高本陽葵
「え!間宮さんと宮野くん!……………と、誰?」
公園にいた同じ学校の女の子は、羽唯たちの姿を見て、声を掛けてきた。宮野と羽唯は学年の中では有名な方なので、知られているのかもしれない。それかもしくは……
「同じクラス?」
相手の女の子には聞こえないように、そっと宮野に聞く。
「……かも」
羽唯も宮野もクラスメイトのことを全く覚えていないようで、確信はないが、2人とも既視感があるため、多分同じクラスなのだろう。ここで羽唯と宮野の他人への無関心さが悔やまれた。こういった形でピンチになるとは。正直に誰ですか、と聞いてもいいのだが、同じクラスであっちは認知していて、こっちは誰かもわからないなんて申し訳が立たない。それに、4月ならともかく、もうクラスが変わってから一ヶ月が経ち、5月を迎えている。クラスメイトがわからないなんてことそうそうないだろう。
「あ、えっと、そうだよね!喋ったことないもんね!」
羽唯と宮野がなかなか言葉を返さないから、知られていないと思ったのか、フォローしてくれたようだ。
「私高本陽葵!2年4組で、2人と同じクラスだよ!」
高本陽葵と名乗る女の子は予想通り、羽唯や宮野と同じクラスらしい。
「間宮、羽唯です。」
自己紹介をしてもらったので、羽唯も同じように返したのだが、先ほど高本さんの方から声を掛けられたので、その必要はなかったのかもしれない。そして、自己紹介が必要だったのは、羽唯でも宮野でもなく、宮島だ。
「あ、えと…1年の時、間宮さんと宮野くんと同じクラスだった宮島瑛斗です。よろしくね」
宮島が少し申し訳なさそうに挨拶をする。しかし、羽唯にはその理由はわからない。
「宮島くん!そうだったんだね、よろしく!」
高本さんは天真爛漫という言葉が似合う人で、小さくなっている宮島にも、羽唯たちに対するのと同じように明るく振る舞う。
「あ、多分ここのベンチ使おうと思ったんだよね?私も一緒していい?」
高本さんは羽唯たちが持つクレープ屋さんの紙袋を見てそう言った。
「じゃあ一緒に使わせてもらおうかな」
それに答えたのは、羽唯でも宮野でもなく宮島だった。宮野はそもそも羽唯以外の女子と関わるのを避けているし、羽唯もそれを知っている。だから羽唯は何も言わなかったのだが、宮島が代わりに答えてしまった。宮島も宮野が女子を避けていることを知っているだろうに、どうしてその対応をとったのか、羽唯にはわからなかった。しかし、こちらが了承してしまったので、今更やっぱりやめとく、なんて言えるはずもなく、大人しくベンチに座った。
奥から、宮野、羽唯、高本、宮島の順で座っている。4人で座るには少々狭く、男子で女子を挟む形にしたのは正解だったのかもしれない。羽唯と高本の間はほとんど空いていない。
「高本さんもクレープ買ったんだね」
宮島が高本に話しかける。意外にこの3人の中でコミュ力があるのは宮島だ。宮野はそもそも喋らないけれど、羽唯も初対面と話すのは得意としていない。
「うん!あそこ美味しいんだよね〜毎回テストの最終日にご褒美で食べてるの!」
高本はキラキラとした笑顔を宮島に向ける。彼女がとても可愛く感じるのはその愛嬌の良さゆえだろうか。
「それはいいね。実は僕たち初めてなんだ。何かオススメの味とかある?」
「え〜難しいなぁ。あ、でも!この前食べた抹茶ソースのバナナ、結構美味しかったよ」
「へ〜高本さんは抹茶が好きなの?」
「うん!宮島くんは嫌い?」
「ううん。特に好きってわけでもないけど、美味しいとは思うよ」
「そっか!じゃあ今度食べてみて!」
高本と宮島はすっかり仲良くなったようで、2人で話し込んでしまっている。一方で、羽唯と宮野は黙々とクレープを食べていた。
「なんか、ずっとチョコバナナだと飽きる……」
想像より量が多かったこともあり、口がずっと同じ味だ。羽唯は宮野の持っているクレープを見た。
「一口ちょうだい?」
彼のクレープはみかん味。チョコバナナの口直しとしては最高だろう。
「いいけど」
宮野も特段嫌がるわけではなく、すっと羽唯の前にクレープを差し出した。羽唯がそれにかぶりつく。
「ん!やっぱみかんいいね〜」
すっきりしたみかんの味わいは、チョコバナナのくどさを緩和する仕事をしっかり果たしてくれた。羽唯はまたチョコバナナのクレープを食べ始める。
「潔くいちごにしとけばよかったものを」
宮野は羽唯がなぜ宮野のクレープを欲しがったのか察したようで、羽唯が注文する時に迷っていたいちごを選べばよかったのに、と思ったらしい。
「チョコバナナも美味しいから。ずっと同じ味でくどかっただけ」
言われてもないのに、チョコバナナを悪く言われたように感じた羽唯は、自分がみかん味のクレープを強請った理由を口にする。
「じゃあ俺にもちょうだい」
自分のみかんをやったのだから、羽唯のチョコバナナをもらうという意味か、羽唯がチョコバナナに飽きているから少しでも減らしてあげようと思ったのか、そんなことを口にした。
「ん。」
羽唯も、特に嫌がることもなく、むしろ食い気味にクレープを差し出した。
「お前やっぱ飽きてんじゃん」
どうやら宮野の予想は的中したらしく、羽唯も行動に笑いながらも、片手で差し出されたチョコバナナのクレープを見た。そして、空いている手を羽唯がクレープを持っている手に重ねて、しっかりと持ち、甘ったるい生クリームと、チョコで着飾ったバナナを味わった。
「あっま、よく食えるな」
しっかり飲み込んだ後、顔を顰めてそう言うので、宮野は甘いものが苦手なのかもしれない。
「宮野って甘いの無理だっけ?」
「いや、別に食えるけど、これをずっとはキツい」
カバンから水筒を取り出し、水を飲んでいる様子から、今回のは相当だったのだろう。羽唯は甘いものが大好きだが、そんな彼女でさえも、甘すぎてキツくなっているのだから、宮野が食べられないのも無理はない。
2人がそんなやりとりをしている間、高本はその仲の良さに驚いていた。2人を見て喋らない高本に、宮島が話しかける。
「間宮さんと宮野くんって付き合ってる?って思った?」




