vs騎士団長
王子が叫んだ直後、謁見の間の重厚な扉が開き、一人の騎士が入室してきた。
全身を威容ある大鎧に包み、堂々たる足取りで、一歩進むごとに硬質な金属音が広間に響き渡る。
「おお、騎士団長! 来たか!」
王子の声が、露骨な安堵と共に威勢を取り戻す。
ユウナはその姿を認め、わずかに目を細めた。
「ふぅん……」
この男は扉の外で騒ぎを察知していたのだろう。
だが、命令が下るまでは出しゃばらず、無闇に介入して場を混乱させることもなかった。
「有能ね。国のトップはアレだけど、騎士団の質は悪くないみたいじゃない」
「騎士団長よ! 斬れ! この無礼で汚らしい穢れを、今すぐこの場で斬り捨ててしまえ!」
王子の罵声を聞き、ユウナは呆れたように嘆息した。
「ねえ、この国には人のことを呼ぶとき、いちいち“無礼”とか“穢れ”とか付けなきゃいけない法律でもあるわけ?」
「……それ以上の暴言は、我が仕える王家への不敬と見なす」
騎士団長はガシャンと鎧を鳴らし、一切の無駄がない動作で剣を抜き放った。
腰を深く落とし、巨大な盾を前面に構える。
その構えは岩山のごとく堂々としており、微塵の隙も見当たらない。
「かの英雄とこのような形で対峙するのは本意ではなかったが……こうなっては是非もなし」
「なかなか強いわね。……でも、だからこそ貴方には分かっているでしょう?」
ユウナは言い放つ。
彼女の手は剣の柄にすらかかっていない。
重圧を撥ね除け、ただ自然体でそこに立っている。
「私の方が強い」
「び……ビビっているくせに! ハッタリで誤魔化そうとしているだけだ! 騎士団長、早くその穢れを黙らせろ!」
王子の、余裕のない叫びが引き金となった。
「はっ!」
鋭い呼気と共に、騎士団長が動いた。
一閃。
凄まじい風圧を伴った一撃が、ユウナの頭部を正確に捉え、そのまま身体を真っ二つに割り、勢い余って床の石畳を粉々に砕いた。
誰もが、無残に両断されたユウナの姿を幻視した。
しかし――。
土煙が晴れた先に立っていたユウナは、髪一筋乱さぬ姿勢のまま、平然と佇んでいた。
剣を振った騎士団長の目にだけ、最小の動きで剣を躱したユウナの姿が見えた。
それと同時に、その耳にだけ、彼女の囁きが届いていた。
「――五年。待っていなさい」
その意味を理解した瞬間、衝撃が首から全身に広がった。
騎士団長の意識が途切れる。
がくり、と膝が折れ、重い金属音と共に床へと倒れ伏した。
兜に隠れてその表情は見えない。
だが、その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。




