レジェンダリーゴブリン④
勝ちが見えてきた。
レジェンダリーゴブリンの体は、すでに満身創痍だった。
体中に無数の傷口が裂け、どす黒い血が止めどなく流れている。
呼吸は荒い。
巨体はわずかに揺れ、立っていること自体が奇跡のように見えた。
――勝てる。
確実に。
レジェンダリーゴブリンが、怒りの形相で棍棒を構える。
だが、もう詰みだ。
単発攻撃なら【ブリンク】がある。
ユウナは冷静に手順をなぞる。
「【パラライズミストSS】――《マルチアクション》 《魔力撃》!」
斬撃が走る。
レジェンダリーゴブリンの胸に、深い裂傷が刻まれる。
巨体が大きく揺れた。
「グ……!」
膝が沈む。
限界だった。
あと一撃。
あと一度、ルーティンを回せば終わる。
ユウナは一歩下がり、詠唱に入る。
「【ブリンク】――」
幻影がユウナの身体を包んだ。
――その瞬間。
背後で、何かが動いた。
ぞわりと背筋に冷たいものが走る。
ユウナが振り向くと、そこにあったのは倒れていたはずの存在。
ドレイクバロンの死体の陰から、血に塗れた身体が、ゆっくりと起き上がる。
リャナンシー……
ルシエラの一撃で致命傷を受け、沈黙していたはずの妖魔。
だが――
まだ、死んでいなかった。
腹が裂け、血に濡れ、明らかに致命傷を負っており、立っているが不思議な状態。
目は虚ろ。
意識もほとんど残っていない。
それでも。
彼女は、ふらふらとユウナへ歩く。
一歩。
一歩。
そして――
腕を振るった。
力などない。
まるで。
子猫がじゃれつくような動き。
ぺち。
それだけ。
ダメージなど、ゼロに等しい。
だが――
その瞬間。
ユウナの目が見開かれた。
「――――っ!!」
パリン。
ガラスが砕けるような音。
ユウナを包んでいた幻影が、粉々に砕け散る。
【ブリンク】が消えた。
同時にリャナンシーは倒れて絶命した。
そしてその場に、静寂が満ちる。
レジェンダリーゴブリンの顔が、ゆっくりと歪んだ。
「ク……」
口角が裂けるように吊り上がる。
「クカカカカカカカカ!!」
哄笑。
それは勝利を確信した笑いだった。
理解したのだ。
この戦いの“構造”を。
レジェンダリーゴブリンは棍棒を握り直す。
腕の筋肉が膨れ上がる。
残った力のすべてを、一撃に集める。
低く、重い声。
「《ゼンリョクコウゲキⅢ》!」
生命力が巡る。
筋力が限界まで引き上げられる。
全身の重量。
筋肉。
勢い。
すべてを叩き込む、必殺の一撃。
棍棒が、高く振り上げられる。
影がユウナに落ちる。
ユウナの目がわずかに揺れる。
逃げ場はない。
【ブリンク】は消えている。
回避……間に合わない。
せめてもと、咄嗟に頭を守る。
レジェンダリーゴブリンが咆哮する。
「シネェエエエエエエエ!!!!」
棍棒が振り降ろされる。
――次の瞬間。
爆発のような轟音。
棍棒がユウナの身体に直撃した。
爆発のような衝撃が、命中した胸元から全身に広がる。
肋骨が砕け、破片が内臓に食い込む。
視界が揺れる。
全身が内側から潰される。
「がはっ!!」
空気が強制的に吐き出された。
「《レンゾクコウゲキ》!」
続けて棍棒が下から上に振り上げられる。
その一撃がユウナの腹部に突き刺さった。
「あ゛っ!!」
身体がくの字に折れる。
殴打の衝撃で身体が上空へ弾き飛ばされた。
「ごぼっ!!」
口から大量の血が溢れる。
しかしレジェンダリーゴブリンの攻撃はまだ終わらない。
地を蹴って、宙に浮いたユウナの上まで飛び上がる。
「《レンゾクコウゲキⅡ》!!」
有らん限りの力を込めて棍棒を振り下ろした。
トドメと言わんばかりの一撃で、ユウナの鎧が砕ける。
空中で為す術もなく棍棒に捉えられた身体は、そのまま地面に叩きつけられた。
地面を跳ね、岩床を砕きながら転がる。
ようやく止まったとき、ユウナは動かなくなっていた。
流れ出た血が地面に広がる。
呼吸は断続的で、全身がビクビクと痙攣している。
その光景が階段の前で戦っていたルシエラの視界の端に映った。
顔を向けて直視、その瞬間、目が見開かれた。
「ユウナ……」
時間が止まる。
大剣が止まる。
そして、喉の奥から、絶叫が噴き出す。
「ユウナぁああああああああ!!!!」
戦場に響き渡る叫び。
ゴブリンロードたちが、一瞬動きを止めるほどの声。
ルシエラの視界が、赤く染まる。
呼吸が荒くなって、握る大剣が震える。
台座の上ではレジェンダリーゴブリンが、肩で息をしながら嗤っていた。
「クカカカカカ……ッ!!」
血に濡れた口元には勝利の笑み。
「オワリダ」
そう言って、ゆっくりとユウナの倒れている方へ歩き出す。
処刑を行う王のように。
《連続攻撃》は攻撃が命中した相手にもう一度攻撃できる戦闘特技です。
《連続攻撃Ⅱ》で、更に追加攻撃。




