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嫌いな宮野  作者: 陽夏
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飛び出しガール


 新しいクラスにも慣れてきて、日も伸びたことで少し余裕を感じるようになった。

 羽唯たちに迫るのは中間テスト。


 「今日から一週間前だからなー。ちゃんと勉強しとくんだぞ」

 毎回恒例の担任、西先生による一週間前コールを聞いて、ショートホームルームが終わった。みんなそれぞれ嫌だ嫌だ、と友達と話しあっている。側から見れば、羽唯もうちの1人だ。


 「はぁ…」

 大きなため息をついて机に突っ伏すのは、もう見慣れた光景。

 「お前……」

 後ろに座っている宮野伊吹からは冷ややかな視線が注がれている。テスト期間になる度に、死んだような目をして宮島に助けを求めていた羽唯のことを思い出しているのだろう。仕方ない、羽唯は勉強が得意でも好きなわけではない。その中でも特に数学が大の苦手で、毎回毎回、宮野と宮島に付き合ってもらってもらっていた。

 「もしかしてまだ提出物終わってないとか言うなよ?」

 宮野が眉を寄せ、目を細めながら羽唯に問う。まあまあ、落ち着きたまえ宮野くん。これまで不服にも羽唯を近くで見てきたはずだ。今更そんなことを聞いてって無意味だってこと、わかってるだろ?自明の理。聞かなくてもわかる。振り返って宮野の方を向き、羽唯はにっこり笑って、いや、頬を引き攣らせて言った。


 「終わってるわけなくない?」


 ーーゴンッ、とまぁ、鈍い音が響いたのは説明しなくてもわかるな。宮野に殴られた。痛い。弱い力なら簡単に暴力を振るうのがこの男、宮野伊吹だ。今まさに女子から熱い視線が送られているとは到底思えない。羽唯にとっては、成績優秀でかっこいい、みんなのアイドル(王子様?)宮野伊吹くんより、短気で毒舌、軽挙妄動といったところか、こうやってすぐに噛み付く野良のオオカミみたいな方が想像に難くない。


 「ねえねえ、宮野くん!」

 たくさんの視線が集まる中、1人の女の子が飛び出してきた。名前は……わからない。明るい茶色の髪を緩く巻いていて、白いカチューシャをつけている。一見育ちのいいお嬢様のようだ。

 宮野は表情を変えず、といったところか一言も答えずただその飛び出してきた子を見た。

 「宮野くんって、いっつも学年上位だよね!私たち図書室で勉強会するんだけどよかったら宮野くん教えてくれないかな?」

 飛び出してきた子、いちいちそう呼ぶのが面倒くさいから、飛び出し坊や、ではなく飛び出しガールとしよう。飛び出しガールはその小さな手を願うように組んで宮野の顔を覗き込んだ。

 羽唯は一年間宮野と学校生活を共にして(不服にも)、わかったことがいくつかある。

 一つ、宮野はそもそも女子が嫌いだ。集まって騒いだり、大人数で廊下を横並びに歩いていたりすると、すごく嫌そうな顔をしているところをよく見かける。

 二つ、宮野にはファンみたいな女の子がたくさんいる。話しかけてくるタイプは稀だが、去年のバレンタインは想像を絶するものだった。今まで見えてなかったものが急に見え出すとその数に驚くと言ったところか。宮野自身、あまり他人を信用しないタイプなので、知らない女子からのチョコレートなんて尚更、全部受け取り拒否していた。というか、話しかけられても無視していた。

 三つ、どうやら羽唯は、宮野と仲がいいように見られているらしい。羽唯が今まで何回、宮野の連絡先を聞かれたことか。残念ながら、宮野ファンの女子、宮野のためを思ってあげないとかそういうんじゃなくて、フツーに面倒くさい。だって面倒くさくないか、知らない人のために無駄なことで時間を使うの。どうせ羽唯が女子に宮野の連絡先を渡したところで、宮野は女の子からの連絡を無視するだろう。それどころか羽唯に問い詰めることも考えられる。またまた面倒ごとに繋がるのだ。最初からその面倒ごと因子を排除しておくのに越したことはない。

 

 とまあ、こんな具合で宮野に直接こう、ダイレクトに声をかける女の子は珍しい。飛び出しガールの言い方的に、数人のグループの中から選出されたんだろうけど。最初に褒めてから自分の要望を言うだなんて、コミュニケーションというか、交渉術が得意そうだ、この飛び出しガール。

 「……間宮」

 どう対処するか考えていたのだろうか、宮野がやっとその重い口を開く。

 しかし、待て待て宮野。どうしてそこで私の名前を出した。私が彼女たちに敵意を向けられたらどうするんだ。

 この教室で唯一彼と対等にというのも変だが、大した内容でなくとも、まともに言葉を交わせているのは羽唯だけだというのだから、敵意なんてものは今更なのかも知れないけど。

 羽唯は少し不安に思いながら宮野を見て、続く言葉を待つ。

 「今日数学教えて欲しいって言ってたよな?」

 おっと、面倒な予感。だがしかし、ここは宮野に貸しを作る絶好のチャンス!逃すわけにはいかない。

 「そうだよ、2人で喫茶店行こうって話してたじゃん」

 「てことだから」

 宮野が荷物を持ち、立ち上がって羽唯の手をとる。2人で並んで教室を出た。


 「っはー、だりぃ」

 教室から出た瞬間、宮野は掴んでいた羽唯の手を離す。羽唯も宮野との間のを人1人分、宮島がちょうど収まりそうなくらい開けて歩く。

 「わかんねーなら教師に聞きにいけよ」

 まだ人目があるというのに、教室から離れた瞬間愚痴をこぼすなんてらしくない。今回のは相当嫌だったんだろう。

 しかし、こちらにも言いたいことがある。勝手に捏造して、巻き込んでおいて、感謝の言葉すらないなんて。もちろん、嫌いな奴からの感謝の言葉なんていらないし、何か奢ってもらえたりするのなら当然そっちの方がいい。

 「あたし、あんたに数学教えて欲しいだなんて一言も言ってないんだけど?」

 掘り返して見返りを求める作戦を立てたが、羽唯の言葉に返答はなかった。まるで物をたかっているのを分かっているかのように、綺麗にスルーされた。思い通りにならない。それがこの男を嫌いな理由の一つでもある。

 「お前演技上手すぎな。喫茶店とか…」

 さっきまでずいぶんと嫌そうな顔をしていた宮野だが、今度はなぜか笑っている。

 どうやらこの男は、羽唯から咄嗟に発せられた喫茶店という言葉に笑っているらしい。どこに笑う要素があるのか、羽唯にはこれっぽちもわからない。それでも宮野は1人、笑い続けている。少し待ってみてもなかなかその笑いは収まらない。

 「はー、おっかし。普通カフェだろ、今頃の女子高生は。ほんとお前おもろいよな」

 なんて、珍しく笑顔でいうものだから、不覚にもちょっと心臓がびっくりした。普段は笑うことなんてないけど、宮野の笑顔は意外にも子供らしくて可愛い。可愛すぎて写真を撮ってマジックペンで落書きでもしてやりたい。なんてのはもっぱらの嘘だ。

 それよりも宮野が笑っている理由がわかって無性に腹が立った。何が悪いんだ、喫茶店の。

 最近の女子高生からは出ないと言われたのは、納得したし、確かにと自分でも少し面白く感じた。


 宮野の面倒ごとに利用されるのは嫌だが、案外面白かったりもする。たまには使われるのも悪くない。


 

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