか親しみも混ざっている。
今の言葉は、遠回しな拒絶ではない。
機会があればまた手を貸す――そういう含みを持った、彼女なりの了承だった。
「それでは、また」
そう言って別れようとしたルシエラだが、ふと足を止めた。
抱えているユウナを片腕で支え直し、動けない彼女の手の上に、空いた自分の手をそっと重ねる。
そして、そのまま二人分を代表するようにリリアへ差し出した。
リリアは一瞬だけきょとんとした顔をしたあと、くすりと笑ってその手を握り返す。
「はい、お大事にしてくださいね~」
そのまま手を離し、背を向けかけた――その時だった。
「今度会うときは、〈性転換薬〉の使用感、教えてくださいね~」
一瞬、空気が止まる。
ルシエラの顔が、一気に真っ赤になった。
「…………っ! つ、使いません!!」
思わず張り上げた声が、通りに響く。
その反応に、リリアは肩を揺らして笑いながら手を振った。
ユウナは腕の中で、いかにも面白そうに口元を歪めている。
そんな小さな騒がしさを残しながら、リリアは雑踏の中へ消えていった。
残された二人は、その背をしばらく見送る。
スタンピード。
グレータードラゴン。
ドラゴンゾンビ。
そして、死からの帰還。
重すぎる戦いのあとに交わした別れとしては、あまりにも軽やかで、あまりにも彼女らしい幕引きだった。
「さあ、私達も帰りましょう」
そしてまた、ヴァルクレアの街の喧騒の中を、二人も我が家へと帰っていく。




