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おしおき

「明日の朝一番で、王都から出なきゃならなくなっちゃいましたぁ。てへぺろ☆」


 夕闇が迫る宿屋の一室。

 ユウナの第一声は、あまりにも軽すぎた。


 ――王都追放。

 その重大すぎる報告とは、到底思えない口調だった。


「『…………(イラッ)』」


 その瞬間。

 部屋の空気が確かに冷えた。


 ルシエラとエリス。


 二人から漏れ出たのは、隠そうともしない険悪な気配。

 もはやそれは怒気を通り越し、殺気に近いものだった。


「あ、あわわわわわ……っ」


 メイベルだけが、状況についていけず、部屋の中を右往左往する。


 真っ赤な顔で両手を振り、なんとか空気を和らげようとするが――当然、焼け石に水である。


「……あり得ることだとは」

 ルシエラが、こめかみを押さえながら言葉を絞り出す。


「ええ、あり得ることだと重々承知して、備えてはいましたが……」

 その声には、抑えきれない疲労と苛立ちが滲んでいた。


『はい……』

 エリスもまた、静かに続ける。


『何でしょうか。私の演算回路に、記述不可能な負の感情が蓄積されています……』

 いつもの無機質な声のはずなのに、どこか重い。


 それだけで、どれほどの感情が内側で渦巻いているかが伝わってくる。


 二人が図書館で行っていたのは、今後の計画に必須ともいえる、極めて重要な知識収集作業だった。


 その裏で。


 この英雄は案の定。


 今後の計画の枷になりうる、“破壊”を完遂してきたのだ。


「し、仕方ないじゃない!」

 ユウナが慌てて弁解する。

「成り行きよ、成り行き! 向こうが先にケンカ売ってきたから正当な対価で買ってあげただけ!」


 そこへ。

 メイベルが今にも泣き出しそうな顔で割って入った。


「あ、あの……申し訳ありません!」


 深く頭を下げる。

「わたくしが……わたくしが最初に口火を切ってしまったのです!」


「ユウナ様は、そんなわたくしを庇ってくださって……っ」


「『それは口実です』」

 二人の声が、寸分違わず重なった(ハモった)


「断言します」

 ユウナを睨んだままルシエラが言い放つ。


「この人はメイベルをダシにして、暴れたかっただけです」


『同意します』

 エリスも迷いなく続けた。


『メイベル様、騙されてはいけません。あの清々しすぎるお顔をご覧ください』


「…………えっ?」

 メイベルが、おずおずとユウナの方へ視線を向ける。


 そこにあったのは――。

 一仕事終えた職人のような、満ち足りた表情だった。


 目が合う。

 ユウナはにこりと笑い、首を傾げた。


「きゅるん☆」


 追い打ちをかけるように、ちょろりと舌を出し、上下逆さまのピースサインを突き出す。


 その瞬間。


「……(イラッ)」


 メイベルの中で何かが弾けた。


 自分のせいで追放になった――。

 そう思い詰めていた罪悪感が、その一撃でものの見事に吹き飛んだ。


 代わりに生まれたのは、もっと単純で、もっと純粋な感情だった。


「「『……殴りたい』」」

 三人の心が、これ以上ないほどに一つに重なった瞬間だった。


―――


 「や……やめ……っ! こら、解きなさい!」 

 『【ワイヤーアンカー】による拘束に成功』

 「エリス、ナイスです!こっちは私が……!」

 「こらルシエラ!ダメよ、こんな格好……っ!」

 『メイベル様、お願いします』

 「はいっ!!」

 「ま、待ちなさいメイベル、そこは……っ!?…………あ……あ……あっーーーーーーー!!」


 夜の王都に、英雄の悲鳴が響いた。

次回、最終回です。

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