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異郷からの錬金術師③

 西区を抜けて中央区、二人は拠点のある東区へ向かって歩いていた。


 背後では、鍛冶場から響く金槌の音が少しずつ遠ざかっていき、中央区へ差しかかるころには、その代わりに街のざわめきが戻ってきていた。


 行き交う人々の足音。

 商人たちの呼び声。

 通りに満ちる、いつものヴァルクレアの息遣い。


 その中をユウナは、実に軽やかな足取りで歩いていた。


「いい買い物ができたわ」


 声まで弾んでいる。


 半ばスキップを踏んでいる。

 まるで、狩りを終えて戦利品を咥えて帰る獣のようだった。


 ……実際、その通りなのだが。


 ユウナは整理するように、買った物のリストを眺めた。


 〈世界樹の小さな実〉

 HPとMPを大きく回復し、しかも即効性がある。

 欠損部位も回復する。


 これがあったら、レジェンダリーゴブリン戦のあと、あの長い“おかゆ生活”を余儀なくされずに済んだかもしれない。


 〈ヒーリングポーション〉

 一見すると珍しくもないが、従来からケルディオンにあるものとは違い、対象に振りかけることでも効果を発揮する。 

 「口移しの機会は減ってしまうわね」

 「……っ!? 知りません!」


 〈インドミタブルポーション〉

 気絶を防ぎ、最後まで立って戦える薬。

 もっとも、それはそのまま限界を見誤る危険も孕んでいるため、使いどころは慎重に見極めなければならない。


 そして、アンチマジック加工。

 鎧に施すことで、魔法に対しても防護点が機能するようになる特殊加工であり、三回までという制限こそあるものの、それでも十分すぎるほど強力だった。


 ユウナは満足そうに頷く。

「ふふ……完璧ね」


 その横で、ルシエラは静かに歩いていた。

「……良かったですね」


 声そのものは落ち着いている。

 だが、その目はじとっと細められており、視線が容赦なくユウナへ突き刺さっていた。


 もちろん、ユウナもそれには気づいている。

 気づいているが、まったく気にした様子もなく言い放った。


「10万ガメルくらい何よ」

 事も無げに言う。


「これだけの品なら、むしろ安い買い物でしょう?」


 ルシエラは小さくため息をついた。

「まあ、ユウナがこういうものにお金を惜しまない人だってことは、もう知っています」


 レジェンダリーゴブリン戦で大量に消耗し、物流の関係でまだ十分に回復しきっていなかった数十万ガメル分の消耗品の補充。


 それに加えて、今回の希少品の数々。


 いきなりの大量購入に、さすがのリリアも目を丸くしていた。


「むしろ、それで助かっているわけですし」


 一拍置いてから、ルシエラは続ける。


「だから、そこはいいんです」


 ユウナがわずかに首を傾げた。

「じゃあ、何が不満なの?」


「…………」


 ルシエラは答えない。


 だが、その沈黙だけで十分だった。


 ユウナはにやりと口元を歪める。


 分かっている顔だった。

 そして――懐から、小さな瓶をひとつ取り出してみせる。


「これかな?」


 〈性転換薬〉


 光を受けて、瓶の中の液体がほんのりと揺らめく。


 その瞬間、ルシエラの動きが止まった。

 時間が止まったかのような完全停止。


 それから、かっと顔が赤く染まる。

「……っ!」


 耳まで真っ赤になり、思わず一歩分だけ距離を取る。

「もうっ! ユウナのそういうとこ、キライです!」


 ユウナは瓶を指先で揺らしながら、どこ吹く風といった顔で笑った。


「いいじゃない、私達、もうあんなに愛し合ったんだし」

 微かに朱く染めた頬に手を当てながら、目を伏せて首をかしげる。


 ルシエラは目をぐるぐると回しながら叫んだ。

「な……! あっ……! っ、それとこれとは別です!」


「便利な言葉ね、それ」


「ユウナが便利に逃げる時によく使う言葉ですよ!」


「最近口が回るようになってきたわね」


「誰の影響だと思っているんですか!」


 即座に返され、ユウナは楽しそうに目を細めた。

 以前のルシエラなら、ここまで自然に言い返すことはなかった。


 少なくとも、出会ったばかりの頃の彼女は、もっと言葉を選び、もっと遠慮し、ユウナの一言一言に慎重に反応していた。

 それが今では、こうしてしっかりと流れるようにツッコミを入れてくる。


「成長したわね、嬉しいわ」


「……いきなり何の話ですか?」


 その変化がユウナには嬉しかった。


「まあ、安心しなさい。勝手に使ったりはしないわよ」

 そう言って、ユウナは小瓶を懐へ戻す。


「ちゃんと相談してからね」


「使う前提なのが問題なんです!」


 ユウナはさっきルシエラが空けた一歩分の距離を詰め、その耳元で囁いた。

「私の“初めて”は、ルシエラのものだよ」


 ……………………

 

「~~~~~~~~っ!!?!!?」

 たっぷり時間をかけて意味を咀嚼したあと、ルシエラは顔を真っ赤にして、声にならない絶叫を上げた。

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