第5話:球体
「…きこえる…?」
「…つながった…おきて…おきてください…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぁ~…もう朝か…」
『ちがうよ。いまは夜中の2時』
「ん?マリア…じゃなさそうだな」
目をこすりながら声の主を探してあたりを見回す。
しかし、目の前には寝る前にあったはずの川もなく、それどころかあたり一面真っ白の謎空間だった。
「おいおい…異世界転移の次はなんだ?ついに次元の狭間にでも飛ばされたんじゃ…」
『ちがうってば。ここはジンさまの夢のなか。その、いちばん奥っこだよ』
また、どこからともなく声がする。幼い少女のような声だが、言うことはいちいち妙に正確だった。
「夢の中?というかあんたは何者だ?」
『えっとね、ひとつめのこたえ。ジンさまはいまぐっすり眠ってて、わたしがちょっとだけお邪魔してるの』
『ふたつめのこたえは……いまはまだ、いえません』
「…つまり俺は夢の中で身元不明の誰かさんとご対面してると…姿は見えないが」
『見えるよ。ジンさまの目の前にいるもん』
そういう声に従い目を凝らす、すると真っ白な空間の中、丁度陣の目の前に白い球体が浮遊していることがわかった。
「ガラス玉…って訳じゃなさそうだな」
ふわふわと浮いている球体は光沢をもっており一見大きな真珠のようにも見えるが野球のボールほどのサイズがある。
「で、その名無しの球体さんが俺の夢に訪ねてきた理由はなんだ?」
『あのね、ジンさまにお願いがあって来たの。とっても、だいじなお願い』
「お願い?ちょっと待て、もしかして俺をこの世界に呼んだのはお前なのか?」
『うん。ジンさまをここに連れてきたのは、わたし』
「おいおい…ずいぶんあっさりだな」
ずっと考えていた現象と原因に対する答えが突然謎の存在によってあっさりと告げられてしまった。
『それでね、お願いはふたつあるの。ひとつめ、この世界をすくってほしいの。ふたつめ、そのためにジンさまに——』
「おいおいおいおい、ちょっと待て!」
『はーい』
素直に口をつぐむ球体。しかし、突然押し付けられた情報に陣の思考が追い付かない。
「世界を救えって言うのか?俺に?」
『うん。いまね、世界じゅうでモンスターがどんどん増えてるの。ほうっておくと、にんげんがいなくなっちゃう』
「だから説明は待てって」
『はーい』
隙あらば説明を続けようとする球体をどうにか制止する。
「一つずつ確認させてくれ、いいか?」
『うん!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
球体によるとこうだ。
この世界では現在モンスターの異常な増殖が発生しており、そのモンスターが近い将来人間を絶滅に追いやってしまう。
それを回避するためには、モンスター増殖の核となっているモンスターの討伐が必要。
陣はそのためにこの世界に転移させられたらしい。
『ふやしてるおおもとのモンスターがいるの。よんでみるね——コアモンスター!』
『コアモンスターは3びき。おたがいに影響しあって、モンスターをどんどんふやしてるんだとおもう』
「コアモンスターね…ボスみたいなもんか」
『それでね、ジンさまには特別な力をわたしてあるの。こっちに来てもらったときに、いっしょに』
「特別な力?それってこの世界のやつらがミラの適合者とか呼んでるやつじゃないだろうな?」
『うん、それ!ジンさまにわたしたのは、いつも適合者さんにわたす力だよ』
「やっぱりか…はぁ…」
完全に想定通りの結論に思わずため息がでる。夢の中でため息というのも変な話なのだが。
「そういえば魔法を使った時に頭の中で聞こえた『認証しました』ってのもお前の仕業か?」
『うん、わたし!ジンさまがはじめて魔法をつかうから、ちゃんと見ててあげたの』
「あの時から見られてたのかよ…というかあの声、今とずいぶん違わないか?愛想がなかったぞ」
『おしごとのときは、ちゃんとした声でやるって決まってるの』
「(何の決まりだよ…)」
