それぞれの道
「本当に助けられたよ」
一段落した後、グレイブが改めてメイベルに礼を言った。
その声には、先ほどまでの緊張ではなく、確かな安堵が滲んでいた。
「その……あんな魔晶石まで使い潰させて……」
申し訳なさそうに視線を落とす。
「あれ、最高級の魔晶石でしょう? 8000ガメルはする代物よ」
シュリが、先ほどユウナが拾い上げた魔晶石を思い出しながら言った。
「本当なら弁償したいところだが……」
「8000なんて、全員の所持金を足しても届かないっスよ……」
グレイブの言葉に続き、ランディが情けなさそうに自分の財布を振ると、チャリチャリとあまりに軽い音が虚しく響いた。
「気にしなくていいわよ」
そこへ、ユウナが悠然として声をかけてきた。
「あなたたちのおかげで、メイベルにはちょうどいい実戦訓練になったわ」
「……あれが“ちょうどいい訓練”なのか」
「とんでもないスパルタっス……」
バートとランディが顔を見合わせ、引きつった笑いで小声を漏らす。
「聞こえているわよ?」
「「ひぃっ!」」
ユウナのジト目に射抜かれ、二人が揃って震え上がる。
だがその直後、ユウナは小さく苦笑した。
「冗談よ。……こちらの都合で、出し惜しみをしたせいであなたたちを危険な目に合わせたのは事実。
お互い様ということで納得してもらえると助かるわ」
「とんでもありません!」
グレイブは居住まいを正し、直立不動の姿勢をとった。
「俺たちはどこで死んでもおかしくない道を選んだ身。助けていただいたことに不満を述べる理由など、どこにもありません! それに……かの有名なヴァルクレアの英雄にお会いできたこと、一生の誇りにします!」
「真面目か!」
ユウナが軽い調子で返す。
そのやり取りに、自然と小さな笑いが生まれた。
そして、二つの集団はそれぞれの目的地へと歩みを進め始めた。
ユウナたちはグレイブたちが来た方向へ。
グレイブたちはユウナたちが来た方向へ――。
すれ違い。
ほんの一時、交わり。
そしてまた、それぞれの目的地へと離れていく。
誰も振り返らなかった。
それが、冒険者というものだから。
出会いも、別れも。
どちらも特別ではなく、当たり前のこととして受け入れる。
だが――。
ふと、メイベルは思う。
次はまたどこかで、同じ方向へ進むこともあるのだろうか、と。
答えはない。
ただ、道は続いている。




