意外な提案
「じゃあこの中で出たい競技に名前書きに来て〜10分経ったらみんな座ってね」
西先生の合図で、生徒たちがゾロゾロと席を立ち始める。みんな友達と相談して決めるらしい。
羽唯は黒板に描かれた文字をさらい直す。
・選抜リレー
・玉入れ
・綱引き
・借り物競走
・障害物競争
・尻尾取り
・仮装競争
それなりに種目はあるが、出たいと思うものは何一つもない。無難に玉入れでもいいか、そう思って玉入れの定員と現在黒板に書かれている名前の数を見ると、どうも溢れているらしい。そんなところにわざわざ混じりたいとは思わない。どうにかそれ以外で楽そうな競技を考えよう。チラッと、斜め後ろにいるであろう宮野の様子を確認してみると、つまらなそうに頬杖をついている。それもそうだ、宮野は羽唯と同じで、こういうお祭りごとというか、大人数でワイワイするようなのが嫌いだ。余り物の競技にするのだろうか。
再び黒板に視線を戻すと、選抜リレーには名前が書かれていない。男女2人ずつだが、書かれているのは男子1人の名前だけだ。
そうこうしているうちに、どんどんと名前が埋まっていく。羽唯も早く書かないと、と焦り始めると、珍しく羽唯に女の子から声がかかった。
「羽唯、どれにするの?」
陽葵だ。授業中に話したことはなかったので、話しかけてくれたのがとても嬉しい。陽葵とは席が遠いから、わざわざ自分のところまで来てくれたのだろうか。
「最初は玉入れにしようかと思ってたんだけど、もう埋まっちゃてて……。陽葵は?」
「私は借り物か障害物かな〜仮装と尻尾取りはちょっとなんかヤダ」
言いたいことはわかる。変な仮装が当たってしまったら嫌だし、尻尾取りは女子同士かもしれないが、ちょっと恥ずかしい。
「借り物か……」
障害物は去年の記憶では、粉の中に顔を入れて飴を探すなんてのがあったからできるだけ避けたい。
ちょうど障害物と借り物と一枠ずつ空いていた。
陽葵と相談し、それぞれ障害物と借り物に名前を書いた。
黒板に名前を書き、帰ってくると宮野のことを思い出した。そういえば、彼は出場する競技を決めたのだろうか。
黒板を隅から隅まで探してみても、その名前は見当たらない。まだ書いていないらしい。
「とりあえず10分経ったから、今書いてるの書き終わったやつから席つけ〜」
西先生が手を叩いて、生徒たちを座らせる。そして、黒板を見て話し始めた。
「人数がオーバーしていたら自分たちで変わったりする姿勢は素晴らしいね。さすが2年生だ。さぁ、選抜リレーがまだ人数足りないね〜誰か出てくれる人!」
西先生がそう言って、見本のように手を上げる。しかし、クラスは静まり返っていて、誰も手を挙げようとしない。
「え〜じゃあまだ書いてない人だ〜れだ?」
黒板に書かれた名前を数えてみても、38しかない。このクラスは40人なので、あと2人は書いていないことになる。おそらくそのうちの1人は宮野だ。
「おっ、宮野書いてないじゃん!宮野選抜でいい〜?」
みんなの前で大きな声で言われると流石の宮野でも断れないだろう。どんな顔をするのか気になって後ろを振り返ると、すっごく、それはもう本当に嫌そうな顔をしていいた。
「んな嫌そうな顔すんなって〜確かクラスで50mのタイム一番早いの宮野だろ〜?」
西先生はちゃんと理由があっての抜擢だ、と弁解したいのかもしれないが、どうやらそれは逆効果だったらしい。宮野はさらに嫌そうな顔をして西先生を睨む。さらに目立つ要因になって可哀想だ、と同情する気持ち半分、宮野が嫌そうな顔をしているのが面白いで半分。羽唯は1人、ニコニコしていた。
「じゃあ、女子のもう1人は間宮で」
今度はすっきりしたような顔で、西先生にニコニコと笑顔を向けている。普段笑わないやつのこういう笑顔が一番怖いんだ。それにしても、宮野、なんて言った?
「間宮、頼む」
西先生が羽唯の方を見て手を擦り合わせている。
いや、待って欲しい。そんな宮野の一声で決まるようなものなのか。それでも羽唯は全く納得がいかない。なんであいつのせいで二つも種目に出ないといけないのか。
「ねえ待ってにっしー。あたしもう借り物に名前書いてるよ」
そうだ、掛け持ちなんてしたくない。すでに名前を書いているんだ。それでさえ、できればやりたくないのに、二つ目なんてたまったものじゃない。
「選抜は特別に掛け持ち可なんだよ〜間宮も確かタイム良かっただろ?」
全くよくない。50mも7秒そこそこ。女子でも羽唯より早い子はたくさんいるだろう。一般的には十分早いのかもしれないが、羽唯の気持ち的には、それは全くよくない。
なんで宮野は羽唯を推薦したのか。単なる嫌がらせか、巻き込みか、はたまた羽唯と一緒の競技に出たかったか。などと考えたが、最後のに限っては絶対ない。ありえない。あったらもうそれは地球がひっくり返ってしまう。惑星の大きさをした隕石が、大気圏の摩擦で燃え尽きて消失することなく、地球の表面、つまり地面や海面に人間が大きいと認識するくらいの岩の状態で落下するくらいの確率。まあまずありえない。
「……はい」
ここで大きな声で西先生や宮野と喧嘩を始められるほど、羽唯もメンタルは強くない。羽唯自身、目立つことは好まない。仕方なく、あの2人の口車に乗せられておいた。とはいえ、後で宮野には文句を言うし、西先生のお願い事も当分は無視するつもりだ。友達が増えたことで少し楽しみになっていた体育祭だが、一難ありそうな気がする。




