ルシエラの罠
翌朝。
リリアは、身体全体をロープか何かで縛られているような、抗いようのない圧迫感で目を覚ました。
「……ん、ふぁ。もう、朝ですか……?」
微睡みの中で呟く。
そして、次の瞬間。
自分の置かれている状況に気づき、リリアの眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「……って、えっ!? ちょっと!?」
珍しく、素で慌てた声だった。
目の前には、至近距離で安らかな寝息を立てるユウナの顔がある。
ただ隣で眠っているのではない。
ユウナはリリアを特大の抱き枕か何かと勘違いしているらしく、両腕でがっちりと抱え込み、さらには両脚まで絡めて完全に固定していた。
抱きつかれている、というより。
もはや捕獲されている。
「ちょっと、ユウナさん~! 苦しいです~!」
リリアは必死に声をかけた。
だが返ってきたのは、
「……んんぅ、ふふ……」
という、心底幸せそうな寝言だけだった。
ユウナは満足げに、リリアの頭へ自分の頬をすり寄せてくる。
「んふ~~……いい匂い……」
「ユウナさん、起きてください~!!」
リリアが一段大きな声を上げる。
するとユウナは無意識の抵抗を見せた。
ぎゅっっっ。
「んぐぇっ!?」
抱擁がさらに強まった。
肺から空気が押し出される。
リリアの視界が、わずかに揺れた。
困惑と酸欠の狭間で必死に目を動かすと、寝室の端には、すでに身支度を整えたルシエラとエリスの姿があった。
リリアは辛うじて首を動かし、救いを求める視線を送る。
その先で。
「……よしっ」
ルシエラが、小さくガッツポーズをしていた。
『ルシエラ様……さすがにそれは……』
エリスが困ったように、ルシエラと“被害者”であるリリアを交互に見ている。
「あ……ああ~~~~! 思い出しましたぁあ!」
リリアは、すべてを悟った。
昨晩。
風呂から上がってすぐ、酔いの回ったユウナはそのままベッドへ倒れ込み、あっという間に眠ってしまった。
残された三人も苦笑しながら、それぞれベッドへ向かった。
やたらと広いベッドだった。
四人が並んでも、まだ余裕がある。
最初に、ユウナの隣――ベッドの端側にルシエラが入った。
続いて、反対側の端へエリス。
そして、まるで自然な流れのように誘導される形で、ユウナの隣、真ん中側でリリアが眠ることになったのだ。
向かって左から、
エリス。
リリア。
ユウナ。
ルシエラ。
そんな並びで、他愛もない話をしながら眠りについた。
そして――現在に至る。
「知ってましたね~!」
リリアは、もがきながら抗議した。
「ルシエラさん、確信犯です~!」
だが、ハイペリオン級の戦士が無意識に繰り出す拘束は、スライムの粘液よりも執拗で、そして強固だった。
「にゅふ~~……えへへ……」
当のユウナは、警戒心の欠片もない幸せそうな声を漏らしている。
ルシエラは、すっと顔を上げた。
その表情は、朝日よりも清々しい。
「さあ、エリス。最高の朝食を準備しましょうか。今日は空気が澄んでいます」
『あ……あの……』
エリスは戸惑ったように視線を彷徨わせる。
必死な顔で助けを求めるリリア。
晴れやかな笑顔で扉へ向かうルシエラ。
抱き枕と化したリリアを離す気配のないユウナ。
数秒の沈黙。
やがてエリスは、不自然なほど棒読みで呟いた。
『け、計算不能。倫理回路にエラーが発生。現在、適切な判断が困難です』
そして、そそくさとルシエラの後を追って部屋を出ていった。
「エリスさんまで! そんなところばっかりユウナさんに似ないでください~!」
ぎゅうううううう。
「んぎゅうう!?」
再び拘束が強まる。
「ユウナさん、離してください~~~~!!」
朝の静かな新居に、リリアの絶叫が虚しく木霊した。




