ニヤニヤの正体
出場競技を決めるロングホームルーム、略してロングがあった4限の後、いつも通りのメンバーで集まっていた。一年から一緒の宮野宮島に加えて、公園で知り合った陽葵。羽唯自身を合わせた4人で仲良く弁当を囲む。
4人が集まると、宮島が話を切り出す。
「みんなは種目何に出るの?」
「私障害物リレーだよ」
「僕も障害物だ!一緒だね」
「ほんと!?クラス違うけど頑張ろうね〜」
陽葵と宮島は随分仲良くなったと思う。羽唯は女の子同士というアドバンテージがあるが、それを除くと陽葵と仲がいいのは、羽唯より宮島の方かもしれない。もちろん宮野は論外だ。
「あたしは借り物……と選抜」
「ええ!?間宮さん二つも出るの!?意外だ……」
去年は3人とも一つの競技しか出ていなかったし、羽唯はその一つでさえも出るのを嫌がっていたから、宮島からしたらまさかの話で。
「違う!あたしが出たいって言ったんじゃなくて、宮野が勝手に言ったの!選抜の女子間宮で、って」
羽唯が意外にも体育祭を楽しみにしている、とか変なふうに思われたくなくて、必死にわけを説明する。
「へ〜!宮野くんそういうの言うんだ……」
宮島の反応は思っていたものとは違った。けれども、羽唯ではなく宮野に意識がいったようで、一安心した。のも束の間……。
「なんかチラチラ様子覗って来てキモかったからちょっと嫌がらせに」
弁当をつつきながらそう口にする宮野はいかにも冷静といった顔をしていてムカつく。堂々と嫌がらせと宣言してくれたからには文句の一つ二つ、弁当を頬張る本人の口に突っ込んでやりたい。
「そんなに見てないし!てかあんなの気づく方がキモい!」
なぜだか、自分から宮野の様子が気になり、覗ったことが恥ずかしくて、知られたくなくて、羽唯のエベレストのように高いプライドがそれを言われるのを許さなかった。
宮野はそんなこと露知らず、羽唯の地雷を踏み荒らして行く。
「隠してたつもりだったのか?ガン見してただろお前」
「だって目合わなかった……」
知られていたなら、羽唯が見ていたタイミングで宮野が羽唯のことを見ていたということ。つまり、目が合うはず。しかし、羽唯の中にはそんな記憶はない。宮野は視線を羽唯に寄越さず、間接視野でその様子を捉えていたのかもしれない。それもそれで宮野の方が上みたいに感じる。
「あんだけ見られてたら嫌でも目に入る」
どうしてか、また負けた気がした。羽唯の耳は悔しさと恥ずかしさで熱くなっていて、次期にそれは顔にも巡るだろう。そんな事態を回避するために、別の話題を必死に探す。
そこで、宮島がさっき興味を持った宮野について深掘りしてくれた。
「じゃあ、宮野くんも選抜ってこと?」
「……。」
宮野はそれには答えない。この男の無言は大体肯定だ。ちなみに、気は乗らないが仕方ない時などにこの反応が多い。言わなくても宮島には伝わるが、陽葵はそんなこと知らないので、空気が悪くなったと感じるかもしれない。陽葵に気を使わせたくないから、それだけは避けたい。
「そーだよ、こいつ名前書きにいかなかったから。宮野が名前書きに行ってたら、あたしたちが選抜のメンバーになる必要なかったんだし」
実際、その未来はありえたと思う。今回の戦犯は宮野だ。宮野が玉入れとか無難なところに名前を書いてくれていたら、西先生に話題にされることもなかったのに。それでも女子たちからの推薦はあったかもしれないが。
「じゃあ1人になりたくなくて間宮さん誘ったんだ」
宮島の笑顔は裏があるのかないのかよくわからないが、宮野はニコニコ笑う宮島に鬱陶しそうな目を向けた。
陽葵もそれを聞いてニコニコしている。羽唯も不思議だ。最近、宮野と話していると、陽葵が少し離れたところから笑顔で見ていることが多い。羽唯にはその理由はわからない。宮野もきっとわからない。宮島にならわかるのだろうか。
「うざい」
宮島に宮野が直接的な暴言を吐くことなんて滅多になかったので、相当キレているようだ。これには宮島も驚きたじろぐかと思ったが、なぜか嬉しそうに口を綻ばせる。
「だって、高本さん。宮野くん、間宮さんと一緒にいたいっていうのを否定しなかったよ。」
これは、あれですか。もう来てますかこれ。とかなんとか、2人で楽しそうに話している。全く同じ表情が並んでいる光景は、見るに耐えなかった。
何やら盛り上がっている2人を横目に、宮野の弁当箱の中から綺麗に巻かれた卵焼きを奪う。その手付きは慣れたもので、宮野もおい、と声をかけてそれだけ。
「でもあたし宮野が授業中に自分から発言したことの方が驚き」
クラスに馴染もうとしない、というかむしろ自分から距離を作っていたので、今までそんなことしなかった。ひっそりと、注目に浴びないように教室にいるのが宮野だ。あんな、みんなの視線が集まるところで意見するなんて考えられなかった。
「そろそろ何もしないのも限界だろ。その結果が中間前のあれとか」
宮野の言い分は、要約するとこうだ。生きているだけで注目を浴びるのが面倒くさいし、嫌だったからクラスに馴染むことなく、壁の花になっていたけど、それも2年生になって宮野の存在に慣れた人たちには意味を成さない。飛び出しガールの田代ちゃんみたいな……。だから、もう諦めて堂々とやろう、という……。
「だいぶ思い切ったね!?」
それでも羽唯は予想外な宮野の行動を信じられない。それは、宮野の口の悪さもいつかはクラスメイトに知れ渡るということ。十分広まって嫌われるがいい、と思う反面、どこか、寂しさを覚えた。宮野の本当の姿がクラスメイトに知られると思うと、なぜかモヤっとした。
「お前も高本と喋るようになって、きっとクラス内でも他のやつと喋るようになるだろ。俺だけ置いていくとか気にしなくていいし」
ドスッ、と肘で宮野の脇腹を突いた。何すんだお前、と宮野が怒っているが、羽唯はそれには反応しなかった。
まさか宮野がそんなことを考えていたなんて思っていなかった。羽唯は確かに、最近クラスでも高本と話すことが増え、彼女のつながりで少しずつクラスメイトとも交流するようになった。その度に、視界の端に映る宮野の姿が気になっていたのは嘘じゃない。しかし彼女は間宮羽唯だ。素直にそれはよかった、なんて言えるはずもない。
「別に気にしてないから」




