和解
メイベルの手を引いて屋敷に招き入れると、ユウナは手際よく指示を出した。
冷え切った体を風呂で温めさせ、清潔な着替えを与えてから、来客用の寝室へと運んだ。
泥のように眠る少女の寝顔を確認し、ようやくユウナはルシエラと向かい合って朝食の席に着く。
だが、テーブルの向かい側からは、隠しきれない不満のオーラが漂っていた。
「むー……」
ルシエラがリスのように頬を膨らませてユウナを睨んでいる。
「ユウナは意地悪です。あんな意図があったなら、先に教えてくれればよかったのに」
「ごめんってば」
ユウナは苦笑しながら、焼きたてのパンを口に運んだ。
「でもね、ルシエラ」
ふっと、冗談を切り捨てるように真剣な眼差しを向ける。
「何でもかんでも手を貸せばいいってものじゃないの。昨日の私の態度は演技じゃないわ。本気で見捨てる選択肢だって、最後まで十分にあったんだから」
「でも……あんなふうに試さなくても」
「あなたにも知って欲しかったのよ。かわいそうだからって安易に手を差し伸べるのは、本当の優しさじゃないっていうこと」
「………………」
黙り込むルシエラに、ユウナはクスリと笑みを深めた。
「……それに、あなたは私の言葉に不満を抱きつつも、私の制止を聞いて門を開けなかった。それは私を信頼してくれた証拠ね」
そこで一拍置く。
「……でも、意地を張って一晩中門の前で立ってた。まあ、60点ってところかしら」
確かに、とルシエラは内心で頷かざるを得なかった。
こうして結果を見れば、ユウナが取っていた冷酷な態度の意味がよくわかる。
自分がどれほど短絡的に感情で動こうとしていたかも。
けれど。
「……やっぱり、意地悪です」
一度戻りかけた頬が、再びぷくーと膨らむ。
「かわいいなぁ、もう」
笑いながら、ユウナはルシエラの頭を優しく撫でた。
「だけど……本当に厄介なのは、ここからよ」
ユウナの表情から余裕が消え、静かな緊張が走る。
メイベルに剣を教えること自体は別にいい。
だが、相手は末席とはいえ一国の王女だ。
「国に対して所在も知らせず黙っているわけにはいかないわ。隠し通そうとしても、本気で調べられればここにメイベルがいることはすぐに露呈する」
「………………」
「黙っていれば誘拐犯にされかねないし、正直に言えば連れ戻されるのは必至よ。お姫様がナイトメアの屋敷に居候なんて、王家が許すはずがないわ」
ルシエラは背筋が伸びる思いだった。
ユウナは最初から、ここまでを想定していたのだ。
メイベルの覚悟の重さを計り、受け入れた後の現実的なリスクを天秤にかけ、どう道を通すか。
それなのに自分は、ただ感情に任せてユウナに反発し、彼女の負担を増やしてしまった。
「ユウナ……」
ルシエラは、テーブルの上にあるユウナの手をぎゅっと握りしめた。
「私は、ユウナの負担になりたくない……。もし私が間違っていたら、次はもっと厳しく叱ってください」
「……ルシエラは間違ってないわよ。私がひねくれているだけ」
ユウナは自嘲気味に目を細めた。
「結局、受け入れてるんだからね。最初からそうしておけば、あの子も徹夜で凍えなくて済んだし、あなただって気を張らなくてよかった。エリスだって、ハラハラしながら私たちを見てたわ」
ふっと苦笑する。
「無駄に皆を苦しめただけ、とも言えるのよ」
ルシエラは強く首を左右に振った。
「違います。無駄なんかじゃないです。
あのままあっさり受け入れていたら、メイベルの覚悟は中途半端なものになっていたかもしれない」
ルシエラは真っ直ぐユウナを見る。
「それに私も、何も理解しないまま、また同じようなことがあれば、何も考えずに安易な同情で道を選んでいたと思います」
「……ありがとう、ルシエラ」
ユウナはそっと、ルシエラの頬を撫でた。
「さあ、あなたも一晩中立ってたんだから、少し寝なさい。起きたら一緒に、これからの方針を考えましょう」
「はい……」
安心感からか、急激な睡魔がルシエラを襲う。
こうして二人は、来たるべき王宮との対峙に向けて、静かな休息へと入っていった。




