暑い?熱い?
6月に入り、本格的に暑くなってきた。気温も20度代後半なことがもっぱら。6月と言えば梅雨というイメージに等しく、カラッとした暑さでなく、ジメジメ。湿気がある蒸し暑さなのが、余計に暑苦しさを増長させている。
「あづい〜……」
冷房が当たっている机は冷たくて、羽唯は天板に頬をくっつけるように顔を埋める。
暑いと言えば暑いのだが、それと同時に汗がクーラーで冷え、体は少し寒いだとか、よくわからない。
「お前……」
間宮のそんな様子に違和感を感じた宮野が、間宮の額に手を添える。心なしか間宮の顔が赤い気がすると思ったら、額も異常に熱い。
「はぁ…保健室行くぞ」
ため息を一つついて、宮野は席を立ち上がった。宮島が体調不良で休みなため、仕方なく2人でお昼ご飯を食べていたのだが、宮野は開けたばかりの弁当箱に蓋をした。そして、開けてすらない間宮の弁当箱を片手で待ち、もう片方の手で間宮の手をしっかりと掴み、引っ張る。宮野は掴んだ手からも、その熱さを感じていた。
「失礼します」
コンコン、と保健室のドアを叩いたが、返事がない。ドアは開いているようだったから、養護教諭がどこかに出ているだけなのだろう。とりあえず中に入り、間宮をベッドに座らせた。そして、わかりやすくペン立てに入っていた体温計を取り、間宮に手渡す。
「館セン探してくるから、体温測っといて」
館センとは、この学校の養護教諭のことで、正しい名前は館屋だ。館センと言うのは、先輩から代々受け継がれる生徒たちからのあだ名。館屋先生は男なのだが、心の性別はよくわからない。男性ものの服を着てはいるものの、着こなしは女性のそれだ。それに、コツコツと音のなるヒールが印象的だった。口調は女性というか、オカマ?わざとあんな風な喋り方をしていると宮野は思っている。女子生徒と仲がいいのか、よく保健室前で話している印象がある。
間宮は宮野から体温計を受け取ると、シャツの第二ボタンを外した。それを見た宮野は、焦って保健室から出る。熱で頭が回ってないとは言え、警戒心の無さにびっくりする。焦って早く動く心臓を落ち着かせ、教務室に向かった。
案の定、館屋先生は第一教務室にいた。どうやら昼休憩でコーヒーを飲みに来ていたらしい。保健室でコーヒーを飲むのがダメなのか、コーヒーメーカーが第一教務にしかないのかわからないが、昼休みは保健室にいて欲しいと思う。
館センとともに保健室に帰ると、間宮はベッドに横たわっていた。
「大丈夫か?」
間宮の寝ているベッドに近づき、横に置かれている体温計を手に取る。そこには、38.2℃と表示されている。高熱だ。ああなるのも仕方ない。それにしても、体温を測ってすぐ横たわったのか、開けられた第三ボタンから上は閉められていない。もし他に生徒が来たらどうするんだ。そう思いながら、間宮の肌に触れないようにボタンを閉めていく。熱を逃すためにも、第一ボタンだけは開けたままにしておいた。
宮野の後ろから館屋先生が保健室利用書を持って来た。
「熱測るように言ってくれてたのね。ありがとう。何度だった?」
館屋先生は紙に記入しようとペンを持った。宮野は手に持っていた体温計を館センに見せる。
「まあ!高熱ね。夏風邪かしら?急に暑くなったからね〜教室は冷房も効いてるだろうし」
宮野ちゃん、奥の冷蔵庫開けたら保冷剤とか入ってるから取ってきて〜、と人づかいの荒い教師に頼まれ、せっせと動く。仕方ない、数少ない知人が大変な時に、何もしない人間でありたくないから。
「あ、館セン。その机にあるの間宮の弁当。まだ食べてないから。俺次授業戻るし」
保冷剤を間宮のもとへ持っていき、軽いブランケットをかける。
「わかったわ。ありがとうね。」
保健室を出たのは、授業が始まる5分前だった。今日は昼抜きだ。
授業に出れない間宮のためにも、ノートはしっかり取っておくべきなのだが、席替えをして、斜め前の方に見えていた銀髪が、今は見えないとそればかり気にしてしまう。結局授業に身が入らなくて、板書を写すだけになってしまった。
5限が終わるまでの時間がいつもの数倍は長く感じた。これからまだ6限、7限とあるのが許せない。あといくら待たなければいけないのか。
たった1人の友人がいない教室は、まるで知らない場所だった。
7限の終わりを告げるチャイムが鳴ると、宮野は急いで片付けをした。それでも、帰りのショートホームルームが終わるまで、教室から遠く離れた保健室に行くことは叶わない。いつも面倒だと思う西に、今日は早く来てほしいと思った。




