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訓練風景

 朝の訓練場。


 裂帛の気合と、激しい剣戟の音が交差していた。


「……っ、はぁっ!」


 硬い木と木がぶつかり合う音が、鋭く響く。

 ただの木剣同士の打ち合いのはずなのに、今にも火花が散りそうなほど激しい。


 朝の空気はまだ冷たい。

 だが、二人の周囲だけは熱い熱を帯びているようだった。


 ユウナとルシエラ。

 手にしているのは木剣だけれども、その気迫は真剣を握っているとしか思えない。


 ユウナの剣が振り下ろされる。


 ルシエラは半歩踏み込み、刃を滑らせてそれを受け流した。

 衝撃が腕を伝い、肩へ抜ける。


「っ!」


 一瞬の隙を突き、ルシエラの剣が横薙ぎに走る。


 だが――


「甘い!」


 ユウナの身体がわずかに沈む。

 刃は空を切った。


 同時に、回転するような斬撃が返る。


 ガキィン!!


 再び激突する木剣。


 踏み込む音。

 荒い呼吸。

 視線のぶつかり合い。


 そのすべてが、一瞬のうちに交差していく。


 周囲には、ハイペリオン級の技を少しでも盗もうと、他の冒険者たちが集まっていた。

 だが二人の動きは、もはや視線で追うだけでも難しい。

 目まぐるしく入れ替わる位置。

 絶え間なく続く応酬。

 その激しさは、さらに増していく。


 やがてユウナが、動きを止めずに言った。


「遊びはここまでよ!」


「はい……っ」


 ルシエラも同じく、打ち合いの最中で応じる。


「ここからは、“殺す気”で」


 一瞬だけ、ルシエラの目が細くなる。

「……行きます!」


 次の瞬間。


 砂が爆ぜた。


 二人の姿が、同時に消える。


 数瞬ののち。


 ぴたり、と両者の動きが止まった。


 互いの木剣が、互いの身体ぎりぎりで静止している。


 ユウナの剣は、ルシエラの喉元へ。

 ルシエラの剣は、ユウナの腹部へ。


 張り詰めた静寂。


 先に口を開いたのはユウナだった。

「やるわねルシエラ……勝ったと思ったんだけど」


 ルシエラは、悔しさを滲ませながらも首を振る。

「……ユウナの勝ちですよ。私の剣のほうが、一瞬遅かった」


 冷静に、的確に分析する。

「実戦なら、私は致命傷を受けていました。威力の削がれた私の剣では、ユウナに致命傷は与えられていなかったはずです」


 それを聞いて、今度はユウナが小さく不満そうな顔をする。

「単体特化の私が、対集団を主に見てるあなたにここまで迫られた時点で、自分が勝ったなんて言えないわよ」


 お互いに、鋭い視線をぶつけ合う。


 そして。


「「……ふっ」」


 同時に笑った。


 悔しさも、満足も、全部含んだ笑みだった。


 二人は木剣を下ろし、息を整える。


 訓練場の一角の小部屋。


 測定用の水晶に映るステータス表示を前に、ユウナが呟く。


「……14レベルか。悪くないわね」


 片手を軽く握ったり開いたりして、まだ身体に残る感触を確かめる。


 魔域の制圧。

 変異種との死闘。

 そして、フルーツパフェの攻略。


 これらを経て、二人のファイター技能はついに14レベルに到達していた。


 ルシエラも水晶を見つめながら頷く。

「はい。この状態なら、昨日の変異種との戦いも違った展開になっていたと思います」


 ユウナが少し遠い目になる。

「二十万ガメルも使わなくて良かったかしらね」


「ふふ、そうですね」

 ルシエラが目を細めて笑う。


 ユウナは切り替えるように言った。

「魔域、変異種、パフェ……経験が力になる。もっと積み上げるわよ」


「……パフェ、関係ありますか?」


「一番大事まである」


「………」


 ルシエラは何も言わなかった。

 言っても無駄だと、もう分かっていた。


「さて」


 ユウナがぱん、と手を打つ。

「今日は乱戦訓練をしてお終いよ」


「乱戦?」


「たまには“経験”を分けてあげないとね」

 そう言ってから小部屋を出ると、ユウナは訓練場全体へ届くように声を張った。


「挑戦料はエール一杯! 痛めつけられてでも“経験”を積みたい奴はかかって来なさい!」


 ざわり、と訓練場が揺れる。

「私かルシエラに一発でも当てられたら、ミッションクリア経験点が入るわよ!」


 ざわり!

 その瞬間、歓声が上がった。


「本気か!?」

「やるぞ!」

「当てるだけでいいんだな!?」


 我も我もと武器を手に名乗りを上げる冒険者たち。

 剣、槍、杖、素手。

 それぞれが目を輝かせて前へ出る。


 「ちょっと…ユウナ!?」

 慌てるルシエラに

 「ほら、早く構えて!当てられたらペナルティよ!」

 ユウナが笑いながら言った。


 「……もうっ!」

 呆れたように言ったが、その声には楽し気な響きが混ざっていた


 そして始まる、大乱戦。


 最初は訓練場の中だけだった。

 だが話を聞きつけた冒険者がさらに増え、なぜか衛兵まで混ざり、いつの間にか街の力自慢まで乱入してくる。


 気づけば訓練場から人があふれ出し――


 戦場は、街中へ拡大していた。


 石畳の上で木剣が鳴り、路地で悲鳴と笑い声が交差し、見物人が道の端へ逃げる。

 完全に収拾がつかない。


 ……そして当然のように。


 あとでギルド長に、ものすごく怒られた。

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