パーティ戦闘②
――今、冒険者の方々は個別に戦っている。
メイベルは荒い呼吸を整えながら、戦場を見た。
目の前の敵だけを見るな。
剣の軌道だけに囚われるな。
味方の位置、敵の数、傷の深さ、士気の流れ。
戦場を俯瞰して、ひとつの盤面として見る。
ユウナに叩き込まれた言葉を、必死に頭の中でなぞる。
リーダー格の戦士は、トルーパーとソーズマンの二体を一人で抑え込んでいる。
他の二人は、それぞれボガードを相手にしていた。
実力のあるリーダーが、上位種の矛先を一身に引き受けている。
だからこそ、かろうじて戦線は崩壊していない。
だが、それは勝ち筋ではなかった。
――これでは、負けまでの時間を引き延ばしているだけ……!
持久戦に持ち込む。
その判断自体は間違っていない。
だが、守り続けるだけでは勝利はない。
今なら、【セイクリッド・シールド】の守りがある。
自分という回復役もいる。
冒険者たちの足はまだ動き、剣はまだ折れていない。
ならば、取るべき道は一つ。
各個撃破による、数の逆転。
メイベルは息を吸った。
胸の奥に残る恐怖を押し込み、声を張る。
「お三方!」
その声は、戦場の喧騒を裂いた。
「戦場の統合を!」
冒険者たちが、わずかに視線を向ける。
「一番端のボガードの傷が深いように見受けられます。全員でそこから切り崩してください!」
刹那の間。
だが、迷っている時間はない。
「分かった!」
リーダー格の戦士が叫んだ。
メイベルの凛とした号令に、冒険者たちは動いた。
蛮族と切り結びながら、じわじわと互いの距離を詰めていく。
三つに分断されていた戦場が、少しずつ一つに重なっていく。
冒険者三人。
対する蛮族は四体。
数の不利は、まだ消えていない。
だが、戦いの形は変わった。
「うおおおおお!」
リーダー格の戦士が、トルーパーを牽制しながら踏み込む。
真正面から斬り合えば押し負ける。
だが、今の狙いはそこではない。
彼は一瞬の隙を突き、傷の深いボガードへ鋭い一撃を叩き込んだ。
「GYAAAAA!」
悲鳴とともに、ボガードの体勢が崩れる。
そこへ、残る二人の冒険者が雪崩れ込むように攻撃を集中させた。
槍が腹を貫き、短剣が喉を裂く。
よろめいたところへ、戦士の剣が最後の一撃を叩き込む。
ボガードが地面へ崩れ落ちた。
一体撃破。
だが、蛮族の士気は衰えなかった。
むしろ報復とばかりに、トルーパーとソーズマンの刃が閃く。
「ぐわああっ!」
「がっ……!」
二人の冒険者が、深手を負った。
血が飛ぶ。
足元が崩れかける。
メイベルは即座に聖印を握った。
「大丈夫です、諦めないで……!」
祈りを紡ぐ。
癒やしの光が、傷ついた二人を包み込んだ。
裂けた皮膚が塞がり、流れ出した血が止まる。
完全ではない。
それでも、倒れかけた身体を戦線へ戻すには十分だった。
しかしその瞬間、メイベルの身体の奥から力が抜けた。
――今ので、魔力が尽きた……っ!
魔力枯渇の虚脱感が、全身を襲う。
それでも、彼女の魔法は確かに冒険者たちを支えた。
回復を受けた二人は再び立ち上がり、直後、残っていた通常のボガードへ攻撃を集中させる。
刃が交差し、叫びが上がる。
ボガードは抵抗したが、すでに流れは変わっていた。
もう一体も、その刃の露と消えた。
冒険者たちの前に残るのは、上位種の二体。
ボガードソーズマン。
そしてボガードトルーパー。
だがメイベルの方にも、まだ二体の蛮族が残っている。
ソーズマンの連撃が、リーダー格の戦士を襲った。
リーダーは、絶妙な身のこなしで双剣を躱す。
しかし、その動きを読んだように、トルーパーが剛剣を振り下ろした。
カバーに入った仲間の一人が、その重い一撃を受ける。
「ぐあっ!」
地面へ叩きつけられるように倒れ込んだ。
同時に、メイベル自身も、ソーズマンの剣を避けきれなかった。
浅くはない傷が、脇腹に走る。
「っ……!」
熱い痛み。
遅れて、流れ出た血が服を濡らす。
だが、それでも目を逸らさない。
――回復を――早く……っ!
震える指先で、腰のポーチを探る。
触れたのは、掌に収まるほどの大きな魔晶石だった。
街を出る際、ユウナから“いざという時のために”と持たされたもの。
王族であるメイベルの目から見ても、溜息が出るほど高価で、純度の高い石だった。
低レベルの神官戦士が、気軽に手にできるような代物ではない。
一瞬、迷いが生じる。
――本当に……これを使っていいの?
これは、自分の本来の力ではない。
言ってしまえば、借り物の力だ。
これを使って勝ったとして、それは自分の勝利だと胸を張って言えるのか。
自分の実力だと、言えるのか。
――言えるに決まっています!
メイベルは、魔晶石を強く握りしめた。
迷いを叩き潰す。
ユウナなら、使ってはいけないものを最初から持たせたりはしない。
使うべき時が来るから持たせたのだ。
そもそも、戦場でそんな見栄に何の意味がある。
手段を選んでいる間に誰かが死ねば、それこそ取り返しがつかない。
自分の矜持のために、目の前の命を見捨てることなど、あってはならない。
勝つために使えるものは使う。
守るために使えるものは、迷わず使う。
それが、ユウナから教えられた戦い方だった。
「【キュア・ウーンズ】!」
石から溢れ出した膨大な魔力がメイベルを介し、癒やしの光となって爆ぜた。
自分と、そしてトルーパーの一撃に沈みかけていた冒険者の傷が、みるみるうちに塞がっていく。




