体育祭
いよいよ体育祭本番。羽唯はいつもより朝早く起き、胸元まで伸びる綺麗な銀髪をコテで巻いて、サイドポニーテールにした。汗でメイクが崩れないようにキープミストを入念にかけて、仕上げにベビーピンクのリップを塗る。羽唯の真っ白な肌には、控えめなピンク色がよく似合っている。再び鏡で髪やメイクを確認し、昨日のうちに用意しておいた荷物を持って家を出た。
「おはよ」
朝、一番に顔を合わせたのは、羽唯の嫌いな宮野だった。学校の最寄駅の改札を通ると、目の前にいたのが宮野だった。目があったので、無視するわけにもいかず、声をかける。宮野からも、短くおはよ、とだけ返ってきた。
宮野はどこかボーっとしているようで、学校への道を進もうとしない。そんな様子を変に思った羽唯は宮野の前で手を振ってみたり、ぴょんぴょん跳ねてみたりする。すると、我に返ったのか、宮野は羽唯に一言も言わず前を向いて歩き出した。
「ちょ、なんなの!ねえなんか言いなさいよ!」
先に歩いて行った宮野を急いで追いかける。本当、なんなんだあいつは。
羽唯が宮野に追いつくと、宮野の腕を捕まえて、逃さない。
「どうしたの?あたしがかわいすぎて見惚れちゃった?」
羽唯より15cm以上高いところにある宮野の顔を覗きこむ。そうすると自然と上目遣いになるわけで。
「黙れ自意識過剰。いつもと違いすぎるから誰かわかんなかったんだよ」
「はあ?誰に自意識過剰とか言ってんの?」
そうだこいつ自分がかわいいことをちゃんと理解しているタイプの人間だった、と宮野は額に手を当てる。
「うるさい。暑い。離れろ」
朝から意味不明な宮野に振り回され、羽唯はプンプンと怒りを露わにしている。
羽唯は最近調子がいいのか、ポジティブな日が多い。ネガティブな日は、宮野や宮島と関わることさえ避けようとするのでその2人に被害はないのだが、ポジティブな日は、こうやって自分から2人に絡んで行くので、2人は逆に被害を被っているのかもしれない。
「せっかく学年一の美少女、天使のような間宮羽唯にくっついてもらえてるのになんだその反応は」
普通の男子高校生なら速攻羽唯に落とされるだろうに、宮野だけはびくともしない。それを言うなら宮島も例外だが、宮島が困ることをわかっているから羽唯は宮島にそんなイタズラはしない。
「じゃあお前、学年一の美男子、孤高の王子様とやらとくっついていてなんでそんな図々しいんだ」
宮野が自分で口にすると余計に面白さが増してくるそのあだ名は、本当にどこからきたのやら。
それにしても、自分の男番のような立ち位置にいる宮野にそんなふうに言われると、自分もそんな風なことを言っていたのだと自覚する他ない。
「やめてよ、あたしそんなキモいこと言ってるんだ、ってテンション下がるから」
「お前は大体いつもキモいよ」
すかさず羽唯は宮野の足を踏んだ。いって、という悲鳴が聞こえるがそんなものは無視だ無視。
宮野との攻防を続けながら教室に入ると、陽葵が席によってくる。
「羽唯おはよ!髪可愛すぎるんだけど!いっぱい写真撮ろうね!」
早速髪型を褒めてくれた。朝宮野は一言も触れてくれなかったのに。羽唯は陽葵のそんなところが大好きだ。
「陽葵もかわいい、一緒に写真撮ろうね」
かく言う陽葵も、いつも高い位置で括っていた髪を、今日はお団子にしている。元気で明るい陽葵にはよく似合っていて、とってもかわいい。羽唯が笑顔を向けると、陽葵は嬉さのあまり声が出なかった。うんうん、と首を縦に振る陽葵を見て、羽唯も嬉しくなった。
体育祭の朝は早い。ショートは余談なく、これからの流れを端的に説明され、グラウンドに向かった。
クラステントに荷物を置くと、生徒会からの放送が入る。
『1年、2年、3年の順に並んでくださーい!左から1組、2組の順番です!』
放送を聞くなり、宮野や陽葵と顔を合わせて、3人でグラウンドの中央、みんなが集まる場所に向かった。
整列が完了すると、開会式が始まり、校長のながったらしい挨拶や、生徒指導主任の注意に、団長たちの選手宣誓など、立ちっぱなしで足が痛かった。
一つ目の競技までまだ時間があったので、解散の合図を聞くなり、宮野と陽葵とともに、3組にいるはずの宮島を探す。体育祭はクラスTシャツなので、比較的探しやすいのがありがたいところ。
「あっ、あれじゃない?」
誰よりも先に羽唯が宮島の姿を捉えた。クラスの男の子と2人で仲良く話しているようだ。
「本当だ!」
陽葵が羽唯の示した方向にいる宮島を確認すると、次の瞬間、顔を顰めた。一瞬、言葉に詰まったような陽葵に声をかけていいのか分からず、次の行動をとれないでいると、宮島の方から羽唯たちを見つけ、声をかけてくれた。
「間宮さん!宮野くん!高本さんも」
宮島は笑顔で手を振って羽唯たちのいるところに向かってくる。それにはクラスメイトの男子を連れて。
「おはよ、宮島!今日のあたしちょー可愛くない?」
宮野は何も言ってくれなかったので、腹いせで宮野の目の前で宮島に聞いてやった。宮島ならかわいいって言ってくれるはず。
「うん、かわいいね。一瞬誰だかわかんなかったよ」
最後の言葉は宮野にも言われたが、宮島のなら純粋に褒めてくれているだけだと思って静かに飲み込む。宮野と違って即答してくれる宮島の好感度は下がることを知らない。宮島は言ってくれたよ?という目線を宮野に向けるが、宮野は羽唯の方を見ていなかった。彼の視線を辿ると、宮島のクラスメイトがいた。
金髪で、ピアスの穴も空いていて、宮野とは正反対な感じのイケメン。第一印象は、素直に言うならチャラ男だ。そのチャラ男はなぜか羽唯の方をじっと見ている。
「ああごめんね。これは上森慎吾。僕の中学からの知り合いで、今は同じクラスなんだ。2人とも多分苦手なタイプだろうけど、仲良くしてあげて?」




