作戦会議――告白
遠くで、ゴブリンたちの喧騒が続いている。
焚き火の煙がゆっくりと空へ上がり、風に流されていた。
その騒がしい光景とは対照的に――
木陰に身を潜める二人のあいだには、静かな空気が流れていた。
ユウナの言葉。
「もし、私が死んだら――あなたは逃げなさい」
その余韻がまだ消えていない。
――数秒の沈黙のあと、ルシエラが口を開いた。
「嫌です」
短く、はっきりと。
その声には迷いが一切なかった。
ルシエラは真っ直ぐにユウナの目を見ていた。
視線を逸らさない。
揺らがない。
「ユウナが死んだら」
一語ずつ、確かめるように続ける。
「私も死にます」
その瞬間、空気が止まったように感じた。
森の音すら遠くなった気がした。
ルシエラはほんの少しだけ呼吸を整えてから続ける。
「ユウナのいない世界で、私は生きたいと思わない」
声は静かだった。
激情ではない。
怒りでもない。
ただ、自分にとって揺るがない事実を告げているような口調だった。
「ユウナがいないなら、村なんて滅んでもかまわない」
遠くの巣を一瞬だけ見る。
ゴブリンたちが騒いでいる。
だが、視線はすぐにユウナへ戻った。
「世界がゴブリンに蹂躙されたって、どうでもいい」
ユウナは数秒、何も言わなかった。
ただ、ルシエラを見ている。
そして――
「……ふ、ふふっ」
小さな笑い声が漏れた。
最初は抑えたような笑い。
だが次第に、肩が揺れる。
「ふふっ……ちょっと……」
笑いながら、額を押さえる。
「あなたね」
そして、困ったように言った。
「それ、どう聞いても愛の告白なんだけど?」
ルシエラはパチ、パチと、二回だけ瞬きをした。
そして下を向いて思考する。
言葉の意味を、一つずつ整理しているようだった。
数秒後、ルシエラは僅かに視線を上げた。
そして答えが出たのか、もう一度ユウナを見る。
「そうですね」
あっさりと。
あまりにも自然に。
空気が変わった。
ユウナの笑いが止まる。
ルシエラは続けた。
「私は、ユウナが好きです」
真っ直ぐに。
迷いなく。
ユウナは固まった。
本当に、文字通り固まった。
動きが止まる。
瞬きすら忘れたように。
「……」
沈黙。
遠くでゴブリンが叫んでいる。
けれど今この瞬間だけは、それすらも別の世界の出来事みたいだった。
やがてユウナが、ようやく声を出す。
「……え?」
間の抜けた声だった。
いつもの切れ味は、どこにもない。
「いや、ちょっと待って」
額に手を当てる。
「今の、その……」
ルシエラは首を傾げた。
「?」
本気で不思議そうな顔。
ユウナは完全に調子を崩していた。
「あのね」
「私、今」
と、自分を指さして――
続けて指で巣のほうを示す。
「あのレベル20と死闘する覚悟を決めてたんだけど」
深く息を吐く。
「その直前に告白される展開は聞いてないわよ!?」
ルシエラは少しだけ考えた。
それから真面目に言う。
「決戦前に気持ちを整理するのは、合理的だと思います」
ユウナが頭を抱える。
「そう言う話じゃない!!」
思わず大きな声が出た。
はっとして、すぐに口を押さえる。
二人とも慌てて巣のほうを見る。
……気づかれていない。
ほっと息をつく。
ユウナは小声で言った。
「いや……ちょっと待って……」
額を押さえたまま。
「なんで今なのよ……」
ルシエラは真剣に答える。
「死ぬかもしれないので」
率直な物言いに、ユウナがもう一度黙る。
ルシエラは続ける。
「後悔するのは嫌です」
少しだけ視線を落とす。
そしてまた、ユウナを見る。
「私はずっと思っていました……ユウナは」
声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「強くて、冷静で、優しいです」
一呼吸。
「でも、自分を軽く扱いすぎてます」
ユウナの目が、わずかに動いた。
ルシエラは静かに言う。
「だから、私の重みを足します」
その言葉に、ユウナは息を飲んだ。
「ユウナが死ぬなら、私は一緒に死にます。――それが嫌なら死なないでください」
ほんの少しだけ顔が赤くなり、口元が緩む。
「あと、私の気持ちは伝えたから返事を聞かせてください」
ユウナは、数秒間何も言えなかった。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
それから苦笑した。
「……あなたね」
頭を掻く。
「本当に無茶苦茶なこと言うわね」
ルシエラは静かに返した。
「ユウナほどではありません」
その言葉に、ユウナは完全に言い返せなくなった。
数秒後。
ユウナは小さく肩をすくめる。
そして言った。
「……分かったわよ」
深呼吸。
表情が、戦場を見る目へ戻っていく。
「じゃあ約束」
ルシエラを見る。
「これが終わったら返事を返す……だから私が返事を返すまで、二人とも絶対死なない。」
その言葉に微笑んで頷くルシエラ。
ユウナも頷き返して、そのまま巣のほうを指差す。
「さあ、あのくっそ偉そうなゴブリン――」
「二人でぶっ殺すわよ!」




