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嫌いな宮野  作者: 陽夏
12/22

悪夢


 酷い夢を見た。



 いつもと変わらない通学路。いつもと変わらない校舎。いつも通り教室に入る自分の姿。いつも通り、視線を向けるだけで声は掛けてこないクラスメイト。自分の席に座って、荷物を整理して。ふと、後ろを振り返った。ずっと抱いていた違和感に気づいた。


 宮野がいない。


 最寄り駅が同じだから、当たり前に電車の時間も同じで、毎日わざわざ一緒に行くわけでもないけど、降車駅のホームで会うと、一緒に登校するくらい。

 宮野の方が歩くスピードが早くて、別々で登校するときも、先に席に着いていたのは宮野だった。

 しかし、今日は振り返ってみてもその姿がない。

 (休みなのかな)

 今まで宮野が休んだことなんて一回もなかった。宮野だって人なんだから、風邪を引いたりすることもあるだろう。休みでも、別になんらおかしなことではない。それでも、羽唯の胸はざわついた。どうしてか、嫌な予感がするのだ。


 朝のショートホームルームが終わり、羽唯はにっしーこと西先生のもとに行った。

 「ね、にっしー。今日宮野休み?」

 羽唯がわざわざ宮野のことを聞いてくるのが珍しかったのか、西先生は驚いたような、不思議に思っているような、そんな顔をした。


 「宮野って誰だ?」


 その瞬間、羽唯の頭の中には、ガラスが割れたような音が響き渡った。いつもの西先生の冗談かもしれない。そんな不謹慎なことを冗談でも言う教師ではなかったはずだが、今日はたまたま加減を間違えたのかもしれない。

 「にっしー、冗談はいいよ。にっしー宮野のこと気にかけてたじゃん」

 あまりクラスに馴染めていない羽唯と宮野のことを、西先生は1年の頃から気にしていた。

 そんな西先生が宮野のことを忘れるわけない。

 「おい、間宮本当にどうしたんだ?保健室行くか?」

 いよいよ西先生は羽唯の頭を心配しだした。羽唯は体調不良なんかじゃない。頭は正常だし、体も元気だ。ただ、ものすごい違和感と不安に包まれているだけで。

 「え、でも私の名簿の次って……」

 西先生が持っている、生徒の出席を記録する生徒名簿を見た。裏面には名簿順にならんだ座席表が書かれている。間宮羽唯と書かれた席の後ろには、森悠大の文字。宮野伊吹という名前はどこにも見当たらなかった。

 「森のこと言ってるのか?確かに森は今日休みだぞ」

 違う。森くんのことなんて羽唯は考えてもない。

 なんで。なんで宮野がいない?宮野伊吹と言えば、学年中の誰もが知っているような人物で、忘れられるわけがない。

 そうだ、宮島。宮島なら覚えてるはずだ。

 羽唯はそう思いついた瞬間、宮島のいる3組に向かった。

 「おい!もう1限始まるぞ!」

 西先生の言葉は無視して、急いで廊下に出た。

 だっておかしい。宮野の名前が名簿から消えていて、でも間宮の中には、宮野の存在が確かにあって。


 「宮島っ!」

 3組の扉を勢いよく開け、大きな声で名前を呼んだ。いつもなら絶対そんなことはしないが非常事態だ、致し方ない。

 「間宮さん!?もう授業始まるよ!?」

 宮島もそんな間宮の行動に驚いている。クラスも、なんだなんだ、とざわざわし出した。

 「宮島!聞きたいことがある!」

 宮島の席までズンズンと歩いて来た羽唯が、宮島の腕を引っ張り、教室を出ようとする。

 宮島が何度も待って、と静止の言葉を口にするが、羽唯にはそれは聞こえていない。いいや、厳密にはそれは聞こえていたのだが、右から左へと流れていった。



 「ちょ、間宮さん!本当にどうしたの!」

 人気のない屋上に繋がる階段まで行くと、宮島が羽唯を引き止める。

 羽唯は宮島に腕を引っ張られ、足を止めた。ゆっくりと、振り返って宮島を見る。その表情は、辛くて、今にも泣き出しそうなのを必死で堪えているようだった。

 「ねぇ、ほんとにどうしたの?なんでそんな泣きそうな顔してるの?」

 そっと、羽唯の頬に優しく手を添えた。次には、宮島の手は生暖かい羽唯の涙で濡れていた。羽唯はどうにか涙を堪えようとするが、そうすればするほど涙は溢れ、嗚咽が漏れる。

 「ごめん、余計に焦らせたね。ゆっくりでいいよ。1限はサボろう。」

 宮島は、ただならない羽唯の様子を見て、これは緊急事態だと判断したらしい。

 羽唯はそれでも目を擦って、息を飲み込んで頭の中にぐちゃぐちゃになった言葉をどうにか宮島に伝えようとした。

 「宮野が……いない、の。朝、にっしーに聞いたら、誰?って……宮野伊吹は、いないって……」

 宮島ならわかってくれるはずだ。そう期待して、振り絞るように出した息は、味気なく、否定された。

 「宮野って、誰?」

 瞬間、羽唯は鉄砲玉を喰らったような顔をした。

 (嘘、嘘だよ。なんで、嘘だよ。宮島が宮野のことを忘れるわけがない。)

 「ねぇ、嘘はいいの。ほんとのこと言って……?」

 信じられない、信じたくない。

 「だから、僕は間宮さんが言う宮野くん?は、知らないよ」

 宮島は、諭すようにそう言うが、羽唯には言い方なんて関係ない。ただその言葉が、事実が、胸に深く突き刺さった。

 震える体で、目で、声で、宮島に訴えかける。

 「ち、違うよ宮島。1年の時は、3人でいつも一緒だったじゃん。宮野があたしをいじって、あたしが宮野にやり返して、2人で喧嘩すると、宮島が仲裁に入って……… ね?1年間、一緒にいたじゃん」

 羽唯は鮮明に覚えている。宮野との喧嘩の後は宮島の説教が恒例となるほど、繰り返して来たやりとりを。

 「ごめん、僕間宮さんとは仲良かったけど、いつも一緒ってほどじゃなかったよ?それに、喧嘩の仲裁なんて僕には出来ないし……」

 おかしい。そんなはずない。羽唯には確かにその記憶があるのに。そうだ、夢だ。羽唯にとって都合の悪い夢なんだ。なんで今まで気づかなかったんだ。西先生が宮野ののことを忘れている時点で、これは現実じゃない。やっと気づいた。

 それから、目覚めるまでは早かったように思う。


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