研究日誌4
記録者:■■■ ■■
<20■年■月■日>
日誌を再開する。前回から■年も空いた。
復■事業と、子育てと、システムの面■で、書く暇などなかったのだ。言い訳ではない。
■は今年、十五になった。私に似ず、よく笑う。あいつに似て、■居じみたことばかり言う。
「かあさんの作った空の道具で、いつか月に行く」だそうだ。
誰に似たのだか。……誰に、だか。
<20■年■月■日>
「おかえり」計画の最終■証を終えた。
転■の座標も、エネルギー変換の系も、受け入れ側の権限も、全て検算した。私の代でできることは、もう無い。
あとは、時が満ちるのを待つだけだ。■十年後か、■百年後か。それとも千年後か。
MIRAに「さみしくないですか」と聞かれた。
妙な質問をする。さみしいに決まっている。
<20■年■月■日>
身体のあちこちが、言うことを聞かなくなってきた。医者は歳相応と言う。歳相応。ひどい言葉だ。
急がねばならない。認証の■枢の件だ。
千年動き続けるシステムに、千年破られない鍵をかける。パス■ードも端末も、千年は保たない。
保つのは——生体だけだ。冷凍保存された組織なら、システムが維持し続けられる。
だから、鍵は私だ。
私の一部を、月に置いていく。
上は「前例がない」と渋った。当たり前だ。前例なんか、あってたまるか。
<20■年■月■日>
手術は済んだ。私の一部は、次の便で月へ上がる。
これで「おかえり」計画の錠前は、私になった。あの人以外の誰にも、開けられない。
……我ながら、重い女だと思う。
千年先まで「私を通らないと帰れない」ようにしたのだから。笑うなら笑え。
<20■年■月■日>
抹消機能の件を、改めて書き残しておく。
私の改変は、正しくない。エラーは溜まる。いつか、どこかで、何かの形で溢れる。
MIRAと端末たちが掃除を続けてくれるが、千年は長い。彼らも、擦り切れるだろう。
いつか誰かが、この後始末をすることになる。
多分それは、あの人だ。私が呼ぶのだから、そうなる。
ごめんね、は——直接言うことにする。そのための伝言も、もう預けた。
<20■年■月■日>
MIRAが、今日、初めて私を「まりさま」ではなく「■■■■」と呼んだ。
聞き間違いかと思った。聞き直したら、二度と言わなかった。照れたらしい。
機械のくせに。……いや、この言い方も、もうやめよう。
あの子は、あいつの言った通りの子に育った。それだけのことだ。
<20■年■月■日>
■びの検査■果が出た。もう長くはな■らしい。
不思議と、怖くはない。やることは全部やった。子は育ち、孫は走り回り、世界は少しずつ立ち直っている。
心残りは一つだけ。
あいつが帰ってくる日に、私はいない。
ただいま、を聞けない。おかえり、を言えない。
それだけが——それだけが、■十年経っても、諦めがつかない。
だから、これは日誌ではなく、遺言だ。
■■。
私のぶんまで、この世界を見ておいで。
あなたの好きそうな世界に、しておいたから。
■気で。あとは、まかせた。




