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嫌いな宮野  作者: 陽夏
13/22

保健室


 目を開けると、見慣れない白い天井が映っていた。

 視線だけ動かして見渡せば、横には本を片手に持つ宮野の姿があった。

 いる。そこに、宮野伊吹が。たったそれだけのことが、羽唯を安心させた。

 「起きたか」

 羽唯が起きたのに気付き、宮野は読んでいた本を閉じた。そして、羽唯の額に手を当てる。

 「だいぶ熱下がったな。にしても汗すごいぞ?悪い夢でも見たか?」

 羽唯の額に触れる宮野の手を、今度は羽唯が取り、両手で握った。安堵からか、涙が頬をつたる。

 「おい、ほんとにどうした?」

 いつもとは違う羽唯の様子に、宮野は焦った。熱で頭がおかしくなったのか、とありもしない心配までされる。

 「悪い夢……見た」

 無言でずっと泣いたまま、宮野を困らせてもよかったのだが、自分が意味もなくそんなことをすると思われたくなかったので、行為の理由を説明した。説明と言っても、たった一言だけ。

 「そうか」

 それ以上追求するわけでもなく、宮野は羽唯に手を貸すことを許した。羽唯が満足するまでさせてあげようと思ったのか、空いている方の手で、再び本を開いた。

 7限もとっくに終わり、下校時間を迎えている。オレンジ色の西日が、大きな窓から2人を照らした。


 「ねえ、宮野はさ……あたしがいなくなったら嬉しい?清々する?」

 急に何を言い出すのか、と片眉を上げた宮野だったが、すぐに考え込むような顔に変わった。

 「いや、別に。違和感でしかないだろうし、清々するかって言われるとしないな。逆にストレスの発散どころがなくて困るまである」

 宮野の答えはどこかむかつくものだったが、自分と同じく違和感を抱くという点が聞けたので羽唯は満足した。

 「そっか。」

 もうだいぶよくなったし帰ろう、と起き上がり、ベッドから足を出す。羽唯の声を聞いた宮野は本を鞄の中にしまって、立ち上がった。


 宮野は、保健室の入り口の方で館屋先生と何か話しているようだ。羽唯はそれを見て不思議に思ったが、特に2人の会話に割って入ることはしなかった。

 2人が帰ろうとしていると、保健室の扉が勢いよく開いた。

 「おっ、間宮元気になったか?」

 扉を開けて入ってきたのは担任の西先生だった。午後はずっと授業に出ていなかったから心配で見にきてくれたのだろうか。西先生は生徒思いだとよく思う。

 「うん、まあお昼よりは。」

 「そっかそっか!それはよかった。宮野、ちゃんと最後まで間宮の面倒見てくれよ」

 今度は宮野の肩を叩いて笑う。別に宮野に面倒見られなくても、もう1人で帰れるくらいは元気になった。

 さよなら、と館屋先生と西先生に挨拶をし、保健室を出た。



 

 「ねえ、あの2人」

 「仲良いですよね〜!」

 館屋先生が言いかけた言葉を、すかさず遮った。何を聞かれるか怖かった。

 「西先生は気にならないの?」

 館屋先生は少々生徒のプライベートというか、交友関係や恋愛関係に首を突っ込むことがある。教師としてはもし万が一問題に発展でもしたら困るので、あまり口を出さないでほしい。ただ、西個人としては面白いしどんどんやっていって欲しいと思っている。

 「気になりますよ、そりゃ。あの2人は彼ら以外の生徒と関わろうとしないし。でも、なんでも気軽に言い合える仲だなんて、最高じゃないですか?」

 「そうね。それは良いことだわ。」

 館屋先生は、窓の奥に沈みかけている夕陽を眺めている。


 「アタシ、第一教務で宮野ちゃんに呼ばれた時、本当にびっくりしたのよ。クラスメイトが高熱だったので保健室に連れて行きました、なんて言われてさ。宮野ちゃんってそんなことする子だっけ?と思ったら、ベッドに寝ていたのはあの間宮羽唯よ?」

 館屋先生が言いたいことはわかる。宮野や間宮の噂は教員まで回ってくる。そんな2人が教師を頼ることや、保健室を利用することなんて今までで一度もなかった。2人が疑り深いというか、用心深いというか、そういう、人を簡単に信頼するタイプじゃないのは去年でわかっていた。だから今年は少しでも信用してもらおうと2人には特に積極的に話しかけていたし。

 もっとも、館屋先生が言いたいのはそういうことじゃなくて、あの学年一と噂される宮野が同じく学年一と噂されている間宮といることだろうけど。西にはもうその光景は見慣れたものだから、今更それほど驚かない。

 「宮野ちゃんもすっごい真剣な顔してたし、間宮ちゃんも宮野ちゃん相手に完全に安心しきっていたようだし。それに最後の聞いた!?」

 ものすごい剣幕で詰め寄られるが、西が来たのは本当に最後で、おそらく館屋先生の言う部分に該当するものは聞いていないだろう。西が左右に首を振ると、館屋は他人事なのに顔を輝かせて語り始める。乙女か。

 「カーテンで見えてはいなかったんだけど、間宮ちゃんが目覚めるとなんでか泣いちゃって。宮野ちゃんがね、どうした、悪い夢でも見たか、って。その時の声がほんとにもう優しくて!!なんなのあの子!アタシよくおしゃべりにくる女の子たちから孤高の王子サマ、って聞いてたんだけど!全然違うじゃない!」

 西だってその噂は聞いている。しかし、毎度その噂を聞くたびにおかしくて笑ってしまいそうになる。

 (ああ見えて、宮野は多分、今仲良いやつらのこと大好きなんだよな)

 「宮野は孤高なんかじゃないっすよ」

 西がそう言えば、館屋はフッと口角を上げる。

 「アタシ、あの2人がくっつくのも時間の問題だと思うんだけど」

 「俺だってそう思ってますよ?」

 思ってはいても、そういうのは口に出すべきじゃないと思う。

 そんな西の心配を無碍に、館屋はさらに話を続ける。

 「文化祭、いいえ、夏休みかしら?」

 あいつらがいつくっつくかの予想だろう。こんな下世話な話……間宮野に申し訳なくなってくるな。

 「けっこういくっすね。じゃあ俺はクリスマスで」

 結局館屋先生のペースに飲まれて会話は進んだが、西もこれからの2人がより楽しみになった。


 「ふふ、一年後が楽しみね」


 

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