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嫌いな宮野  作者: 陽夏
体育祭編
31/33

告白


「間宮さん、ちょっと話、いいかな?」


 テストの結果が張り出された日から一週間後。もう彼は羽唯のことなんて忘れていると思っていた。


「え、と……うん」


 教室から出て、廊下の突き当たりのあんまり人が通らない階段まで連れて行かれた。

 放課後はいつも通り宮野と宮島と帰ろうと思っていた羽唯だったが、今日は難しそうだ。


「ちょっと待って、宮野たちに連絡するから……」



「えっ、」


 遅れることを伝えるために連絡しようとスマホを取り出したところ、吉田に腕を掴まれた。


「何?」


「あ……ごめん、えっと……その、間宮さんってさ、宮野と……付き合ってるの?」


「はっ!?」


 突拍子もないことを言われて羽唯は変な声を発してしまった。


「いや、なんか……二人仲良いじゃん?この前の、テストだって……」


「それは……。けど、付き合ってない!私は宮野のこと嫌い、だし……。宮野はきっと、私のこと嫌いだし」


「……そっか」


 なぜだか羽唯の胸がキリキリと痛む音がした。


 あの日、二人で海に行った日、宮野は羽唯のことを嫌いじゃないと言った。けれどそれはきっと、羽唯を慰めるための言葉で、宮野の本当の思いじゃないと羽唯は思いたい、から……。

 羽唯だって、本当に心から宮野が嫌いなわけじゃない。


「あの、俺……間宮さんのことが好きなんだけど……」


(まあ、分かってはいた。そういう雰囲気だったし。テストの件もそうだと思っていたし。)

 


 改めて言葉にされても、特別驚いたり、焦ったりはなかった。


 むしろ冷静すぎて、自分がいかに淡白な人間か思い知らされた。



「だからその……俺と付き合ってくれませんか?」





「ごめん」



 吉田が羽唯の腕を掴んでいた手を離してくれたから、羽唯はさっさと昇降口に向かった。



 (何、私が悪いの。なんであんな顔するの。好きじゃないから断ったのの何が悪いの。勝手に好きになったのはそっちじゃん)


 (勝手に取り付けられた約束のせいで宮野には苦労かけたし)


 (なんであたしこんなこと考えてんの。あんなやつどうでもいいんだって。宮野たちが待ってるかもしれないんだから)


 ずんずんと気を晴らすように力強く床を踏んで歩く。

 教室のドアを開けると、静まり返った部屋に一人、窓の外を眺める人がいた。


「宮野……」



「終わった? 用事」

「うん、宮島は?」

「今日は保育園の迎え」

「そっか。じゃあ仕方ないね」



 教室に残っていたのは二人が最後だったため、教室の施錠をして職員室に鍵を持っていく。

 その間、二人のあいだに会話はなかった。


 

 学校を出て、駅までの道のりを歩く途中、珍しく羽唯には気まずさがあった。きっと宮野は感じていないだろう。


「さっきさ……吉田に告白された。好きだから、付き合って、って」


 宮野からの返事はない。羽唯も彼の顔を見る気になれず、ただ地面を見続ける。


「だから、もう終わったから……迷惑かけてごめん」


「……今度はちゃんと振ってきた?」


「うん、もう面倒くさいから……」


「お疲れ」


 横から伸びてきた手が、優しく羽唯の頭に触れる。


「…………うん」


 情緒が不安定な時に酷いことを言われても、羽唯はなんとも思わない。代わりに、優しくされると泣いてしまう。


 昔から羽唯はそういう性質だった。宮野の優しさに特段弱いとかそういうわけじゃない。決してない。



「…………」


 宮野は、隣で嫌いな女が泣いても嫌な顔をしなかった。

 羽唯は、嫌いな男の前で泣いても走って逃げたりしなかった。


 二人にとって、そうすることは不自然だった。


 もう何度この嫌いな人の前で泣いたか、この嫌いな人の涙を見たか。



「何もしてないのに勝手に好きになられるの、怖い。拒否するあたしが加害者みたいに見られるのも意味わかんない」


「言ってたな、あの時も」


「急に知らない人に好きって言われるの怖い」


「…………」


「去年で慣れたと思ってたのに、最近なかったから久しぶりに罪悪感、感じちゃった」


 去年はそれこそ、まだ宮野たちとの交流がそこまで多くなかったこともあって、あんな感じの告白が多かった。宮野たちと絡むようになってからは、随分減っていた。そのため、つけた耐性も薄れてきていた。


 羽唯は天使ではなくちゃんとした人間だから、目の前で泣かれたり、悲しそうな顔をされると、当然申し訳なく思いもする。



「あんな自分のことしか考えてなさそうなやつのこと、考えなくていいよ」



 宮野のように、自分が興味のない人にもっと冷たく接すればいいのだが、羽唯はまだそこまで振り切れていない。

 もちろん興味がないので、世間一般からは冷たいと言われる対応をしているのかもしれないが、それでも無視をしたりするわけではない。


 宮野の言った言葉は特大ブーメランで、宮野は実際自分、というか自分の周りのことしか考えていない。

 羽唯、宮島、高本ついでに西先生以外の声は基本無視するし聞き入れない。

 宮野が自ら声をかけるのなんて、羽唯と宮島だけだ。




「……最近、宮野に気を許しすぎてる気がする」


「え? 間宮は去年からずっとすぐ怒るし叩くし泣くけど?」


「そんなことないし! 別にあたし、宮野以外に怒んないし! 宮野に怒るのは宮野が悪いからだし」


「そうか?」


「そうだよ!!」



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