ひまわりに憧れて
「そんなこと言ってるけどさ、慎吾の本命って高本さんだよね?」
「は、」
瑛斗の発言が図星だったのか、慎吾の口からまともな声は発せられない。
「だって、慎吾中学の時言ってたじゃん。初恋は幼馴染、って」
「はっ!?お前それ覚えてんのかよ!」
親友の初恋だ。覚えていないわけがないだろう。大学生になって酒飲みながら慎吾から初恋の甘酸っぱい話をいっぱい引きづり出すのが瑛斗の夢の一つだ。
「あの感じだとまだ好きなんじゃないの?それかもう振られた?」
「振られてねーから!」
高本の方は、慎吾のことをあまりよく思っていないのか、朝会った時も、慎吾と目を合わせようとはしなかった。
唯一発生した会話と言っていいかわからないものも、一方的な忠告だったし、言い方も内容も、いいと思っている男への対応ではないことは簡単に見て取れる。
「羽唯ちゃんにも言われたわ。元カレ?って」
はは、間宮さん言いそー、と笑う瑛斗に、慎吾は少し怒っている。
「あのなぁ、変な推測はやめてくれ。そもそも俺は陽葵のことはもう幼馴染としか思ってねえし、アイツが今あんな感じなのは、高校受かった時からずっと、陽葵に何も言わなくて、1年間ほとんどまともな会話してないから」
それもそれでどうかと思ったが、野暮なことは言わないでおこう。
「つまりアレ?ずっと喋ってなかったから気まずい、的な?」
「多分。あっちもあっちで気ぃつかってんじゃない?中学別だったし」
慎吾は、瑛斗とは小学校区が違う。
彼はもともともっと田舎の方の出身だが、地域で決められている進学先の学校には彼がしていたバスケ部がなかったため、瑛斗の住んでいる地区の学校に来たらしい。実際、そこそこバスケが強い部活だった記憶がある。
そのため、陽葵とは朝の登校時間も夕方の下校時間も合わなくなり、次第に話さなくなっていったと言う。
「で?もう好きじゃないの?中学の頃はまだ好きっぽかったじゃん」
「しつこいな、もう何も思ってねーって」
嘘だ。慎吾がそんな簡単に諦めるはずがない。
瑛斗は知っている。バスケをしたい一心で、全く知らない子達が通う学校に進学するほどで。小学生、いいや、それ以前から好きだった子を、中学の数年前までずっと好きでいられるほど。慎吾は一度好きだと思ったものに妥協しない。紆余曲折あっても、簡単にやめたりすることはどの分野をとっても今まで一度もなかった。
そんな慎吾が、高校に入った途端、10年以上ずっと思っていた高本のことを諦めるはずがない。
「中学の噂、聞かれたの?」
と言うのも、慎吾に関して、ひどい噂が流れていたのを瑛斗は耳にしていた。
実際、慎吾はその時点で交際中の女子がいなければ、誰からの告白も基本的に受け入れていた。そのせいで、女遊び、だとかチャラい、だとか色々言われていた。瑛斗もそれに関しては同意だし、わざわざ訂正する気にもならなかったが、今の慎吾は違う。
驚くことに、彼は中学卒業と同時に、その時付き合ってた彼女含め、周りの女子との関係を全て切った。
そして、高校2年生になっている今、彼に現在交際中の相手はいない。
それでも、噂というのは人がいるところに回るもので、それは生活の場所が変わっても例外はない。
そう言った面で中学の頃の噂や事情を断ち切ったのは、むしろ宮野や間宮の方だ。
彼らの家は、瑛斗たちが通っている高校からだいぶと距離がある。それに県内2位の学校。彼らと同じ中学出身の賢い人たちなら進学しているかもしれないが、それでも数はだいぶ絞れるだろう。よって、彼らの中学での情報を知るものは限られている。
しかし、慎吾はそうはいかなかった。瑛斗と同じで、中学から一番近くてそこそこ良さそうな県立高校を選んだだけだ。瑛斗たちの近く、つまり、同じ中学校区の生徒が多く通う学校である。慎吾の中学時代を知っている者も多い。
そしてそれが彼女の耳に入っていたなら。恐ろしい話だとは思うが、忘れてはいけない。元凶は上森慎吾、彼自身だ。
「まーそうなんだろうな」
慎吾は上を向いて、少し寂しそうだ。
「間宮さんに乗り換えるの?」
「バカか。あれは俺には無理だよ」
「知ってた」
ベチッ、と頭を叩かれる。よくある会話の一つだ。肉体言語というものだろうか。この二人の間でもよくあるし、宮野と間宮もよくこうやって会話している。
「僕らいつも4人でお昼食べてたりするんだけど、慎吾もくる?」
「誰が行くか」
慎吾は息をするように毒を吐くが、それは瑛斗にだけだ。これでも、一応信頼されているらしい。




