クレープ
「間宮さんと宮野くんって付き合ってる?って思った?」
2人の関係を知っている人なら考えもしないことだが、詳しく知らない人なら仕方ない。それに2人がいつも言い合っていて、嫌い同士なんてことを知っているのも宮島くらいだ。後は西先生?
「え!?何でわかったの?」
図星だったのか、高本は驚いた顔をして宮島の方を振り返る。
「わかるよ、僕もよくそう思ってるもん」
宮島は笑って言うが、そんなこと羽唯や宮野に聞かれたら、どうなるかなんて怖くて考えたくもない。
実際、宮島が見ている2人はまるで仲のいいカップルのようだ。それも、いくら喧嘩しても別れない、自分の気持ちを素直に言い合えるいい関係の。しかし、実のところ2人ともお互いを友達と思っているかすら怪しい。
「ちなみに付き合っては…?」
「ない。」
宮島は自身満々に言い切れる。宮島の知らないところで2人が付き合っているなんてあり得ないと思っているから。
「じゃああれは何なの?」
高本は困惑したように言うが、それが正常な反応だろう。むしろ宮島は高本がそういう反応をしてくれたことで、自分が普通であることを再確認でき、安心した。そうだ、おかしいのは宮島ではなく、2人の方なのだ、と強く心に言い聞かせる。
「あれは…そうだね、幼稚園児?小学生?周りからどう見られるか、とか余計なこと気にせずに自分がこうしたいからこうする、他に意味なんてない。みたいな感じかな……。さっきのは普通に食べ物をシェアしただけだと思うよ。」
宮島の説明を受けるも、高本は納得しきれない様子だ。それもそうだ。なんたって2人は学年随一のモテ男とモテ女だ。並んで歩いているだけで変な勘違いを生む。こんなこと、人目があるところでしていたら、それこそ学校中で大きな噂になるだろう。それでも2人はそんな噂話気にも留めないが。
「なんか、すごいね。」
「そうかな?宮野くんはどうかわからないけど、間宮さんなら僕たちがあげるって言っても、クレープ食べそうだよ?」
高本にそう言うと、宮島は羽唯に声を掛けた。
「間宮さん、僕のも一口交換する?」
宮島が呼びかけると、羽唯は宮野の方から、高本のさらに奥にいる宮島に視線を向けた。そして、宮島の持つクレープに焦点が当たる。
「宮島カスタードだっけ?」
「うん、カスタードとチョコクッキー」
食べてみる?とクレープを羽唯の方に差し出すと、羽唯も宮島に自分が持っているチョコバナナのそれを渡した。2人は交換すると、一口食べ、またお互いの元へと戻す。
「チョコバナナもいいね」
先に飲み込んだ宮島が唇を親指で拭う。
「カスタードもいいけど、みかんの方がチョコなくていいね」
「それは味変の選択として、でしょ?」
宮島は少し残念そうに眉を下げる。高本に、ほら、食べるでしょ?と笑いかけると、高本もその様子を見て一応は納得したようだ。
羽唯がみかんの方がいいと言ったからか、宮野が無言で羽唯の前にそれを差し出した。羽唯は一瞬宮野の顔を覗ったが、すぐに目の前に出されたそれに視線を移し、みかんのある場所に顔を寄せる。
「食うのかよ」
宮野が急に笑い出す。以前の喫茶店の時とは違って、今回は我慢するように口を手で押さえてクツクツと喉を鳴らしている。羽唯は差し出されたものを食べただけで、笑われるだなんて思ってもいなかったので、不機嫌に顔を顰める。
「なに?」
「いや、食べすぎたら太るなー、とか考えねえの?」
宮野の口から出た言葉は女の子にとって最悪なもので、羽唯の顔はさらに険しくなり、ついには宮野の足を踏んづけた。それでも、座っている羽唯の体重で男子高校生である宮野が悲鳴をあげるわけなんてなく、まだおかしそうに笑っている。
「お前が差し出したんだろ!」
思わず羽唯は反論する。差し出したのは宮野だ。それなのに宮野に太るとか言われたくない。誰のせいだ。
「いや、そうだけどさ。本当に食べるとは思わないじゃん」
羽唯は宮野に試されていたらしい。宮野の中で羽唯が差し出されたクレープを食べるか検証されていたようだ。
宮野は、そんな羽唯の様子が、差し出された餌を疑いもなく食べる犬みたいだと笑っている。当然、羽唯には宮野が頭の中でなにを思っているかなんてわからないので、そう思われていることを知るはずもない。
2人が言い合っている様子を見ている高本は、さっきとはまた違う表情をしている。宮島もそんな高本が面白くて笑ってしまう。
「ちょ、なに笑ってんの!」
「ごめん、でも…」
宮島は笑っている顔を見せないようにするためか、顔の前に腕を持ってくる。そのまま高本から視線を外し、誰も遊んでいない公園の遊具の方に顔を向けた。
「言いたいこともわかるよ、仲良いのか悪いのかどっちなんだよ、って感じだよね」
食べ物をシェアしていたり、無言で通じ合っていたり、仲が良いのかと思ったら、喧嘩し出したり……。2人の関係は高本にとっては謎そのもの。全く持って理解ができない。
「でもね、2人はこれだから良いんだよ。お互いが信用して、信頼し合ってることは見てれば簡単にわかるから。僕、2人が楽しそうに喧嘩してるのを見るのが好きなんだ。」
宮島の見解を聞いて感動しそうだった高本だが、最後の一言で正気に戻った。意外と一番イカれているのは宮島なのかもしれない、という疑念が高本の頭を巡る。
「あ、でも仲良くしてくれるならそれが一番だよ?」
よかった。宮島がちゃんと普通の感性を持っている人で、高本は安心した。




