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決断――作戦会議

「騎士団を動かしている間にも、あのゴブリンたちは増え続ける……襲い続ける」

 ユウナは巣を見据えたまま、低く言った。

「あの村だけじゃない。どれだけ被害が出るか、想像もつかないわ」


 ユウナはスッと目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。


 それから、もう一度巣を見る。


「幸い、レジェンダリーゴブリンの群れとしてはまだ小さい」

 静かに、だが自分へ言い聞かせるように続ける。

「だからあの一体を除けばそれほど脅威でもないわ」


 それは事実だ。


 ゴブリンロードがいくら多かろうと、ドレイクバロンがいようと、リャナンシーがいようと。

 “それだけなら”ユウナとルシエラで対処不能な相手ではない。


 問題はあの中心にいる一体だけだ。


 ユウナはもう一度深く息を吐いた。


 そしてはっきりと告げる。


「やるわよ、私たちで」


 ルシエラは何も言わなかった。

 言葉を挟めば、この張り詰めた覚悟が揺らぎそうだったからだ。


 二人はすぐに次の段階へ進む。


「まずは、変異種を討伐したときと同じ、

 賦術とポーションで、限界までバフをかけるわ」


 頭の中で戦場を展開しているのだろう。

 声が早い。

 だが、内容ははっきりしていた。


「【フライト】で飛べば、ゴブリンロードの群れを飛び越えて台座まで直行できる」


 巣の中心である台座を視線で示す。


「二人同時攻撃で、まずドレイクバロンを落とす。

 リャナンシーは戦闘型じゃないから耐久力がない。あなたの《薙ぎ払い》なら巻き込んで仕留められるわ」


 ルシエラも視線で地形をなぞる。


 台座。

 階段。

 周囲のゴブリンロードの配置。

 バロンとレジェンダリーゴブリンの位置。

 リャナンシーとの距離。


 成立する。

 少なくとも、初手だけなら。


 ユウナは、無理やり口元を上げた。


「ツいてるわよ、私たち」


 その笑みは、いつものような余裕の笑みではない。

 自分を鼓舞するためのものだった。


「あの群れ、まともな魔法戦力はドレイクバロンくらいしかいない」


 ゴブリンシャーマンらしき個体が何体か見える。

 だが、その魔力はそれほど高くはなく、本格的な高位攻撃魔法を運用できるような脅威ではない。


 理屈としては確かにそうだ。


 それは、半分は気休めだった。

 しかしこんな絶望的な状況では、そういう小さな“マシな要素”にでも縋らなければ、押し潰される。


 ユウナはさらに続ける。


「バロンを倒したら、ルシエラはゴブリンロードたちを引きつけて」


「やつらが寄ってこないよう、全力で注意を引いて倒しまくって」


 ルシエラの役割。

 面制圧。

 前線維持。

 群れの抑え込み。


 そこまではこれまで通りだ。


「地の利も使えるわ」


 ユウナは台座の端を指差す。


「レジェンダリーゴブリンに続く道は、あの階段ひとつだけ。

 あそこを押さえれば、ゴブリンロード達は上がってこれない」


 台座は高い。

 周囲を木や高台に囲まれているわけでもなく、実質的な侵入路は階段のみ。

 狭所戦になるなら、数の利はかなり削げる。


 そこでルシエラが一つ意見を挟む。

「そもそも階段を壊してしまえば?」


 その言葉にユウナは頭を横に振る


「それはダメ。階段を壊せば、奴らは別の方法で上がってこようとする……それも、それぞれが思いつくままに」


 台座周りをぐるりと指さす


「あちこちから上がってこられると、あなた一人では対処できない。

 だから階段はそのままで、あなたさえ突破出来ればいいと思わせておくの」


 息を一つついて

「目の前に手段があるなら、奴らは他の事なんて考えない……バカだから」


「分かりました」


 納得して頷くルシエラを見て、ユウナは袋を取り出した。

「これも渡しておく」


 中からに入っていたのは、〈気になる案山子Ⅲ〉と言う魔法具。


 敵の注意を引きつけ、一撃を肩代わりさせるための消耗品だ。

 しかも一つや二つではない。


 十個。


 ルシエラの目がわずかに見開かれる。


「手が空く間があったらばら撒けるだけばら撒けなさい」


 袋を差し出す。


 その手が、かすかに震えていた。


 ルシエラはそれを受け取る。

 ずしり、と重い。


 アイテムそのものの重さではない。

 ユウナがどれだけ本気で、この戦いを“最悪まで想定しているか”の重さだった。


「ユウナは……どうするんですか?」


 答えは分かっている。

 ここまで組み立てれば、残った役割は一つしかない。

 それでも、聞かずにはいられなかった。


 ユウナは笑った。

 青ざめた顔で、無理やり笑顔を作る。


「ルシエラが集団を“面”で制圧する」


「私は単体を“点”で刺す」


「――でしょ?」


 それは二人の基本だった。

 共に戦うと決めたときから約束された連携の形。


 しかし今回は、その“点”があまりにも重すぎる。


 レベル20。

 その存在と一対一。


 危険度はルシエラの比ではない。


 ユウナは続ける。


「この前の変異種と違って、ゴブリンは大きくはないから」


 大型の魔物なら、複数部位を持つ。

 巨体そのものが複数の攻撃手段になり、戦闘では理不尽な手数を押しつけてくる。


 だが、ゴブリンは違う。

 どれだけ異常個体であっても、基本構造は“小さい”。


「私の得意な相手ね」


 そう言い切る。


 そしてさらに、はっきりと。


「大丈夫」


「勝機は十分にある相手よ」


 ルシエラは、その言葉が半分は自分に、もう半分はユウナ自身に向けられているのだと分かった。


 鼓舞しているのだ。


 自分を。

 そして、目の前にいる相棒を。


 数秒の沈黙。


 風の音。

 笑い声。

 喧騒。


 そのすべての中で、ユウナがもう一度口を開く。


 今度の声は、少しだけ低かった。


「でも……もし、私が死んだら」


 どくん!と、ルシエラの胸が強く鳴る。


 ユウナは、まっすぐルシエラを見た。

「あなたは逃げなさい」


 その目は揺れていない。

「ギルドに戻って対処させるのよ」


 ルシエラの手が、袋の口を強く握りしめた。


 その言葉は弱気ではない。


 作戦の一部だ。

 最悪を想定した最後の場合の保険。

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