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戦後処理①

「【ヴォーパルウェポンSS】、【バークメイルSS】、〈スカーレットポーション〉、〈デクスタリティポーション〉、〈アンチマジックポーション〉が各二人分……これが戦闘前の準備分」


 夜明け前の街道を歩きながら、ユウナは指を折って今回の消費を数え上げていた。


 倒した変異種の素材はすでに回収済み。

 あとは街へ戻り、報告と査定を残すのみ。

 普通なら勝利の余韻に浸っていてもおかしくない場面だが、ユウナの頭はすでに次の工程――つまり経費計算へ移っていた。


「で、戦闘中に【イニシアチブブーストSS】、【パラライズミストSS】、【ヒールスプレーSS】、3点魔晶石9個、ヒーリングポーション1本、消魔の守護石4個……」


 そこで一度区切り、ぴたりと言い切る。


「――総計、205,600ガメル!」


「にじゅ……っ!?」


 ルシエラがその場で立ち眩みを起こしかけた。


 20万。

 それは、数字として聞くだけで足元が揺らぐ額だった。


 ユウナは遠い目をする。

「一戦闘で使った金額としては新記録ね。更新しても嬉しくない類の……」


 しみじみとした声だった。

 だがその直後、少し考えるように視線を上げる。


「……いや、それほど消耗せざるを得ない戦闘に勝ったのだから喜ぶべきか…」

 自分を納得させて自分で頷くと、さらに続ける

「費用対効果で言えば黒字よ。私たちは生きている。敵は消えた。森は平穏を取り戻すでしょうし、それによって街も守られた」

 自らを納得させるために積み上げただけあって、理屈としては完璧なものに仕上がった様な気がする。


 …だが、隣で聞いていたルシエラの表情は微妙だった。


 20万ガメル。


 一般人なら十年以上かけて稼ぐような額。

 部屋を借り、まともな食事をし、穏やかに暮らせる生活費が何十か月分も詰まっている。


 それを――たった一戦で燃やしたのだ。


 ルシエラはおそるおそる口を開いた。

「……ギルドは、知っているんですか?」


 ぽつり、と落とされた問いに、ユウナは即答した。

「私がアルケミスト技能でバフをかけて戦うのは、ギルド長も知っているわ」


 間。


「だから大丈夫よ」


 さらに、間。


「……多分」


 ルシエラがじっと見る。

 ユウナはほんのわずかに目を逸らした。


「ギルド長は渋らないわ。災害級を未然に止めたのよ? それ相応の評価はするはず」

 少しだけ早口になる。

「討伐証明もある。素材もある。功績点も付く。特別功績扱いにもなるでしょうし、総合すれば赤字なんてありえない」

 並べ立てる、並べ立てないと不安になるからだ。


 しかし最後に弱気が出た。

「……ありえない、はず」


 ルシエラは思う。

 やっぱり、最初にもう少し交渉しておくべきだったのではないか、と。


 だがユウナは、歩みを止めないまま続けた。


「でもね」

 その声音は静かで、揺るがなかった。


「あの戦いでカードを切らなかったら、どうなっていたか分からない。ケチって死ぬのが一番の大赤字よ」


 それは正論だった。

 綺麗ごとではなく、生き残ることが一番の成果だ。


「お金はまた稼げるけど、あなたや私には、代わりがいない」

 ルシエラの方に視線を向ける。


「でも大丈夫――」

 その顔が、すっと戦士以外のものになる。

「討伐素材は高値が付くわ。レベル17の変異種よ? 上手くやれば追加で数万は上乗せできる」


 完全に商売人の顔だった。


「最終的な収支はプラスにしてみせる。私はハイペリオン級よ!」

 自信満々に言い切る。


 ……のだが、そのあとでぼそりと呟いた。

「さすがに20万は……いや、でも……うん、大丈夫何とかなる信じてるギルド長いい男かっこいいナイスミドルの渋い人!」

 ルシエラは思わず吹き出した。


ーーー


 やがて遠くにヴァルクレアの街影が見えてきた。


 ユウナは指折り、帰還後の手順を確認するように言う。

「ギルドでまず報告。それから素材査定。

そして宿に戻ったら、お湯に浸かってたっぷり寝て、その後――」


 そこで一拍置き


「「美味しいスイーツで祝勝会!」」


 ルシエラの声が重なった。


「!?」

「…ふふっ」

 驚くユウナを前に、ルシエラが微笑んだ。

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