パーティ戦闘⑤
「助かったよ、ありがとう。君がいなければ、今頃俺たちは全滅してた」
地面に座り込んだまま、リーダーが深く息を吐いて言った。その顔には疲労と、それ以上に生き残ったことへの安堵が滲んでいた。
「どういたしまして。わたくしこそ、多くのことを学ばせていただきました」
そう答えたメイベルの顔もまた、泥と血に汚れていた。
王城に居れば、侍女が悲鳴を上げるような姿だった。衣服は裂け、髪は乱れ、頬には土埃がつき、全身が返り血にまみれている。
しかし、その笑顔は晴れやかだった。
メイベルはそっと手を差し出す。
差し出された手を、リーダー格の戦士が少し驚いたように見た。
それから、しっかりと握り返す。
メイベルは精一杯の力を込めて、彼を引っ張り上げた。もちろん、それだけで大柄な戦士の身体を支え切れるわけではない。
だが、彼が立ち上がるその瞬間、彼女は確かに力を貸し、足元を支えた。
「すごいな……失礼だが、まだ子供に見えるのに。立派な戦士だ」
立ち上がったリーダーが、まじまじとメイベルを見つめながら、感嘆の息を漏らした。
その言葉に、メイベルの胸がわずかに震える。
王女として褒められたことはある。
礼儀正しい、賢い、気高い、品がある。
そういう言葉なら、何度も聞いてきた。
しかし、立派な戦士だ、と言われたのは初めてだった。
その響きは新鮮な驚きと共に、メイベルの中に染み渡った。
「俺はグレイブ。このパーティーのリーダーをやってる。こっちの二人は……」
「ランディっス。本業はスカウトっスよ。あんたの指揮、最高だったっス!」
「バートです。助けていただいて、本当にありがとうございました」
それぞれが晴れやかな顔で名乗った。
「メイベルと申します」
メイベルは反射的に、王女としてのカーテシーで応じようとした。
背筋を伸ばし、足を引き――
だが、その途中で、はっと気づいて動きを止める。
今の自分は、王女として彼らの前に立っているのではない。
守られるべき身分として、礼を受ける側にいるのでもない。
自分は、共に戦った。
同じ血の匂いを吸い、同じ恐怖の中に立ち、同じ勝利を掴んだ。
ならば、返すべき礼も違う。
メイベルは裾を摘むのではなく、剣を持つ者として背筋を伸ばした。
そして、戦士としての敬意を込めて、小さく会釈する。
グレイブはそれを見て、少しだけ口元を緩めた。
何かを察したように。
自己紹介を終えると、ランディが少し焦った様子でメイベルを呼んだ。
「メイベルさん、仲間を診て欲しいっス!」
彼に促されて横倒しになった馬車へ近づくと、その中には一人の女性が倒れていた。
「妖精使いのシュリだ……。雇い主の商人を逃がす際、敵の痛打をまともに食らっちまってな」
グレイブが苦しげに説明を補足する。
本来なら商人を逃がした後、自分たちも速やかに離脱する予定だった。
だが、乱戦の中で彼女が意識を失ってしまったため、彼女を置いて逃げるわけにもいかず、踏みとどまって戦い続けるしかなかったのだという。
「なるほど……。ですが、わたくしも、もう魔法を使うための魔力が……」
魔力は尽きている。
先ほどの魔晶石も、最後まで使い果たした。
身体は限界に近く、祈りを紡ぐための力はもう残っていない。
唇を噛んだ……その時
「メイベル」
涼やかな声と共に、キラリと光る小さな粒が空を舞った。
「っ!」
反射的に受け取った掌の中には、小さな魔晶石が収まっていた。
「ユウナ様!」
パッと顔を向けると、少し離れた場所に立っていたユウナが、小さく頷いた。
メイベルは勇気をもらったように頷きを返し、シュリへと向き直る。
魔晶石から引き出した魔力を魔法に変える。
「――【アウェイクン】!」
数秒の後、意識を浮上させたシュリが弱々しく目を開けた。
駆け寄った仲間たちから事情を聞き、目の前にいる少女が自分たちの命の恩人であることを理解すると、彼女は瞳を潤ませた。
「ありがとう……本当に、ありがとう……!」
シュリは起き上がるなり、メイベルに抱きついて心からの感謝を伝えた。
その温かな重みを感じながら、メイベルは自分が成し遂げたことの大きさを噛み締めていた。




