エンカウント
数学のテストは最終日だったため、テスト週間は午後から3人で集まって勉強会をしていた。宮島もわからないところは積極的に宮野に聞くし、宮野も快く答えてくれる。3人の勉強会は実に充実したものだった。
今日最終日を迎え、全てのテストが終了した。2限終了のチャイムがなると、みんなの喜びの声が教室中に響く。
羽唯は疲れ切って机に突っ伏していた。
「多少は解けたか?」
後ろの席の宮野から声が掛かる。あれだけ教えた羽唯に対して、多少は、だなんて言うものだから、羽唯の頭は相当低く見積もられているのかもしれない。
「……一応」
いつもなら顔をあげて、後ろを振り返って答えるのだが、今日はその気配がない。宮野もそんな羽唯を不思議に思って、席を立った。
ツンツン、と頭を突かれ、羽唯が顔を上げる。目の前には眉を寄せた宮野が映る。
「何?」
それには羽唯も驚いて、なんでそんなことをしたのか尋ねた。しかし、どうも羽唯は不機嫌だ。宮野は羽唯の様子を眺めて、何か考えているのだろうか、何も喋らない。それから少しして口を開いた。
「振るわなかったのか」
これは、数学のテストが上手くいかなかったのか、と聞かれているのだろう。
「…いっても6割」
普段の羽唯からすれば6割はいい方なのだが、宮野にあれだけ教えてもらって6割と言うのは、いい結果と言い切れないのも仕方がない。
「まー仕方ない。実際今回はむずかった。俺もあんなに問題数あると思ってなかった。」
宮野に教えてもらって、理屈や解き方はわかったが、時間制限のことなど全く考えていなかったため、今回はそれが如実に出たのだろう。
「理解してるならいい。練習すれば早く解けるし、今回のテストがたまたま問題数多かっただけで、全部がその結果になるわけじゃない。問題見て解き方がわかったら十分だ。」
きっと、これは宮野なりの慰めなのだろうが、羽唯が気にしている部分はそこではなかった。
せっかく羽唯のために宮野の時間の多くを割いてもらったのに、高得点が取れないのが悔しい。宮野に教わったのに、結果を残せないのが悔しい。羽唯が沈んでいるのはそういった意味での後悔からだった。きっとそれは宮野には伝わってないだろうし、羽唯も伝える必要はないと思っている。
「…駅前のクレープ屋さん行こ」
今度はちゃんと、宮野の方を見て言う。羽唯が誘うなんて珍しい。いつもは宮島が2人を巻き込む形で3人一緒にいるから。宮野もそれには一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい顔に戻った。
「宮島も連れてな。」
* * * *
学校の最寄り駅前は羽唯たちの最寄り駅とは打って変わって盛り上がっていて、お店も多く並んでいる。部活帰りに買い食いをしたり、放課後にお茶をしたりする生徒も多い。この3人はそれには当てはまらないが。
普段は絶対に来ないクレープ屋、羽唯はずっと行ってみたいと思っていたのだが、1人で行く勇気もなく諦めていた。しかし、宮島と宮野がいれば話は変わってくる。宮島だけで十分に。
どうやら、店舗内で食べれるようなテーブルなどはなく、買って外で食べるみたいだ。確か近くに公園があったか。
宮島を先頭にし、店舗に入る。中に入るとメニュー表がデカデカと貼ってあった。思っていた100倍の種類がある。中には生クリームをカスタードに変更できるものや、おかずクレープ、ハンバーガにフライドポテトもあった。ここはクレープ屋だが、どうやらそれだけではないらしい。
あまりにも種類があるのだから、迷うかと思ったが意外にも3人は即決だった。羽唯と宮野は安定の果物のクレープ。羽唯がチョコバナナで宮野がみかん。宮島はカスタードとチョコクッキーのクレープを注文した。
注文してから5分ほどで商品は受け渡され、3人は店の外に出た。
「どこで食べる?」
宮島がクレープの入った袋片手に羽唯たちを振り返る。
「近くにベンチのある公園あったよね?そこ行こうよ」
羽唯の提案を受け入れ、3人は公園へ向かった。
「あれ、同じ高校の?」
公園に着くと見慣れた制服が見える。膝上の灰色のスカートに、クリーム色のカーディガンを着ている。頭の上の方で纏められている青味がかった黒髪は、肩にちょうどつかないくらいで毛先を遊ばせている。
間違いなく羽唯たちと同じ高校の生徒だろう。それに、どこかでみたことがあるような……。
「え!間宮さんと宮野くん!…………と、誰?」




