俺は魔法をかけられた
『記憶喪失少女は、それでも生きていく』番外編。
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目を覚ますと、俺はある部屋で寝ていた。
窓の外では、太陽が昇り始めていた。
……朝か?
……しまった。
昨日の報告会に出られていない。
絶対にみんなに心配されているはずだ。
右の翼を動かしてみると、痛みは残っているが、耐えられる。
俺はすぐに風の魔法でジルに事情を伝えた。
……異界の人間に襲われ、負傷したこと。
……そして、別の異界の人間に助けられたこと。
……負傷により、今は任務を遂行できないこと。
……鳥の姿では、完治まで数日かかる見込み。
伝え終えると、俺は部屋を見回した。
俺は机の上に寝かされていた。
小さな柔らかい布団の上で寝ていて、タオルまでかけられていた。
……丁寧だな。
部屋には、ベッドや本棚、机と椅子が並んでいた。
……寝室か?
ベッドの上には、誰かが寝ていた。
頭まで布団をかぶっていて、顔は見えない。
ベッドへ飛ぼうとした瞬間、右の翼に痛みが走った。
俺はそのまま、布団の上で、その人物が起きるのを待つことにした。
……
なかなか起きない。
どのくらい経ったのだろうか。
さっきまで太陽は少し顔を出したばかりだったのに、今はもう強い光が部屋を照らしていた。
「……おい、起きろ」
俺はその人物に声をかけた。
「……」
まったく動かない。
……生きているのか?
「……おい!起きろ!」
「……」
……どうやら、自分の鳥のさえずり声では、この人物を起こせないようだ。
……さらに待つ。
どのくらい経ったのか。
——コンコン!
……ビクッ!
驚いて、羽がぶわっと逆立った。
「あずか、起きなさい」
昨日の母親が部屋に入り、その人物の体を強く揺らした。
……あずかなのか。
「……」
「いつまで寝るつもり!?もう十時よ!起きなさい!」
「……あと、五分」
「起きなさい!ペットショップに行くでしょう!?」
今度は母親が、あずかの手を引っ張り、ベッドから引き剝がした。
……ぺっとしょっぷ?
なんだ、それ?
「あんた、何時寝たの?ご飯を食べたら、すぐ出るよ」
あずかは眠たそうに目をこすりながら、しばらくぼんやりしていた。
そして、目を見開いた。
「……あっ!ペットショップ!
も——————う!
早く起こしてよ、お母さん!痛っ!」
母親は軽くあずかの頭を小突いた。
「いいから、さっさと準備しなさい。鳥のほうがあんたより、早起きしているんじゃないの」
母親は俺を見て言った。
あずかは俺のほうへ視線を向けた。
「……あっ!ソラだ!もう起きたの?」
そう言って、嬉しそうに駆け寄って来た。
「早く準備しなさいよ」
母親は部屋を出ていった。
「ソラ、おはよう~。傷はもう大丈夫?まだ痛い?」
……そら?
なんだ、それ?
あずかは可愛らしい笑みを浮かべ、優しく俺の頭を撫でた。
俺は小さく首を横に振った。
「……うん?……あれ?今私の言ったことわかったの?
……そんなわけないか。たまたまかな」
あずかは首を傾げ、そして小さく笑った。
……不思議な子だ。
「お父さんとお母さんは、ソラを飼ってもいいって許可してくれたよ。
これから一緒に、山村家で暮らそうね」
あずかはそう言いながら、俺の頭を撫でた。
やまむら家?
あずか・やまむらという名前か。
……どこまでも優しい子だ。
……そら、とは?
「このあと、ペットショップに行くの。鳥かごとか餌とか、ソラの買い物をしてくるよ。
ちょっとだけ、ひとりでも大丈夫?」
……そら、とは俺のことか。
……ぺっとしょっぷ、とは何だろうか。
よくわからない言葉だが、俺は小さく首を縦に振った。
「本当にすごいね、私の話を理解してるみたい。ふふ〜可愛い〜」
あずかは嬉しそうに俺の頭を撫でた。
……優しくて、温かい手だ。
なぜか、心をぎゅっと掴まれたような気持ちになった。
……何なんだ、今。
あずかは部屋を出ていった。
しばらくすると、部屋に戻ってきた。
クローゼットの前に立つと、何のためらいもなく——
服を脱ぎ始めた。
……っ!
俺はすぐに顔を逸らした。
……まったく!
男の前なのだから、もっと警戒しろ!
俺は自分の鼓動を抑えながら、あずかの着替えが終わるまで、ずっと窓の外を眺めていた。
「じゃあ、行ってくるね」
あずかは俺の頭を撫でた。
俺の世界とは、まったく違う服を着ていた。
濃い青色の長ズボンに、
袖のない白い服。
黒髪は腰まで伸び、小さな髪飾りをつけていた。
年相応の可愛らしい服だった。
あずかの黒い髪と瞳。
これは、おそらく異界の人間の特徴だろうか。
この世界に来てから見た異界の人間はほとんど黒髪に黒目だった。
あずかも例外ではない。
だが、あずかだけは、不思議と強く印象に残る。
純粋な黒い瞳は、なぜか目が離せない。
髪も艶やかで、触れたらどれほど心地良いのだろうか。
……なぜか、人の姿でいられないことが、少し惜しく思えた。
「水とご飯をここに置いとくね。すぐ戻ってくるから、心配しないでね!」
あずかは再び俺の頭を撫で、鞄を掴んで部屋を出ていった。
……だが、すぐ戻ってきた。
「ソラの写真を撮らなきゃ」
あずかは言いながら、鞄から四角い道具を取り出した。
あずかの手に収まるほどの大きさだ。
……何だ、それ?
「ペットショップの人にソラを見せないと。餌の種類を知らないの」
——パシャッ!
その道具から、耳障りな音が鳴った。
……俺、今、何かの魔法をかけられたのか?
「行ってくるね!」
あずかは再び部屋を出ていった。
今度は、すぐには戻ってこなかった。
部屋は静まり返った。
あずかの声は透き通っていて、心地良い。
あずかがいないと——
寂しく感じる。
……やはり俺は。
魔法をかけられたのか。
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