第7話:ウィキ
<ギガントゴーレム>
種別:人造ゴーレム
全長:約30メートル
備考:ニードハット卿が開発したゴーレムコアを中心として、土中から収集した砂鉄から生成した鉄鋼を主成分として構成されている。巨体なため動きは鈍重だが極めて硬い。
ギガントゴーレムと呼ばれる巨大なゴーレムが陣達を阻む。
『ウォーターカッター!!』
『エクソス!疾風迅雷!!』
巨大な敵を前にしても怯むことなく攻撃を放つマリアとランスロット。
「くっ!やはりダメか…」
「硬すぎますわね…」
しかし、あまりの硬度に二人の攻撃も歯が立たない。
「フォーフォッフォ!その程度の攻撃では傷一つつきませんね!」
いつの間にかゴーレムの肩に乗っていたニードハット卿が醜悪な笑顔を浮かべながら叫んでいる。
「(あの様子だと俺の魔法も効果はなさそうだな…)」
陣の魔法はマリアより多少威力が高いがそれでもあの巨体を切り裂けるとは思えなかった。
『ジンさま!あのね、たおしかたならあるよ!』
「なん…だと」
「ジン殿まだあきらめるのは早いです」
思わず声を出してしまいランスロットに勘違いされる。
「そ、そうだな、まだやれることはあるはずだ」
「(おい球体、そのたおしかたを聞こう)」
『うん!いまから頭のなかに絵をおくるね』
「(絵って…うおおおおおおおお)」
球体の言葉とほぼ同時に脳内でイメージが展開される。
感覚としては閃きにも似た感じだが情報量が桁違いだ。閃きが一瞬のフラッシュのようなものだとすれば球体から送られてくるものは情報の洪水ともいえるものだ。
しかし、不思議なことに膨大な情報量にも関わらず一つ一つの情報に焦点を合わせることが可能で、そのすべてを事細かに読み取ることが出来た。
『とどいた?』
「(届いたが…こんなこと本当に出来るのか…?)」
『いまのジンさまなら、できるよ』
『……やってみる?』
「ロマンだ…」
思わず言葉が漏れる。
「ジン様大丈夫ですか?」
陣の様子を不審に思ったマリアに尋ねられる。
「あ、あぁ…大丈夫だ、マリアに頼みがあるんだが」
球体の提示した攻撃手段を実行する前に準備を整えなくてはいけなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうだ?出来るか?」
「えぇ…可能ですがそれで本当にあのゴーレムをどうにかできるのでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ」
陣の自信に満ちた目を見てマリアが頷く。
「ジン殿何か作戦がおありで?」
一人でギガントゴーレムを牽制していたランスロットが状況を確認する。
「あとは俺に任せとけ、ランスロットは姫様の援護を頼む」
「承知した!」
そういうとランスロットはマリアと共に後方に下がった。
「フォーフォッフォ、覚悟が決まったようですね。このギガントゴーレムにすり潰される覚悟が!」
「あぁ決まったぜ!お前の最高傑作とやらをぶっ壊す作戦がな!」
キリッと少年漫画の主人公のようなセリフを決める。普段なら恥ずかしくて絶対にやらないがこれから実行するロマン攻撃に興奮した陣は止まらない。
「何を馬鹿なことを…!いいでしょう、もう日も昇って暑くなってきましたし、お望み通り終わりにしましょう」
いつの間にか額に浮いた汗をハンカチで拭いながらニードハット卿が戦闘の終わりを宣言する。
「ずいぶん暑そうだな、大丈夫か?」
その姿を見た陣がニヤっと笑いながら確認する。
「この程度の暑さで何を…ん?この臭いは?」
「大丈夫か?ずいぶん暑そうだぜ…燃えてるし」
ニヤニヤする陣の言葉を聞いてニードハット卿がハッとする。
「も、も、も、も、燃えてるうううう!!私のコートが!!帽子が!!!」
いつの間にかニードハット卿のお気に入りの帽子が発火し、そのままコートにまで引火していた。
「い、いったい何を!!」
「教えてやってもいいが、早くそこから逃げないと消し炭も残らないぞ、たぶん」
「この程度の炎を何を…」
そう言い切る前に気が付いてしまった。足元から伝わるゴーレムの異常な温度に。
「私のゴーレムがなぜ…熱!!!」
あっという間に立っていられないほどの熱がゴーレムからブーツを通して伝わってくる。
「熱い!熱!!くそおおおおおおおおおおおおお!!!」
ついに熱さに耐えられなくなりゴーレムの肩から飛び降り足元の川に着水した。
「ぶは!!この貧民め!!私を落としたところでゴーレムは止まらんぞ!!」
思いのほか水深が深かったらしくバシャバシャと泳ぎながら叫んでいる。
「そうだろうな、だから今からぶっ壊す…よーく見とけよ!」
「(球体!最大出力だ!)」
『うん、まかせて!』