「その力なんだが元の持ち主に返すことは出来ないのか?ほら、俺に世界を救うってのも無理な話だし」
『だめ!かえしちゃったら、うまくいくみこみは0.01%もないの。ジンさまがもってれば、23.6%!』
「なんて微妙な数値だ…」
微妙とは言いつつ具体的な数値を出されたことで反論が難しく感じてしまう。
「そもそも何で俺なんだ?この世界の人間にやらせればいいだろ?」
『あのね、この世界のひとだと、どんなにがんばってもあの力と70%くらいしか仲良くなれないの。ジンさまは100%。ぴったりさんなの!』
「100%!?なんだよそれ間違いじゃないのか?」
『ちがうもん。わたし、まちがえません!』
「お、おう…」
論点のすり替えから打開策を模索したが、自信満々に言い切る球体を前に思わず考える。
「(異世界を救うために転移させられただと?)」
「(特別な力(権限)を与えられて、しかもその力との適合率が100%?)」
「ロマンだな…」
この場に同僚だった真理がいれば「ロマンバカ」と馬鹿にされたことだろう。
「やってやろうじゃないか!世界だってなんだって救ってやるよ」
『! ありがとう、ジンさま!』
球体が、ぱっと明るく光った。……ように見えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「とは言ったものの、俺は何をすればいいんだ?」
ひとしきりロマンに燃えたところで冷静に今後のことを考える。
『まずは、ウェンスのダンジョンにいるコアモンスターをたおしてほしいの』
「ウェンスっていうと丁度向かっているダンジョン都市だったな」
『うん。マリアさまとランスロットさんと、3人でダンジョンにいくことになるよ』
不意にリア充カップルの名前が出てきたことに驚く。
「ダンジョン攻略に人手がいるってことか?だとしても二人の目的と合致しなければ一緒には行けないだろ」
『だいじょうぶ。3人でいくことになるの』
「なるの。って…自信満々だけど、文句を言ってもまた「まちがえません」ってことなんだろ?」
『うん!わたし、まちがえません!』
「はいはい、わかったよ」
球体の自信に気圧されてこれ以上の問答は無意味と考えた。
「そうだ、ふたつめの答えをまだ聞いてないぞ。お前は何者なんだ?神様…って柄でもなさそうだが」
『わたしは……この世界の、おせわがかり。かな』
「お世話係ねぇ…じゃあお前を作ったのは誰だ?誰に頼まれて俺を呼んだ?」
『それはね……』
初めて、球体の返事に間が空いた。
『……おもいだせないの。だいじなところが、こわれちゃってて。つくってくれたひとの顔も、名前も、みーんな』
「おいおい…それ、記憶喪失ってことか?」
『ちがう……ううん。ちょっとだけ、あってる』
心なしか、球体の光が弱くなった気がした。
『でもね、ジンさまをよぶことは、ずっとずーっと前から決まってたことなの。わたしが決めたんじゃなくて、もっともっと前から。だれが決めたのかは……おもいだせないけど』
「(つまり…誰かが俺を名指しでこの世界に呼んだ、ってことか。そしてその誰かのことを、こいつは忘れてる、と)」
謎が謎を呼ぶ展開に頭を抱えたくなるが、夢の中で考え込んでも仕方がない。
「じゃあ俺は目が覚めたら予定通りマリアたちとウェンスに向かえばいいんだな」
『うん!……あ、もうすぐ朝だよ』
「そうか、またお前と話すにはどうしたらいい?」
『だいじょうぶ。おきたら、ジンさまの力をぜんぶひらいておくね。そしたらいつでもわたしとおはなしできるよ。それとね、この世界のいろんなものと——』
「待て待て待て待て、一気に言うなって…」
『はーい。とにかく、よびたくなったら心のなかでよんでね。すぐ来るから!』
「呼ぶって、犬か猫かお前は…」
『あっ。おきちゃう。またね、ジンさま!』
「ちょっと待て、まだ聞きたいことが…」
陣の願いも空しく周りの白い空間がサラサラと崩れていく、ついに床まで崩れてしまい陣の体重を支えるものが無くなった。
「あっ」という声だけ残して落下する陣、見上げるとまだ球体が浮いていたが突然光を放ち目の前を真っ白に染める。




