上森慎吾
「ああごめんね。これは上森慎吾。僕の中学からの知り合いで、今は同じクラスなんだ。2人とも多分苦手なタイプだろうけど、仲良くしてあげて?」
これ、だとか、羽唯たちの苦手なタイプだとか、彼に対する宮島の言葉はどこか適当だった。宮島が他人に対してそんな対応をするのに見慣れていない羽唯や宮野、陽葵は驚いた。
「2年3組上森慎吾です!瑛斗とは中学でクラスずっと同じでさ〜もうこいつ俺の扱い酷いでしょ?」
羽唯に向かって喋っているのか、上森は羽唯のことしか見ていない。宮島の言った通り、羽唯の苦手なタイプかもしれない。羽唯が何も喋らないで上森のことを見つめていると、上森は一瞬黙ったが、また話を切り出した。
「噂の間宮羽唯ちゃんだよね?ちょーかわいいんだけど!こんな地味男と友達とかまじ信じらんねえ!」
宮島と仲がいいからこその物言いなことはわかりきっているが、羽唯は大好きな友達がそう言われるのが許せなかった。
「髪派手なだけで対してかっこよくもないのに宮島のこと地味とか言うのやめてもらえます?」
一瞬、その場の空気が凍ったかと思った。まだ6月。されど6月。気温は20度を裕に超えるし、テントにも入っていない日向は暑くないわけがない。冷気を発しているのは間宮羽唯本人だ。
「ま、間宮さん!冗談だから!僕気にしてないから!」
宮島が羽唯と上森の間に入る。宮島がどれだけ気にしていないと口にしても羽唯の冷気は止まない。
「間宮。」
肩にそっと触れる手が、羽唯から発せられる冷気を吸い取った。
「クラステント行くぞ。もう時間だ」
宮野は上森を一瞥し、羽唯の手を取ってクラステントの方に歩き出した。それを見て、陽葵も2人について歩き出す、かと思ったら2人の方に近づいた。
「……慎吾、軽い気持ちで羽唯のこと狙ったら許さないからね」
真剣な眼差しで、言う陽葵に、上森は狼狽えていた。陽葵はそんな上森の様子を気にも留めず、先に行った2人の後を追いかける。
「慎吾、高本さんに嫌われてるの?」
「え、てかさ間宮羽唯ガチかわいいじゃん!なんで今まで紹介してくれなかったんだよ」
慎吾は瑛斗の問いを思いっきり無視する。言いたくないことは言わないタイプなのは知っていたし、今更質問に答えなかっただけでキレるほどではないが、今のにはちょっとムカっとした。
「言ったでしょ、間宮さんは慎吾みたいなタイプ一番嫌いだから。」
だから偶然でも会わせたくなかった、と後悔するが、もう遅い。実際会ってしまって、ああなってしまった。しかし、慎吾は可愛い女の子に目がないので、間宮が慎吾に嫌われるはずがない。間宮は慎吾のことを一方的に嫌っているだろうが。
「いいや、俺は羽唯ちゃんになら冷たい目で見られてもいいね。むしろ見られたい」
「キモいよ」
仲良くなったわけでもないのに、羽唯ちゃん呼びするこの男を心底気持ち悪いと思った。3年以上一緒にいるのだから、もう慣れてはいるが、仲のいい女の子が実際にそう呼ばれているのを聞くと、鳥肌が立つ。
「つかなんなんだよアイツ」
「高本さんのこと?」
「いやまあ、それもそうだけど……陽葵が友達のこと大切にするのは昔っからだし。そんなことよりアイツ、横にいたの宮野伊吹だろ?」
ああ、と瑛斗は記憶の中で間宮の横に立っていた宮野のことを思い出した。瑛斗自身、間宮に視線を奪われていたので、宮野のことをあまり見れてはいなかったが、宮野が慎吾のことを警戒するような目で見ていた記憶はある。女子以外に興味がない慎吾でも、あの宮野伊吹ともなれば、名前がスッと出てくる。宮野の知名度に驚くのと同時に、本人の本意でないのに、有名になってしまっていることを気の毒に思う。
「そうだよ。慎吾も流石に知ってるでしょ?」
「いや、存在は知ってたけど、あんなに近くで見たの今日が初めて」
「で、感想は?」
「俺、殺される?なんか視線に殺意あったよね?目合わせたくなてずっと羽唯ちゃんのこと見てたわ。いやそれは羽唯ちゃんが可愛くて見てたんだけど……」
慎吾は宮野から殺意を感じたらしい。宮野がそんな目を向けるなんてありえないと瑛斗は否定する。
「いや、でもほんとに!宮野って羽唯ちゃんと付き合ってたりすんの?」
水でも飲んでいたら吹き出すところだった。高本にも出会った日に聞かれたが、慎吾にも聞かれるとは。
「ないよ。てか間宮さんは宮野くんのこと嫌いだし」
瑛斗はもちろん本当にそうだとは思っていない。だとしても、本人がそう口にするのだから、そうなのだろう。
「はぁ!?あれで?おいおい、瑛斗。お前は一体俺の3年間何を見てきたんだ?」
慎吾に言われて、中学での慎吾の恋愛遍歴を頭の中で軽く振り返る。
「可愛い女の子見つけては告白して、振られて、たまたま運よく付き合えたと思ったらすぐに別れて……の繰り返し。」
「それはそうだけど!」
違う!と全力否定されたが、瑛斗が慎吾のそばで3年間見てきたことといえばこれしかない。
「普通女子は嫌いな奴に体触られたくないんだよ。羽唯ちゃんは宮野の手を払いのけなかった。それが証拠だろ?」
名推理でもしたかのようだが、そもそも瑛斗は間宮の言う、嫌いな宮野を信じてはいない。
「まあ間宮さんツンデレだから。」
「は?何それ属性てんこ盛り?かわいすぎるだろ」
隣で1人興奮している男は知らない人だと言いたい。




