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グレータードラゴン②

「回復します~」


 リリアが発したのは、ふわりとした緊張感のなさそうな声だが、戦場の轟音の中で不思議なほど鋭く響いた。


「操、第十一階位の快。地精、治癒、再生、生命―――地活」


 彼女の周囲で魔力が大地と共鳴するように脈打つ。


「【アース・ヒールⅡ】」


 次の瞬間、柔らかな光がユウナとルシエラを包み込んだ。


 焼けた皮膚が、みるみるうちに癒えていく。

 火傷の痛みが引き、損傷した肉が再び閉じる。


 ほんの一瞬前まで炎に呑まれていたとは思えないほど鮮やかな回復だった。


 ユウナが剣を握り直す。


「私は胴体部を狙う! ルシエラは、剣の届かない頭部以外をまとめて薙ぎ払って!」


 短く、明快な指示。


「《魔力撃》及び《全力攻撃Ⅱ》発動!」

「《薙ぎ払いⅡ》及び《全力攻撃Ⅱ》発動!」


「「はぁあああああ!!」」


 二人の斬撃がほぼ同時に走る。


 ユウナの一撃は、竜の胴体を支える鱗の隙間へ正確に食い込む。

 魔力を叩き込まれた刃が、鉄よりも硬い外殻を無理やり裂き、深く肉を抉った。


 ルシエラの白い刃は、薙ぎ払うように大きく弧を描く。

 翼。

 脚。

 尾の付け根。


 届く部位すべてを巻き込むような豪快な一撃が、竜の身体へまとめて叩き込まれた。


 硬い鱗が裂ける。

 血が噴き上がる。


「グルォオオオオオオオオオオッ!!!!!」


 怒りに満ちた咆哮が、大気そのものを震わせた。


 次の瞬間、グレータードラゴンの巨体が荒れ狂う。


 ただ暴れるだけで、災害だった。


 前脚の太い鈎爪。

 左右の翼を叩きつけるような猛打。

 そして、極太の鞭のように振るわれる尻尾。


 そのすべてが、ただ一撃で人を粉砕しうる破壊力を持っている。


 ユウナとルシエラは、それを真正面から耐え忍び、躱し、捌き続けた。

 肉が裂け、吹き飛び、叩きつけられる。


 猛攻はそこで終わらない。

 ドラゴンの口が、ゆっくりと開く。


 その喉奥で、今度は炎ではなく、別種の魔力が凝縮していく。


 詠唱。


 高度な知性を持つ幻獣の王は、ただの巨獣ではない。

 強大な魔力で真語魔法をも操る。


「隕石、来るわよ!」


 ユウナが叫ぶ。


 グレータードラゴンの真語魔法レベルは15。


 放たれるのは――

【メテオ・ストライク】。


 宇宙に無数に漂う小惑星の一つを強引に引き寄せ、落下させる第十五階位の極大破壊魔法。

 その莫大な破壊力は、人が造る中でも最も固い構造物の一つであろう城の外壁すら崩しうる。


 上空が、赤く閃く。


 そして――落ちた。


 轟音。


 視界が白く弾ける。

 衝撃が大地を叩き、空気が爆発する。

 巻き込まれれば人の生存など絶望的であろう衝撃が、二人の立つ地点を容赦なく飲み込んだ。


「ぐっ!」

「うああああっ!」


 苦鳴が漏れる。


 地面が抉れ、土砂が吹き飛ぶ。

 衝撃波が周囲を薙ぎ払い、視界を土煙が埋め尽くした。


 普通ならそれで終わりだ。


 人間など、形すら残らない。


 だが――


 二人は立っていた。


 幾重にも重ねられたバフ。

 破れ落ちる〈月光の魔符〉。

 砕け散る〈消魔の守護石〉。

 そして何より、ハイペリオン級に至った者たちの強靭な生命力。


 それらすべてを総動員して、なお辛うじて耐え切ったのだ。


「ルシエラ、生きてる!?」


 土煙の向こうから、ユウナの声が飛ぶ。


 すぐに返ってくる。


「大丈夫です――戦闘行動に支障なし」


 短く、はっきりと。


 その返答の瞬間、戦場の空気が変わった。


 焦ったのはドラゴンのほうだった。

 幻獣の王たるその存在に、初めて明確な焦燥の気配が生まれる。

 自分の最大級の一撃を受けてもなお、目の前の矮小な人間たちは倒れない。


 その事実が、ドラゴンにとってかつて経験したことのない現実として突きつけられたのだった。

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