パーティ戦闘③
次は……!
回復魔法の光が灯る中、メイベルは瞬時に戦場を俯瞰し、喉が張り裂けんばかりの声で叫んだ。
「皆さま、わたくしと合流を!」
それだけで伝わった。
つい先ほど、メイベルの指示によって二体を討ち取った経験が、三人の冒険者から迷いを消していた。
彼らはもう、メイベルをただの少女とは見ていない。
戦場を俯瞰し勝ち筋を示している。
そして、傷ついた者を立たせ続けている。
その号令に従う価値があると、彼らはすでに理解していた。
「寄せろ!」
リーダー格の戦士が叫ぶ。
メイベルと三人の冒険者はそれぞれの敵をいなしながら位置を調整し、一点へと戦場を収束させていく。
これで人族四人に蛮族四体。
トルーパー一体、ソーズマン二体、そしてボガード一体。
統合された戦場で、冒険者三人の集中攻撃が、一番脆いボガードへ叩き込まれる。
一気呵成。
ボガードは耐えきれず、地面へ倒れ伏した。
直後にトルーパーの剛剣とソーズマンの双剣が襲いかかり、冒険者たちが傷を負う。
だが、その瞬間にはもうメイベルが動いていた。
「【キュア・ウーンズ】!」
回復の光が走る。
傷が塞がり、呼吸が戻る。
そこから間髪入れず、
「無作法をお許しください!」
そう叫ぶや否や、メイベルはポーチを逆さにして、中身を地面へぶちまけた。
色々な小物に混ざって、数本のポーションが、乾いた音を立てて土の上に散らばる。
本来ならば、王族の娘がするような振る舞いではない。
道具を地面に撒き散らし、泥に汚れることも構わず、必要なものだけを選ばせるなど、礼儀も作法もあったものではない。
しかしここは戦場だ。
優雅に受け渡しをしている暇などない。
誰が持つかを相談している時間もない。
必要なものを、必要な者が、すぐに掴める形にする。
それが、今できる最善だった。
「〈ヒーリングポーション〉が何本かあるはずです!」
それは、テラスティア大陸の錬金術師であるリリアが作ったポーションだった。
従来のケルディオン大陸産のものとは、性質が異なる。
飲み干す必要はない。
対象へ振りかけるだけで、その効力を発揮する。
使い方を知らなければ戸惑うだろう。
だからこそ、メイベルは声を張った。
「振りかければ効力を発揮します! お二方はそれを使って、回復役に回ってくださいまし!」
そして、すぐに視線をもう一人へ向ける。
「リーダー様は、わたくしと一緒にソーズマンから順に倒していきましょう!」
「「「了解した!」」」
三人の返答が重なる。
判断は的確だった。
リーダーとメイベルに比べ、残り二人はどうしても一段落ちる。
ならば無理に前へ出さず、回復支援へ役割を変える方がいい。
戦場が、再構成される。
メイベルとリーダーが前衛。
後方に下がった二人は、リリア製のポーションを手に、負傷した者へ即座に振りかける回復役となる。
そこからは、ひたすら剣と剣の応酬だった。
幾度も斬り結ぶ。
ソーズマンの双剣が閃き、メイベルがそれを捌く。
リーダーが横から斬り込み、一体を押し込む。
もう一体が援護に回ろうとすれば、メイベルが踏み込んで止める。
後方からポーションが振りかけられて、傷が癒える。
息を合わせる。
崩れない。
耐える。
そして、ついに。
一体目のソーズマンが倒れた。
その勢いを殺さず、二人はすぐさま残るソーズマンへ向き直る。
疲労は、すでに限界に近かった。
メイベルの呼吸は乱れ、腕は重く、足は何度ももつれそうになる。視界の端は白く霞み、傷口の痛みも無視できないものになり始めている。
だが、ここで止まるわけにはいかなかった。
敵が一体減った今こそ、押し切るべき時だった。
「畳みかけます!」
「応!」
二人は同時に踏み込んだ。
リーダー格の戦士が正面から圧をかける。
メイベルが横を塞ぐ。
ソーズマンが双剣を振るい、必死に二人を押し返そうとする。
トルーパーの剛剣がメイベルの肩口を捉える。
だが、後方からポーションを振りかけられ、こちらは踏み止まれる。
傷つきながらも前へ。
痛みながらも、さらに一歩。
最後は、ほとんど気迫だった。
リーダー格の剣が敵の足を止め、メイベルの盾が刃を弾き、二人の攻撃が重なる。
二体目のソーズマンもまた、土煙の中へ崩れ落ちた。
しかし、そのとき悲鳴のような報告が上がる。
「ポーション、もう無くなったっス!」
メイベルは即座に判断した。
後方の二人もまた、限界まで傷を負っている。
彼らは支援に回ったとはいえ、無傷で済んだわけではない。
飛び込んできた刃を受け、流れ弾のような一撃に巻き込まれ、それでも役割を果たし続けてくれたのだ。
ポーションがなくなり、限界まで傷を負っている、これ以上戦場に居させるのは危険だ。
「承知いたしました! お二方は離脱を!」
「分かったっス!」
「頑張ってくれ!」
二人が後退する。
残るのは、メイベルとリーダー。
対するは、ボガードトルーパー。
「リーダー様、ここからは回復なしですわよ!」
それは事実の確認であり、覚悟の共有だった。
だが、言い終えた直後、メイベルはふと何かを思い出したように、小さく笑った。
血に汚れ、息を切らし、足元もおぼつかない。
それでも、その笑みには奇妙な明るさがあった。
……こんな時、あの人なら何と言うだろう。
優しく励ますだろうか。
いいや、きっと違う。
きっとあの人は、誰よりも乱暴で、誰よりも的確で、そして誰よりも生き残るための言葉を投げる。
だからメイベルは、ほんの少しだけ口調を崩した。
師の言葉を真似るように。
自分自身の恐怖を蹴り飛ばすように。
「死ぬ気で避けなさい!」
リーダー格の戦士が、一瞬だけ目を丸くし、それから血まみれの顔で笑った。
「ハハッ、了解だ!」




