黒団
体育祭の競技はクラス対抗、または団対抗で行われる。団、というのはそれぞれ1年から3年の同じクラスで集まって結成するものだ。毎年、1組は青団、2組は赤団、3組は黄団、4組は黒団、5組は白団と決まっている。羽唯たちのクラスは2年4組で黒団だ。団の色がクラスTシャツのカラーにもなっている。体育祭の練習期間は、主にそのクラスTシャツを着る。おかげで、宮野は上から下まで真っ黒だし、羽唯は黒いTシャツのせいで銀髪が目立っていた。
競技を団対抗で行うといっても、学年別なのであまり団対抗感はない。団対抗には一番大きな種目がある。団パフォーマンス。所謂ダンスだ。1から3学年で同じ振り付けを踊って、フォーメーションを変えたりして審査員にポイントをもらい、団で競う。実に体育祭らしいといえば体育祭らしいのだが……。羽唯や宮野に似合うかといったら、それはまた別の話だ。
「やばい、宮野がダンスしてるの普通におもろい」
ダンスの振り付けなどは全て3年生が考えるため、年によって全く毛色が違う。去年は見事かわいい系を逃れた2人だが、今年は当たってしまった。
当たってしまったものは仕方ないが、男子高校生がアイドルダンスを踊る光景は実に面白い。3年生がなぜこれを選択したのか甚だ疑問だが、おそらくノリか女子の方が権力が優勢だったとかだろう。誠に勝手だが、後者な気がする。もっと頑張ってくれ、3年男子。などと心の中で思ったとて無駄なので、羽唯は諦めて、というかもはや開き直って全力でかわいい振り付けを踊り切る。一方で宮野は苦しそうだ。
「お前が見た目だけなら似合うのが一番気に食わない」
羽唯はこんな性格でも見た目だけは、性格を知らない人にも告白されるほどの美少女なので、アイドルダンスなんか似合うに決まっている。というかもう羽唯がアイドルだ。だんだんとクラスにも馴染んできて、人前で笑顔を見せるようになりさえすれば、学年のアイドル間宮羽唯の完成。羽唯自身そうなることをちっとも望んでいないが、宮野はあり得る未来だと考えている。
「間宮羽唯ちゃんはかわいい、ってこと?」
宮野の言葉の真意は嫌味だったのだろうが、羽唯はあえて別の解釈をする。宮野に言ってみると、わかってるだろお前、とでもいいそうな顔を向けられた。
「えっへへー!学年1の美男子、宮野伊吹くんにそう言われちゃあ仕方ないですな」
わざとしく笑って、聞いたことがないような可愛らしい明るい声で自身の頬に人差し指を当てる。
「また熱でおかしくなったのか?」
宮野はいつもと違いすぎる羽唯の様子に熱でもあるのか、と心配したフリをする。フリだ、これは。宮野は天然ではないので本当に心配するわけがない。これはあれだ、お前熱でもあるのかってくらい頭おかしいぞ?っていうあれだ。
「アイドルダンス踊ってる自分が可愛すぎてなんか自己肯定感爆あがりしてきた」
「それはよかった」
全く思ってないだろう真顔でそう言われる。
「なんか、あたしってやっぱ見た目だけはかわいいんだな、ほんと」
羽唯も宮野ももれなく自身の容姿の良さを自覚している。せざるを得なかった理由ももちろんあるのだが、それはまたの機会に。
2人は自分の顔の良さを理解していない天然モテ系ではないところがお互い嫌悪感を抱かない理由の一つ。もちろん羽唯は宮野のことが嫌いなのだが、モテることを鼻にかけているナルシストなんかより、よっぽど宮野のことをそっち方面では嫌いじゃない。
宮野もきっと、羽唯が自分の顔の良さを理解せず、ラブレターとかよく貰っちゃうの!と言うようなタイプじゃないからこそ一緒にいるのだろう。
「見た目だけね」
念を押すようにそう言う宮野に羽唯は軽く蹴りをかます。
「それは中身もかわいいよ、って言うとこでしょ」
同年代の男に蹴りをかます女子のどこがかわいいのか、宮野は教えて欲しいくらいだった。
「言うわけなくない?そもそも思ってないし」
もう一度羽唯が蹴りを入れる前に、宮野の手が地面から離れた羽唯の足を掴んだ。このまま引っ張ってこかしていい?なんて悪魔みたいなことを言うものだから、羽唯はたまらず自身の足を掴む宮野の手に手刀をかます。
「もう、目を離すとすぐ喧嘩するんだから〜!」
水筒を取りに教室に行っていた陽葵が帰ってきた。これはまずい。陽葵は羽唯の味方なので、このあとは2:1。宮野に勝ち目はない。
「だって陽葵、宮野がね〜」
6月中旬でもう十分暑いと言うのに、羽唯は陽葵にくっついた。
先ほどまでの宮野とのやりとりを説明すると、案の定、陽葵は宮野に厳しい視線を向けた。
「羽唯はかわいいんだから!宮野くんにはわからないかもしれないけど、この天使みたいな見た目で意外にも毒舌で、でもはっきりしてて優しくて、羽唯がいっちばんかわいいんだから!」
羽唯のファンは一番身近にいた。宮野は全く持って聞いていない様子だが、陽葵は宮野に羽唯の素晴らしさについて語り続けている。
「こいつ回し蹴りかましてきたぞ」
2回目の蹴りは明らかにその動作だった。宮野に指を刺されると、羽唯はひゅい、と顔を逸らす。
「羽唯ってそんなこともできるの!?やば、かっこいいんだけど!」
陽葵は宮野の期待通りにはいかず、羽唯が蹴りをする想像をし始めた。だめだこいつ、と諦めかけたところで、陽葵が我に帰った。
「羽唯、回し蹴りとかできるの本当かっこいいし私も見たいけど、暴力はだめだからね?」
陽葵の圧は、母親の説教のようだった。それには羽唯も黙って頷くしかなかった。




