表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/142

予定

 翌日。

 予想通り、ギルド長を通じてユウナたちに下されたのは、王都への即時召喚命令だった。


 その日の全訓練を終え、夕食を済ませてリビングで一息ついていたとき、ユウナが今後の予定を切り出した。


「出発は四日後。王都へは【テレポート】を使えば一瞬で行けるけど、今回は徒歩で向かうわよ」


 その言葉に、ルシエラが少し意外そうな顔をして尋ねる。

「勿体つける気ですか? 到着を遅らせて、向こうを焦らすとか」


「さすがにそこまで意地の悪い考え方はしないわよ」

 ルシエラの言葉に、ユウナは苦笑いを返した。

「あの完全に上から目線の命令にはムカついたし、正直嫌がらせの一つもしてやりたいところだけど、今回は別の理由。」


 ため息を一つ。

「……テレポートなんかで一瞬で行き来できるなんて知られたら、今後どんな便利屋的な厄介事を押し付けられるか分かったもんじゃないわ」


「心底、王族が嫌いなんですね」


「まあ、そこは否定しないわね。でも、本命の理由は別」


 ソファにもたれたまま脚を組みなおす。

「三日でメイベルに基本的な事を教え込んで、道中で実戦の経験を積ませたいからよ」


 ユウナは視線を、少し緊張した面持ちで座っているメイベルへと向けた。

「メイベル。あなた、あのチンピラ四人に凄まれたとき、ビビって脚が震えていたわよね?」


「……っ、はい」

 メイベルは恥じ入るように視線を落とした。


 出会いのきっかけとなったあの騒動。

 横暴な輩に屈しないという決意こそあれど、自分より遥かに巨大な男四人から明確な敵意を向けられ、正直なところ、腰を抜かさなかったのが不思議なくらいだった。


「あんな素人丸出しのでくの坊共、あなたならはっきり言って楽勝だったわ」


 メイベルが目を見開く。


「それでもビビった理由は三つ」


 挙げながら、指を一本ずつ立てる。


「一つは、相手と自分の力量差が分からなかったから」


「二つ目は、実戦へと変わる空気に飲まれてたから」


「そして、敵意を向けられることに耐性がなかったから」


 メイベルはその時の状況を思い出して頷いた。

 全部がその通りだった。


「つまり、経験不足ってこと」


「あなたが選んだ道は、決して平坦なものじゃないわ。

 これから先、悪意や敵意に晒されるのは当たり前。文字通りの命のやり取りだって、嫌というほど経験することになる」


 メイベルの喉が小さく鳴った。


「だから、経験できることは何でもしておいた方がいい。道中の魔物や賊は、全部あなたの経験値よ」


 そこでユウナはふっと表情を緩め、立ち上がって数歩歩いた。

「そんなわけで。街から出たらしばらくは野宿混じりの不便な生活になるわ。今のうちに、文明の利器を目一杯堪能しておきましょう」


 そう言って、ユウナは冷蔵庫から豪華なホールケーキを取り出し、テーブルの真ん中に置いた。

「エリス、紅茶をお願いね」


『かしこまりました』


「……ユウナ。結局自分が食べたいだけですよね」


 ルシエラがジト目でユウナを見るが、ユウナはどこ吹く風でケーキを切り分けている。


「いいじゃない。みんなの分もちゃんとあるんだから。

 はいこれ、ルシエラの分」


「そんなこと言ってません! ……もう」


 二人のやり取りを見て、メイベルは思わず吹き出してしまった。


 ――この人たちと一緒なら、きっと大丈夫。

 そう思った瞬間、肩に入っていた力が自然と抜けていくのが分かった。


 自分が自分にできることを、精一杯やり抜く。

 今の自分では手の及ばないところは、この信頼すべき師たちが支えてくれる。


 頼るべきを頼ることは、決して依存ではない。


 ユウナの背中が教えてくれていた。


 メイベルは、自分の前に出された温かい紅茶と甘いケーキを口に運んだ。

 これから始まる本当の意味での“試練”に備えて、ユウナの余裕を少しでも真似できるように……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