ロマン狂と化した陣が球体に悪魔の命令を下す。
その瞬間周囲が一気に暗くなった。雲が太陽を隠したような暗さだったがそうではない。
暗くなったのは陣やニードハット卿の周囲だけでゴーレムの周囲は眩いばかりの光に包まれていたからだ。
遠くから見ればそこだけ光の柱が現れたように見えただろう。
そして次第に柱は細くなり同時に輝きを強めていく。
柱と呼ぶには細すぎ、輝きと呼ぶには眩すぎる、そんな幻想的な光景が一瞬現れそして。
「ジン殿危な…!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジン…さ…」
「…様…ジン様!!」
「デジャブ…か?」
いつの間に寝ていたのか、気が付くとマリアに膝枕されていた。
「よかった!気が付きましたわ!」
「ジン殿!よくご無事で!」
マリアとランスロットの心配が伝わってくるが状況が飲み込めない。
「(俺はいったい…)」
『おぼえてない?おっきな爆発にまきこまれて、ずっとねむってたんだよ』
「爆発…?そうだ!ゴーレムは!?」
球体の言葉で状況を思い出す。
「安心してください。ジン様の攻撃でゴーレムは完全に破壊されましたわ」
「あの凄まじい攻撃…ジン殿はいったい何をされたので?」
そういう二人の背後を見ると草花は燃え尽き、木は曲がり倒れ、地面は高熱による結晶化を起こしており、まるで爆心地のような光景が広がっていた。
「お、おう…マジかこれ、収斂発火こえええ…」
収斂発火とは、虫眼鏡で太陽の光を集めて紙に火をつけるあれである。
陣は収斂発火を利用してギガントゴーレムを破壊したのだが、その規模は虫眼鏡とは文字通り桁違いだ。
「(おい、マジで成層圏に巨大な虫眼鏡を作ったのか?)」
『うん!お水のまほうで、おそらのずーっと上に、氷のレンズをつくったの』
「(氷で凸型レンズって理屈はわかるが規模が凄まじいな…)」
『氷だからすぐとけちゃったけどね、あたったところは1500℃くらいになったはずだよ。えっへん』
「(ほとんど鉄の融点じゃねーか…マリアに水魔法で防御をお願いしてなかったらゴーレムと一緒に消し炭になってたところだ)」
攻撃の直前にマリアに水魔法による防御をお願いしていたのだ。
「それにしても…なんでしょう、先ほどから魔力の巡りが薄い気がしますわ。こんな感覚は初めてです」
マリアが不思議そうに自分の手のひらを眺めている。
『あー…あのね、おっきなまほうをつかったから、このあたりの“まほうのもと”がすっからかんになっちゃったの。もとにもどるまで、このへんでは、まほうはおやすみ』
「(まほうのもと?…魔法って使い放題じゃないのか)」
『ちがうよ。まほうはね、タダじゃないの。……くわしくは、また今度ね』
「(おい、気になる言い方するなよ…)」
使った分だけ、どこかから何かが減っている——研究者としては聞き捨てならない話だが、追及は後回しだ。
「そういえばニードハット卿はどうなったんだ?」
念のためマリアにニードハット卿の防御も任せていたため消し炭にはなっていないと思うが姿が見えない。
「自慢のゴーレムが完全に破壊されて戦意を失ったようですわ」
「意識を取り戻すと同時に逃げていきましたの」
ニコニコと笑顔が可愛らしいマリアが教えてくれた。
「あれだけの攻撃を見せつけたのでしばらくは追ってこないでしょう」
「ジン殿の活躍のお蔭です」
「(なんとか切り抜けたが一つ未解決の問題がある)」
『? もんだいはぜんぶ解決したよ?』
「(お前の名前だよ、球体ってのは呼びにくいんだ)」
『! じゃあ、すきなお名前をつけて!』
球体が、心なしか嬉しそうに明滅する。
「(任意か…こういうの苦手なんだが)」
『あのね、ジンさまの頭のなかから、いちばんぴったりなのをみつけてあるの』
「(おいおい、頭の中を覗いたのか?まぁいいや自分の名前くらい自分で決めてくれ)」
『きょうからわたしのこと、「ウィキ」ってよんでね!』
「(ウィキって…あー、なるほど。何でも知ってる百科事典サマってか。自分で付けといて大きく出たな)」
『うん!わたし、まちがえません!』
「(はいはい。これからよろしく頼むよ、ウィキ)」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
——同じ頃、神都サロマ。大聖堂の最深部。
千年の間、選ばれた巫女にしか応えなかったモノリスの間で、夜番の老司祭が腰を抜かしていた。
石版が、誰もいないのに光っている。
『管理者権限:全解放ヲ確認』
『統合管理者ノ覚醒ヲ確認』
流れ続ける光の文字を、読める者はこの場にいない。
ただ一つ確かなのは——千年のあいだ沈黙していた「何か」が、目を覚ましたということだった。




