告白の行方②
ルシエラは椅子に座ったまま、じっとユウナを見つめていた。
返事を待っている。
ただ、それだけだった。
しかし、その表情には隠しきれない緊張が滲んでいる。
膝の上で重ねられた手は、祈るように、かすかに握りしめられていた。
ユウナは閉じていた目を、ゆっくりと開く。
そしてルシエラを見た。
逃げることなく。
誤魔化すことなく。
静かに――だけどはっきりと言った。
「私も好きよ」
「……っ!!」
ルシエラの瞳が、大きく揺れた。
声を出すこともできず、ただその言葉を受け止めるように、潤みはじめた瞳でユウナを見つめる。
ユウナは続けた。
「ハイペリオンの“相棒”としてはもちろんだけど……それだけじゃない」
少し照れたように笑う。
「ただのユウナとして、ただのルシエラが好き」
その声は、戦場で指示を飛ばす時のような鋭さも、ギルドで軽口を叩く時のような調子のよさもなかった。
ただ少し不器用で、少し照れくさそうで、それでも真剣な、ひとりの少女の声だった。
「真面目なところ。
ちょっとズレたりするところ。
変に融通が利かないところ」
ユウナは指でひとつずつ数えるように、ゆっくりと言葉を重ねていく。
「私の隣に立つために、必死に頑張る姿」
そこで、少しだけ間を置いた。
「……ずっと好きだったんだと思う」
ルシエラの胸が、大きく高鳴った。
何かを言おうとして、けれど言葉は喉の奥で震えるばかりで、うまく形にならなかった。
ユウナは、さらに続ける。
「だから、あなたにだけ見せられた」
少し苦笑する。
「お金が好きなところ」
ルシエラの口元がわずかに緩む。
「スイーツが大好きなところや、油断しきった姿」
そうしてから、ユウナは少し照れくさそうに目を伏せた。
しかし、すぐにまたルシエラを見る。
「私も、ずっとルシエラの隣にいたい」
短い沈黙。
それから、もう一度。
「隣にいてほしい」
その言葉が終わった瞬間。
ルシエラが勢いよく立ち上がった。
椅子が大きく音を立てて後ろへずれる。
その音が響き終わるより早く、ルシエラはもうユウナに抱きついていた。
立ち上がった勢いのまま。
抑えきれない想いのまま。
「ユウナ!」
弾けるような声だった。
嬉しさも、安堵も、ずっと胸の奥で堪えていたものも、全部が一度に溢れ出したような声だった。
ユウナは慌てて腕を広げる。
「ちょ、ルシエラ――」
抱き止めようとしたが、その瞬間。
ズキン!と。
まだ癒えきっていない身体に、鋭い痛みが走った。
「いづっ!?」
耐えきれず、ユウナの身体がぐらりと揺れる。
ルシエラも慌てて止まろうとしたが、勢いは止まらず、二人はそのままベッドの上へどさりと倒れ込んだ。
一瞬の沈黙。
それから、ユウナが顔をしかめながら呟いた。
「……痛たた……っ」
ルシエラは、はっとして慌てて身体を起こした。
「す、すみません!」
真っ赤な顔でユウナの手を取って、起き上がるのを助ける。
「大丈夫ですか!?」
ユウナは数秒黙ったあと、小さく笑った。
「……まあ、恋人に抱きつかれて押し倒されたなら、悪い気はしないわね」
その言葉に、ルシエラの顔がさらに赤くなる。
二人はしばらくそのまま見つめ合った。
そして、どちらからともなく、ふっと笑う。
さっきまで部屋を満たしていた緊張が、嘘のようにほどけていく。
ベッドの上。
ほんの数十センチの距離。
ユウナの呼吸が聞こえる。
ルシエラの呼吸も聞こえる。
ランプの灯りに照らされた互いの顔は、戦場で見せる“相棒”の表情とは違っていた。
剣を構える時の鋭さもない。
命を賭ける時の張り詰めた覚悟もない。
今そこにあるのは、嬉しそうで、少し恥ずかしそうで、どうしようもなく優しい顔だった。
静かな時間が、ゆっくりと流れる。
やがて、ルシエラがそっと顔を寄せた。
ほんの少しずつ。
ためらいながら。
それでも、もう逃げないと決めたように。
ユウナは静かに目を閉じた。
そして――
唇がそっと触れた。
ほんの微かな触れ合いだった。
確かめるような、壊れものに触れるような、短く、やさしいキス。
やがてゆっくりと離れ、二人は揺れる瞳のまま見つめ合った。
それから同時に、安心したように、やわらかく微笑む。
数奇な運命をたどった者同士の――
剣と魔法と鉄と血の匂いの向こうで、ようやくたどり着いた――
二人だけの、静かな時間だった。




