宮野のこと、好き?
宮島と高本が一通り話し終えると、待ってたかのように羽唯が宮野との口喧嘩を止め、高本に話しかける。
「宮野のこと、好き?」
あんな説明を聞いた後だが、高本はこう思わざるを得なかった。
(牽制???)
光り輝く銀髪を揺らし、透き通った水のような瞳を向ける、おそらく学年一の美少女に見つめられる焦りは、なんとも形容し難い。すぐに違うと否定しなければいけないと本能では思ったのだが、その美しさに目を奪われ、なかなか言葉が出てこない。
「かわいい……」
なんとか絞り出して出た言葉はそれで、さっきの質問に対しての返答としては全く噛み合っていない。高本の脳は羽唯の姿で埋め尽くされ、考えることを放棄していた。
「え?」
それを聞いた羽唯は困惑する。それもそうだ。宮野を好きかと質問したならば、好きかそうでないかで返ってくると思っていたのだから。そんなことを質問されて、かわいいなんて返す人がどこにいるか。
「あ、えっと、ごめんなさい!」
間宮さんってリアルで見るとやばい、可愛すぎる、好きにならないとかある?と1人でブツブツ言っている高本に、羽唯はもう一度質問する。
「ねえ、だからさ、宮野のこと好きだからあたしたちに話しかけたの?」
高本と打って変わって、羽唯は真剣な顔をしている。これには高本も本気で危機を感じ即座に返答した。こんなにかわいい女の子とせっかく仲良くなれるチャンスなのかもしれないのに、嫌われるわけにはいかない、と必死になる。
「全っぜん!女の子に太るとか言う人あり得ない!そもそも私孤高の王子様とかじゃなくて、分け隔てなく優しい人がタイプだから!さっきの宮野くんとかほんとあり得ない!なんでこんなにかわいい間宮さんにあんなこと言えるのか本当にわかんない!」
高本の全力否定には、あの宮野も若干引いているようだ。女子からの評価なんて特に気にしない男だが、そこまで悪く言われると流石に気になるのかもしれない。
一方羽唯は、その否定のしように感心している。自分が高本にかわいいと絶賛されたことでなく、宮野のことをよく思わないところに対して、羽唯はそう思ったらしく、目を輝かせている。
「そうだよね!ほんと、こんな男あり得ないよね!前の飛び出しガールとか、本当に意味わかんない!宮野が賢いのはわかるけど、それにしても一回も喋ったことない人によくそんなに図々しくお願いできるよね。そんなに盲目に宮野のこと好きになるのあり得ない。普通にバカだよね」
羽唯の口の悪さは、初対面の女の子に対しても健在である。初対面の宮野にもそうだったのだから、当たり前と言えば当たり前だが。初対面の人にはどうしても少し丁寧になってしまうのは全ての人共通ではないようだ。
「飛びだしガール?」
高本はその時教室にいなかったのか、羽唯のエピソードトークに着いて来れていないようだ。
「テスト一週間前に、宮野を教室で勉強会に誘った女の子がいたの。名前知らないから飛び出しガールって呼んでるんだけど。」
羽唯の話を聞き、高本は少し考えるような仕草をしてみせた。
「んー、田代ちゃんかな?」
「田代?」
羽唯もどこかで聞いたことがあるような名前だ。
「うん。4、5人グループのリーダーみたいな子でね、この前宮野くんに勉強教えてもらえたらな〜とか言ってたよ」
間違いなくその田代ちゃんが飛び出しガールだろう。それにしてもよくそんなことを知っているものだ。
「飛び出しガールは田代ちゃんね」
ま、絶対話さないから覚えなくても良いんだけど、と付け足した羽唯に高本は疑問に思う。
「話さないの?」
高本陽葵はクラスメイトはみんな仲良くしようタイプの女の子なのだろうか。まだわからないけど、それならば羽唯も宮野も今後関わらないだろう。
「うん。だって宮野のこと好きな人とは分かり合えないって最初からわかってるもん。わざわざ時間割く必要ない」
そう言い切る羽唯はどこか清々しかった。
「そっか。じゃあ私は間宮さんと仲良くなれるのかな?」
「高本さんがあたしのこと嫌いじゃなければ?話しててわかるだろうけど、あたし口悪いし」
「全然!むしろ仲良くなりたい!」
高本が興奮したようにそう言うと、羽唯は安心して嬉しそうに笑った。
「へへ、女の子の友達初めてだ」
綺麗な形で、淡いピンク色のリップが塗られた唇が、弧を描いた。にっこりと笑った表情があまりにも美しくて、可愛くて、高本の頬が紅潮する。
「ほんとかわいい……」
高本の視線は羽唯の顔に釘付けだった。同い年の女の子でこうなるのだから、この笑顔を向けられる男子高校生なんて、すぐに羽唯のことを好きになってしまうだろう。羽唯のことは絶対守ってみせる、と1人意気込む高本を横目に、宮島が嬉しそうな顔をしている。
(よかった、間宮さんに女の子の友達ができて)
宮島が高本の誘いに乗ったのは、一か八かの賭けだった。最初の印象がよかったのもあるが、最近宮島は羽唯に女の子の友達がいないのを気にしていた。2年生では修学旅行もあることだし、同じクラスに女の子の友達がいることは、修学旅行を楽しめる大きな要因にもなるだろう。宮野のファンであった場合は、どうやって逃げようかも考えていたが、その杞憂は必要なかったらしい。そしてどうも、高本は羽唯のファンになったのかもしれない。さっきからずっと羽唯の顔を見つめてキラキラした顔をしている。これで宮島も一安心だ。
「じゃあね!羽唯!」
「うん、また学校でね。陽葵」
いつの間にか名前呼びになっていた2人は、笑顔で手を振って別れた。陽葵は宮島と同じ方面らしく、宮野や羽唯とは電車が違うらしい。
「よかったな」
別れてからも、ニコニコと嬉しそうな顔をしている羽唯に、宮野が声をかける。
「うん!ちょー嬉しい!」
右手でピースを作って、宮野にもその輝く笑顔を見せた。
テストが終わってから浮かない顔をしていた羽唯がここまで嬉しそうな顔をしているのを見て、自然と宮野も嬉しくなった。




