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嫌いな宮野  作者: 陽夏
体育祭編
27/28


 流れで早退して、流れで海まで来てしまった。でも、あんな言い合いをした後に、二人で出かけるのも気まずいものだが、ああ言ってしまった以上仕方ない。電車の中でも一言も話さなくて、海に来るまでも、必要最低限の会話しかしなかった。


 「夏だな」

 先に口を開いたのは宮野の方だった。

 「うん。高校生ってさ、夏休みに海来てバーベキューとかするのかな?」

 「したいの?」

 「うーん、まあちょっと。でも現実はそううまくいかないでしょ。」

 「なんで」

 「バーベキューセットとかどうやって用意するの」



 それ以上会話を続けるわけでもなく、じっと海を見つめる。

 「前、宮野に聞いたっけ。あたしがいなくなったらどう思う?って」

 「ああ。普通に、嫌だと思うよ」

 宮野の答えに、羽唯はにっこり笑う。

 「じゃああたしが今、海に飛び込んで死にたいって言ったら、宮野はあたしを止める?」

 「…………」

 「あたしたまにね、ほんとに天使になってやろうかって思うよ。こんな醜くて汚い自分でも、感情を失ったら、脳が機能を停止したら、体だけが残ったら、天使になれるんじゃないかって。」

 「なれない。間宮は人間だ。誰より泥臭くて、疑い深くて、人を信用しない。俺と同じ、人間だよ。」


 「心に触れられるのを嫌がって、遠く離れる。他人に自分を知られて嫌われるのが嫌で、本当の自分を見せようとしない。宮島にも、高本にも、俺にも。お前、多少猫被ってるだろ。俺も、本当のお前をよく知らない。言葉遣いが汚くて、態度が悪くて、虚勢を張ってれば、誰も自分のことを深く知ろうだなんて思わない、とか考えてた?」


 崩れていく。自分だと思っていた何かが。


 「俺は、お前にどれだけ嫌われたって、距離取られたって、多分、友達のままでいる。宮島が俺らと絡まなくなっても、多分俺はお前と友達でいる。ずっと、本当のお前は何を思ってるんだろうって考えながらも。多分、間宮から離れようとは思わない。いつか、お前の本性を知って、本当のお前は俺のことどう思ってるか聞いて、猫かぶってるお前と大して変わんないじゃんって後悔する。」

 「別に猫かぶってないし。あたしはあたし。間宮羽唯。隠してる本性なんてないし、いつも宮野たちに見せてる自分しかいない。」

 「どうかな。それは俺が決める」

 「意味わかんない」

 「わかんなくていい」

 「キモい」

 「お前俺のこと嫌いだもんな」

 「…………」


 ザア……と波が行き来する音と、強い風。日も暮れてきて、六月にしては少し肌寒い。 


 「俺はお前のこと嫌いじゃないよ」

 「えっ」

 「もう帰るか。親御さん心配すんだろ」

 「待って」

 「急がねーと電車間に合わん。俺が怒られる」

 宮野に腕を引っ張られながらズンズン来た道を戻る。「嫌いじゃない」って何。聞きたい。なんで。


 全部が宮野のペースで進んでいって、言われるだけ言われた感。

 あたしも本当は……


 「嫌いじゃない」って言えたらよかったな……。



 帰りの電車も、無言だった。

 スマホを見ると、宮島や陽葵からいくつかメッセージが来ていた。学校から出てそのままだったから、通知を切っていて、気づかなかった。その中には、クラスの打ち上げに来ないか、という話もあって。途中で抜け出したんだし、行くわけがないけど。二人には悪いことをした。


 隣で目を閉じている宮野に視線をやり、羽唯もそっと目を閉じた。


 多分今日のことは忘れない。嫌な思い出も、いい思い出も、今日でたくさんできた。結局最後は全部、宮野に持って行かれて。数日後、数週間後、数年後、この日のことを考えたら、きっと宮野の顔が一番に思い浮かぶんだろうな。



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