レジェンダリーゴブリン②
「作戦通りよ、ルシエラ……っ!」
殴り飛ばされ、岩床が砕けるほどの勢いで叩きつけられたユウナ。
それでもすぐに立ち上がった。
腹部を押さえ、歯を食いしばったまま立つ。
「【ヒールスプレーSS】――!」
白色の魔力が弾け、傷を塞ぐ。
さらに、成長によって新たに会得した錬技も重ねる。
「【リカバリィ】……!」
だが、レジェンダリーゴブリンの一撃の前では、その回復量すら焼け石に水だった。
砕かれた石壁の前で、ユウナは浅く息を吐く。
肺が痛い。
腹が焼けるように熱い。
全身が、あの一撃の重さをまだ覚えている。
それを見て、レジェンダリーゴブリンが愉しそうに嗤った。
「クククククク」
低く、濁った笑い。
「イツマデモツカ……タメシテヤロウ」
「……ぺっ!」
ユウナは口の中に溜まった血を吐き捨てる。
そして、レジェンダリーゴブリンを睨み返した。
「戦闘特技も何も使わず……ただ殴っただけ、か」
声は低い。
けれど、もう震えてはいない。
「余裕を見せたつもり?」
レジェンダリーゴブリンは答えない。
ただ笑っている。
ユウナは続けた。
「今の一撃で、私を殺せたはずなのに、そうしなかった」
「格の違いを見せつけるために」
「絶望を与えるために」
そこで、口元をわずかに吊り上げる。
「それがお前の敗因よ」
レジェンダリーゴブリンの目が、ほんのわずかに細められた。
ユウナは剣を構え直す。
「《マルチアクション》! 《魔力撃》!」
斬撃の踏み込みと同時に、詠唱が始まる。
今度選んだのは攻撃魔法ではない。
「真、第八階位の幻――隠密、消失、瞬間――幻身」
魔力が身体の周囲へ纏わりつく。
「【ブリンク】……」
幻の身体が、ユウナの輪郭へ重なる。
【ブリンク】
どれほど強力な一撃であっても、一度だけ完全に回避するための魔法。
無敵に思える魔法だが、格下の雑魚の、取るに足らない一撃にも、避ける避けないに係わらず無差別に反応して、ただ消費させられて終わることもある。
だがこの戦場では違う。
この台座の上にいる敵は、レジェンダリーゴブリンだけ。
雑魚に割られる心配はない。
ユウナは薄く笑った。
「これでお前は――打つ手なしよ!」
レジェンダリーゴブリンが棍棒を振るう。
先ほどユウナを壁まで吹き飛ばした、あの一撃。
だが。
命中する…!その瞬間。
ユウナの身体が霧のように揺らいだ。
棍棒は空を切り、幻影が霧散する。
ユウナの本体は、半歩だけ横へずれていた。
そして、その瞬間放たれるカウンターの斬撃。
ギンッ!!
刃が走る。
レジェンダリーゴブリンの肩が、わずかに裂けた。
致命傷には程遠い。
あまりにも浅いその一撃。
だが確実にダメージは入った。
皮膚にほんの一筋ずつでも。
刻めば、削れる。
レジェンダリーゴブリンとの一対一。
そのために切った、最適解の一手だった。
もっとも、本来ならそこで横槍が飛んでくるはずだった。
ゴブリンロードたちの援護だが、それは考える必要はない。
台座へ続く唯一の階段を、ルシエラが完全に封鎖していたからだ。
「はあああああっ!!」
暴風のように、大剣が唸る。
一振りでゴブリンロードが五体同時に吹き飛ぶ。
血が舞う。
骨が砕ける。
さらに一体。
もう一体。
斬撃の嵐。
完全な戦線封鎖だった。
ゴブリンロードたちは近づけない。
王を援護できない。
ただ、屍を積み上げていくだけだ。
ルシエラの足元には、すでに十数体の死体が転がっていた。
それでも彼女は止まらない。
「ユウナ!!」
振り返りはしない。
だが、その声には確信があった。
「そっちは任せました!!」
その言葉に、ユウナは小さく笑う。
「ええ」
剣を握り直す。
「任されたわ!」
そして、レジェンダリーゴブリンを見る。
「さあ」
低く告げる。
「二回戦よ!」




