俊足の天使
午前の部が無事終了して、自由にお昼ご飯を食べられる時間になった。
羽唯は当然、宮島を誘って4人で食べるつもりだったのだが、宮島から上森と2人で食べる、と連絡が来ていたため、それは叶わなかった。
陽葵と、そして仕方なく宮野と3人で昼食を取ることになった。
「午後って選抜とダンパフォ?」
午後は片付けがメインなので、競技が少なかったはず。陽葵に聞いてみると、頷きで返された。おにぎりを大きく頬張っていたので、それがまだ口の中に残っているのだろう。
んぐ、と音を立てて、口の中をスッキリさせた陽葵は、並んでいる2人に目をやった。
「2人とも選抜だもんね〜」
そう、なぜか足の速い宮野とそれに巻き込まれた羽唯は、格団のパフォーマンスが終わり次第、団対抗の選抜リレーに出場しなくてはならない。
そして、選抜リレーは体育祭の中で一番盛り上がる締めくくりの競技だ。出場する側も毎年かなりのプレッシャーを抱いている。
「宮野くんって、50m何秒だったの?」
「6.3」
陽葵の問いに、宮野はそっけなく答える。羽唯もそれは何気に初めて聞いた。クラス一位も納得のタイムだ。
「羽唯は?」
くるだろうとは思っていたが、宮野の後に聞かれると答えづらい。一位と言われた宮野と、そこそこ速かったと言われた羽唯では大きな差があると羽唯は思っている。
「7秒6……」
それでも女子の中では十分速い方だ。クラス一位でもおかしくはない。
「はやっ!?あたし運動部なはずなんだけどな〜」
陽葵はテニス部で、よく校舎の周りを走っているらしい。羽唯も宮野も帰宅部で、その才能を使わないのは勿体無いとは思っているが、2人とも部活をする気はさらさらない。
「宮野なんて運動部からしょっちゅう勧誘受けんじゃない?」
「別に。そもそも話しかけてこねえよ」
実際、機を伺っている人はたくさんいそうだが、宮野を部活に勧誘できる人は一握りもないだろう。
「入ったら?サッカー部」
「入んねえよ」
宮野は中学時代、サッカー部だった。羽唯は一年の時にそれを聞かされていたので、足が速いことも、スポーツができることも、気に食わないが納得はしている。
「お前は?入んねーの?」
「入るわけないじゃん。バカなの?」
実のところ、羽唯も中学ではサッカー部に所属していた。それもマネージャーではなく、選手として。
「えっ、もしかして2人とも元サッカー部?」
そして、それを知らないのはここにいる中では陽葵だけである。逆に知っている方が珍しい。羽唯や宮野と同じ中学出身の人しか知らないだろう。
「うん」
羽唯が肯定するタイミングで、宮野も同時に頷いた。陽葵にとっては衝撃の事実だったのだろう。口を開けてあんぐりと開けている。
「やばい……羽唯がサッカーしてるとことか絶対かっこいいじゃん……」
目を輝かせて妄想を始める陽葵は、見なかったことにしておこう。
* * * *
なぜか上森慎吾に間宮や宮野と食事を取ることを許されなかった宮島瑛斗は、現在、その男の恋バナを聞かせれている。
「もうほんっっっとさぁ!!!羽唯ちゃんってなんであんなに可愛いの!?超可愛い!ガチ天使!あんなの好きになっちゃうじゃん宮島あぁぁぁ!」
慎吾にゆさゆさと体を揺らされる。もう諦めて好き勝手させておくことにした瑛斗は、お弁当のおかずに夢中になっている。
「ポジティブ間宮さんの可愛さに当てられたか……かわいそうに」
全く思っていない……こともない、それは、瑛斗も何度か経験している。
ポジティブな時の間宮は超絶可愛い。
自分のことを可愛いと思っているからか、内から溢れ出る可愛いオーラが半端ない。あと、行動が大胆だったり、表情が豊かだったりで、いつもの無表情で冷たい間宮羽唯しか知らない人にとっては、その肌や髪も相まって、彼女が天使にすら見える。慎吾にはまさにその症状が見られる。
「なんであんな可愛い子の真隣にいて平気そうな顔してるのあの男は。なんか無性に腹立ってきたわ」
本題はそれか?瑛斗について行くと宮野と顔を合わせなければいけないから嫌がったのか?
宮野伊吹は人気がある。同じクラスになったら必ずと言っていいほど話題にされることだろう。
しかし、一定数、彼と同じクラスになるのを嫌がる層がいる。
それは、慎吾のような自称モテ男たちだ。微妙にモテてたりする自己肯定感の高い奴ほど、宮野を見るとその自信を喪失するというか、クラス内で一番になることが叶わないため、嫌がるのだそう。女子が全員宮野に行って、モテなくなるらしい。
宮野との付き合いも長くなってきた瑛斗からすると、絶対付き合えない宮野より、告ったら大体オッケーなそこそこ顔が良くて清潔感のある慎吾くらいが一番モテそうなのだが。現実はそうでもないらしい。
「そんなこと言ってるけどさ、慎吾の本命って高本さんだよね?」




