↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/45

第34話:千年鶴(後編)

月夜の空を、黒く膨れた白い巨鳥が乱舞する。


「来るぞ!散れ!!」


急降下。嘴が管制棟の屋根の端を砕き、破片が雨と降る。

もはや昨日の様子見とは別物だった。狂乱した千年鶴は、動くもの全てに牙を——嘴を剥いていた。


「ジン様!仕込みを!」


「二手に分ける!マリア、あんたは俺と霧だ!ランスロットは囮——すまん、また一番きつい役だ!」


「慣れた!!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


作戦「初雪」。ぶっつけ本番、成功率は考えない。


第一段——マリアと陣、二人がかりの全力で、射場跡の上空に霧を張る。


「『我が権限に基づき命ずる ウォーターミスト』!!」


生成された無数の水滴が、夜気に触れて急速に冷えていく。

北の海の、凍てつく風。それが今夜だけは、最強の味方だった。


「(凍るなよ……凍るなよ……静かに、静かに冷えろ……)」


衝撃を与えなければ、水は氷点下でも凍らない。過冷却の霧——見た目はただの夜霧が、射場の空をゆっくりと満たしていく。


「ジン様、これ以上の維持は…!」


「十分だ!——ランスロット!!客を霧に呼び込め!!」


「承知ォ!!」


第二段——囮の疾走。


『ミラリスの権限に基づき命ずる エクソス!!』


疾風が、霧の下を駆け抜ける。挑発の口笛。投げられた石が、鶴の頭に当たって弾けた。

疾走する鎧が見る間に白く凍りついていくが——構うものか、とばかりに速度は落ちない。


——ォォォォォッ!!


狂乱の白い巨体が、翻った。急降下。ランスロットただ一点を目掛けて、霧の中へ——


突っ込んだ。


「(今だ。何かにぶつかった過冷却水は————一気に、凍る!)」


それは、静かな光景だった。


霧を切り裂いた白い翼が、みるみる白さを増していく。

羽毛の一本一本に触れた霧の粒が、触れた端から氷に変わる。

羽ばたけば羽ばたくほど、自らの起こす風が新たな霧を呼び込み、氷は厚く、重く——


——ォォ……!?


千年鶴の飛翔が、初めて乱れた。


翼が、上がらない。氷の鎧を纏った五十メートルの翼は、もはや空気を掴めない。


「落ちるぞ!!総員、退避ィ!!」


轟音。

氷の翼の巨体が、射場跡の中央に墜落した。大地が跳ね、霧が晴れる。


「今だ!ランスロット、翼の付け根!瘤の装甲を開けろ!!」


「オオオオォォ!!」


疾風の刺突が、もがく巨体の胸——ひときわ膨れた黒い瘤に、深々と亀裂を刻む。


「マリア!その亀裂、コアまで抉じ開けろ!」


「『我が権限に基づき命ずる ウォーターカッター』!!」


第三段——マリアの水刃が、ランスロットの穿った亀裂をコアの表面まで正確に刻み広げる。

黒く濡れた核が、露わになった。


そして、第四段。


陣は、右手の指先を、剥き出しになった核——熱を持って濡れたコアへ、そっと押し当てた。


「(湖ん時と違って、今回は絞る。巨体を消し飛ばさず、コアだけを止める、最小の一撃だ)」


「『我が権限に基づき命ずる——ディスチャージ』」


【認証しました】


閃光は、細かった。

指先からコアへ流れ込んだ雷は、鶴の体液を伝って過たず核を灼き——黒い瘤という瘤が、内側から静かに崩れ始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


千年鶴は、暴れなかった。


氷の翼を投げ出したまま、長い首をゆっくりと持ち上げ——月を、見た。


黒い粒子が、雪が逆さに降るように、巨体から夜空へ立ち上っていく。

瘤が崩れ、枷が外れ、白い羽毛が月光に晒されていく。


そして。


——ォォ………………ン。


最後にひとつ、長く鳴いた。


千年続いた「いたいよ」ではない、と。

それだけは、その場の誰にも、はっきりと分かった。


『……いまの、ね』


ウィキが、涙声で通訳した。


『「きこえてたよ」って。……おつきさまが、さいごに、へんじをしたの』


白い巨体は、月を見上げたまま、静かに動かなくなった。


氷が、月明かりできらきらと光っていた。

それはどこか、羽衣のようだった。


「————お疲れさん。千年、ずっと」


陣は、深く、頭を下げた。

マリアが祈りを捧げ、ランスロットが剣を胸に当てる。


風の音だけが、浜に戻ってきた。

千年ぶりの、鳴き声のない夜だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『——モンスターのはっせい、すべて、とまったよ』


管制棟に戻る道すがら、ウィキが静かに報告した。


『3びき、ぜんぶ。……ジンさまのミッション、これで————』


言い終わる前に、だった。


管制棟の窓という窓が、一斉に光を放った。


「なんだ!?」


駆け込んだ管制室では、全ての画面が起動していた。

中央の巨大画面に、大きく、文字が浮かんでいる。


『全コアノ停止ヲ確認シマシタ』


『対症フェーズ、完了』


『——最終フェーズへ移行シマス』


「(最終、フェーズ……?)」


『じ、ジンさま、わたし、こんなの、しらない……!』


画面の文字が、切り替わる。


『根本原因の除去について——管理者の決裁を要求します』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。